どうだ、父ちゃん物知りだろ?
洞窟を進むと、とても大きく開けた場所があった。
天井の開いたドームのようになっていて、上には空が見えている。
石造りの灰色で四角い建物が並んでいた。畑もある。
この里は岩山の山頂をくりぬいて、コップのようになった底に作られているようだ。
「こんな場所で飲み水とかってどうしてんの? 雨水?」
「え? 魔法ですけど」
魔法って便利。
さて、そうして案内されたのは並んだ建物の中でも一回り大きい里長の家――もとい、里長の部屋らしい。
里全体でひとつの家というイメージで、建物ひとつひとつは『部屋』だそうな。
手土産の酒を渡しながら挨拶したところ、アイシアやサティたんの父親(血縁的にはともかく里長が父親で他は大体近い年代なら兄弟姉妹という雑な扱い)の里長、ラフマンさんは諸手を挙げて私達を歓迎してくれた。
「よう来なすったお客人。歓迎しよう!」
立派な赤鬚の筋肉モリモリドワーフさんだ。
その手には既に蓋の開いた酒瓶があった。今渡したのにもう飲んでる。
というか「挨拶して喉が渇いたな」と、くいっと引っ掛けてる。
「父ちゃん、はしゃぎすぎ」
「とはいうがなパステル。そもそもアイシアはもう死んだかと諦めてただろ? それが酒、もといこんな美しいお嬢さん方と一緒に里帰りしてくるとは思わなかったしな」
サティたんの妹のパステルちゃん――こっちはサティたん同様純粋なドワーフで、褐色赤髪だった。顔つきが違う程度で体格差もほぼなし――が里長を諫める。
あと今酒って言ったな。本音漏れてるぞ。
「あれ、それじゃあ私の部屋はもう無いんですか?」
「そもそもお前が里を出た翌日には片付けたぞ。今はガーナが娘と使ってる」
「え、ガーナ子供出来たの!?……妹に先を越された……っ」
おう、連絡してなかった実家では色々と家族関係に変化があったようだ。
確かに妹や弟が自分より先に子供産んだら色々複雑な心境にもなるわな。想像しかできないけど。
「奴隷落ちしたみたいだが、元気そうで安心したぞアイシア」
「うん。あ、先に言っておくけど私はあるじ様の庇護から抜ける気一切ないからね。余計な気を回したらむしろ死ぬと思って」
「……ドラゴン従えてるお人にそんなことするわけないじゃないか。相変わらず発想が怖いな、誰に似たんだ?」
私もこんなアイシア初めて見たよ。新鮮だぁ。
え? 何ディア君?……あー、余計な気を、って、私を暗殺ってこと? 補足ありがとう。いやー、アイシアこの里に来てからホント生き生きしてるなぁ。
「しかしあれだ。ドワーフの里に連れてきたということは、3人で酒宴に参加するってことか?」
「え、あー、うーん。どうしましょうあるじ様? 参加します?」
「酒宴? アイシア生還のお祝い? なら折角だし参加しようかなぁ」
「あ、いえ。里外の人に分かりやすく言うなら――あー、年に一度のお見合いパーティー、みたいな? 肉体関係を伴うやつですが」
「あ、やっぱいいです」
早速ドワーフの奔放文化の洗礼を浴びるところだったよ。
ちらっとディア君を見ると、顔を赤くしていた。
大丈夫、ディア君は私が守るよ! マシロさんとも約束したもん!
「そうだな。種をまくだけでいい男ならともかく、女じゃな。それにそっちのエルフさんはまだ孕めるかどうかも怪しいはずだ。この背丈でドワーフだったら立派な女だが、エルフ的にはまだ子供のはず。……どうだ、父ちゃん物知りだろ?」
「あー、父ちゃん。ディア様は一応男です」
「何!? ……え? どう見ても女なのだが。なぜ女の格好を? エルフの文化か?」
「……深い事情があるんです」
ちなみに「流石に男でも髭の生えてない子供は参加させないぞ」とのこと。
よかったねディア君、貞操は守られたよ!
(不定期更新がすぎるのですが、書籍化作業が進んでます。
いつ情報出せるかわからんのだけど、イラストがいいぞ……)








