居るのか、とんでもねぇバカ
ロゼッタの町で一晩明けたところ、収納空間拠点のリビングに樽がゴロゴロと何個も置かれていた。
「えっ、アイシアなにその樽。まさか全部お酒?」
「え? やだなぁあるじ様。これはジュースです、ジュース!」
「つまりお酒ってことじゃん」
町で買い物をさせていたアイシアが大量の酒を買いこんできたようだ。
この量のお酒、無免許では間違いなく違法な取引。グレーゾーンが法外すぎるぞ、恐るべしドワーフの国。
でも一体どこにそんなお金が――
「先日、ヒーラー氏として奴隷商で治療をした報酬で頂いた金貨を使いました」
――そうだった。先日ソラシドーレの奴隷商との約束を果たして、月一の治療を行ってやったのだ。
一人当たり金貨5枚を5人分。元手がタダの金貨25枚のボロ儲け。
んで、そんだけ稼いじゃったら、アイシアが奴隷とはいえ無償で働かせるのも、と思ったので金貨5枚あげたのだ。
「え、あれアイシアへのお小遣いのつもりだったんだけど?」
「あるじ様のために自由に使っていいお金として私が使える資金、ということにしておいてください。というか私を5回買える額をお小遣いにされても複雑です」
うん、しかもキャッシュバックで実質無料になっちゃったしねアイシア。
「おいカリーナ。そもそも金貨は奴隷に小遣いで渡すもんじゃねぇだろ」
マシロさんにコツンと頭を小突かれた。
あらいらっしゃい。来てたのね。お風呂上り?
「だ、だってぇ。アイシアが居なきゃヒーラー氏はできないし? 裏切らないようにするためのご褒美は大事だよ?」
「バカか。奴隷が金持ったら自分を買い戻しちまうだろ。アイシアが忠実なヤツで助かったな」
「そうだね。アイシア、大好きだよ」
「私もですあるじ様!」
ぎゅっと抱き合う私とアイシア。ほんのりお酒臭い。ちょっと飲んできたな?
「というかマシロ様。あるじ様の御力を知っていて裏切るようなバカがいると思いますか? 世界の果てまで逃げても一瞬で捕まって報復を受けますよ?」
「……世の中にはとんでもねぇバカが居るから、そこはノーコメントにしとくわ」
「ドラゴンのアーサーでも理解して忠誠を誓うのに……」
「むしろドラゴンは賢いだろ。とんでもねぇバカと比べたら失礼だぞ」
遠い目をするマシロさん。居るのか、とんでもねぇバカ。獣人の国とかに。
「あるじ様。この樽の貯蔵庫を作っていただいてもよろしいですか? あ、時間は経過するタイプでお願いします。熟成が進むと美味しいやつなので」
「はーい、作ってー、ついでに樽全部移動させとくね。扉どこに置く? キッチンでいいかな」
「おい言ったそばから奴隷を甘やかしすぎだろカリーナ……まぁ常識が通じないのは今更か。野良ドラゴンをペットにしちまうくらいだしな」
ぽりぽりと頭をかくマシロさん。アーサー君が『お、自分のこと呼んだっすか?』と首をもたげてこちらを見る。呼んでねぇから座ってろ。
「ま、アイシアの故郷に行くわけだし、手土産はあったほうが良いでしょ」
「……ドワーフの里か。気をつけろよ? 特にディア坊だ。絶対に目を離すな。食われるぞ、性的な意味で。しかも男に」
げ、まじか。ディア君は私のなので絶対にガードしなければ……
……いやそうじゃなくて! クミンお姉さんから預かってる大切な子だから、しっかり守らないとだよね! うん!
と、そんなこんなで手土産を携えてロゼッタの町を後にした私たちは、アイシアの故郷へと寄ることにした。
道中? ドラゴンが襲い掛かってくるようなことはなかったし、特に語ることはないね。
(絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで、コミカライズ9巻が発売してました。)