ギュア
折れた牙を収納空間にポイして、一撃で倒れたドラゴンを観察する。
……お? ピクピクしてるけど普通にまだ息があるな。
「さすがドラゴン、私の無敵状態パンチを受けてまだ生きてるぜ」
まず大きさはウチの車魔道具より少し大きいくらい。全身黄土色、黄色っぽい茶色の鱗に覆われている。胴体は腹がちょっとぷっくりしている三角形なシルエット。伸びた首にドラゴン頭。2本の三角錐な角がカッコいいぜ。
手足はずんぐりむっくり。トカゲ、いやワニだな。ワニの手足っぽい。背中からしっぽにかけてもワニの荒々しい鱗な感じ。
背中の羽は身体程度に大きい蝙蝠系の飛膜羽。航空力学的にはこれで飛べると思えないのだけど、魔法でも使ってたのだろうね。
「これがこの世界のドラゴンかぁー。全体的にちゃんとドラゴンしてていいじゃないのコレ。剥製にしてみようかな? どうやって作るか知らんけど」
鱗の大きさは……一枚べりっとはがしてみると8cmくらい。曲げるとある程度までは柔らかいが途中から急激に固くなる。鎧向けって感じ? いい素材になりそうだ。
そういや、殴ったけど鱗は割れてなかったな。アゴの骨は折れたっぽいけど。
「ギュアッ!」
「おっと、目を覚ましたか」
しゅばっと起き上がり、私から距離を取って対峙するドラゴン。……さぁ、第二ラウンドの開始だ!
「ギュガァァァ……!」
「んんんっ……!?」
意気込んでいた私に対し、ドラゴンはスッと頭を上げ、そのまま仰向けにばたーんと倒れた。いや車くらいの大きさだからずしーんが正解かもしれん。ずしーん。
「……何だコイツ。ここから出せる必殺技でもあるのか?」
「ギュアグ……」
「え、何? 何もしないの?」
「ギュア」
仰向けになったままコクコクと頷いているサンダードラゴン。
「もしかして素直に降参してる?」
「ギュア」
引き続きコクコクとうなずいている。
何コイツ、私の言葉が分かるってのか? ほう。人の言葉が分かるタイプのドラゴンだったか。
「よろしい、では少し話をしよう。その結果如何では命は助けてやってもいい」
「ギュア!」
「お前は、人を殺したことがあるか?」
「……ギュア」
おっと、正直に頷いたぞ?
「ギ、ギィギィ! ギャギャ、ガゴォ!」
「うん? なんか言い訳してるっぽいけどドラゴン語はサッパリなんだ。あれだ、自分から襲ったわけじゃないとかそういう話?」
「ギュア!」
まぁ襲われたなら返り討ちにするくらいは仕方ないな。命狙われてそのまま殺されろという訳にもいかないし。
「じゃあさっきすれ違った馬車……馬じゃなくてイグアナっぽいのだったけど……を追いかけていたのはなんでだ?」
「ぎゃ、ぎゃう。ぎゃぉぉん」
鳴きながら、恥ずかしそうに顔を手で覆うドラゴン。
「……あー、ハイかイイエで答えられる質問じゃないと私が答えを聞いても分からんなぁ……『ギュア』が肯定で『ギィギィ』が否定、って感じなのは分かったけど」
「ギュア……」
つーかコッチの言葉分かるなら文字とか描けたりしないかな……流石に無理か。
『カリーナちゃん……カリーナちゃん……神様です』
「はっ!? この声は……神様!?」
なんか唐突に神託が降りてきた。街道のど真ん中なのに! きょろきょろ見回すが別段神棚があるはずもない。声が遠い気がするのは多分そのせいだ。
『カタログにドラゴン語スキルが載ってるのでここぞとばかりにおススメしとく……!』
「マジか。えーっと……あざっす?」
言われてSPカタログを開くと、確かに『スキル:ドラゴン語(50SP)』があった。……まぁ、現在かなり溜まってるし、50SPなら使ってもいいかな。
神様の思惑に乗る感じで少し癪だけど、ドラゴンの意見をハイとイイエで探り探り尋問するのも面倒だしね。
(そろそろ書籍化作業がひと段落なそうでもないような。
でも新作も書きたい時間が足りない…!)








