言えない。言い出せないよぅ!
「怪盗ヘルメスは、神器『破城壁槌』を狙っているの!」
「ほ、ほう」
「『破城壁槌』はテッシンの国宝! それに、アカハガネの基礎を作った大事な神器なの!」
「そ、そうなの?」
「ウチのこの町が、この国があるのは間違いなく『破城壁槌』のおかげ……ドワーフ達の魂の礎といってもいい代物なの。それを狙うなんて……っ」
「た、大変だねぇ」
お酒飲んでての約束だから無効、とかいうわけには……あ、無理ですよねー。
だってここドワーフの国だもん。酒飲んでてデフォだぜ。
「ええ。だから絶対守らなきゃ。カリちゃんの協力が得られて嬉しい!」
ぱぁっと可愛らしい笑顔のミーちゃん。
……ごめん、私もそれ狙ってるんだ、とは言えない。言い出せないよぅ!
「あ、アイシアぁ……」
「あるじ様がホイホイ安請け合いするから……」
はぁ、とため息をつくアイシア。ごめんね考えなしのご主人様で!
「どうしたの、カリちゃん? 少し顔色悪いよ?」
「あー、うー、な、なんでもないよっ! 私に任せてっ!」
「きゃー! さすがウチのカリちゃん頼もしいっ! 大好きっ!」
ミーちゃんに抱き着かれつつ私は冷や汗をかいていた。
うぇーん、どうしよーこれぇ……!!
「……お姉さん、ここは一度話を聞いてみるしかないのでは?」
「そ、そうだねディア君! ヘルメスってどういうやつなの? 教えてミーちゃん!」
とりあえず私はもう少し話を聞いてみることにした。
「ヘルメスは、様々な魔道具や魔法、スキルを駆使して盗みを働く怪盗よ。狙ったお宝は必ず盗むの。それも、予告状を出して、ね」
「……へー、カッコいいねぇ?」
「確かに物語の題材としては人気だけれど! 予告状を出された方はたまったもんじゃないわ! 警備を厳重にしてもそれをあざ笑うかのように盗んでいくんだから!」
たしったしっと可愛い地団駄を踏むミーちゃん。
「それに、ヘルメスは悪人からしか盗みを働かないという話なの」
「へぇ? あれ、ミーちゃんって悪人だったの?」
「違うよっ! あ、いや、多少はあくどいこともしてきたけど……ウチは法はちゃんと守ってるし、公共福祉にも力を入れてここを治めてるもんっ! 信じてカリちゃん!」
わー、ちょっと信じがたいー。けど信じちゃう。だって可愛い奥様だもん。
「つまり、狙われた時点でそういう醜聞もついてくるから余計厄介だと」
「そうなの。この上『破城壁槌』を盗まれたら……ウチ、色々とおしまいなのよぅ……」
なるほどなるほど。
……
いやマジでどうしようこれ。神器もってったら奥様が失脚? みたいな?
なんか私としては持ってくわけにいかなくなったような……
「カリちゃんが助けてくれないと、……ウチ、責任を取らされて処刑されちゃうかも」
「絶ッッッ対に守ってあげるからねっ!」
「本当!? わぁーい!」
わー、かわいい。守りたい、この笑顔!
……って、『破城壁槌』の警備をすることになってしまった。
恐るべしミーちゃん。なんという小悪魔!
「バーミリオン様、だいぶ若返ったとはいえこの言動は……」
「お歳を考えたら……ちょっとキツくね? ババア無理すんな」
「そうか、人間だからドワーフの年齢分からないんだな。可哀そうに」
オイこらヒゲども! 確かに分かんねぇけど! 私の奥様の悪口言ってるのはわかるぞ!
と、私が睨む前に、ミーちゃんがにこっと笑顔を向けるとヒゲ連中は怯んだ。ははっ、幼女の微笑みに気圧されてやんの。やーいやーい。
「あ。カリちゃんは『破城壁槌』見たことある? ないの? じゃあ今から一緒に見に行こっ!」
「あ、うん」
「えへへ、デートだねカリちゃんっ!」
私はミーちゃんに腕を引っ張られるがまま、美術館の奥へと連れていかれる。
「……お姉さんがどんどん沼に嵌ってる気がします」
『っすね。まぁ姐さんにはきっと深い考えが……ないかも?』
「あるじ様ですし、なんとでもなりますよ。だってあるじ様ですよ?」
三人ともいいから一緒にきて、私だけだとミーちゃんの小悪魔な強引さに逆らえないんだよぅっ!
(以下お知らせ)
公式X(旧ツイッター)アカウントの方、サティたんの情報が追加されてました。
サティたんかわよ。サティたんの靴下は神様のお気に入り。すごくくさい。
公式アカウントへのリンクは↓の表紙絵をクリック!








