もふもふで最高なんだが?
そんなこんなで見張りを(ほぼアイシアに丸投げ)して、いよいよ新月の日が近づいてきた。
「何の動きもないねー」
「そうですね、あるじ様」
アイシアからヒーラー役を交代しつつそう言う。
最近はいちいち声や姿を変えるのも面倒になっちゃったのでローブだけだ。
あ、誰かきたらすぐヒーラーに変身できるようにはしてあるよ。うん。
「それじゃ、あるじ様を任せます」
「おう。晩飯よろしくな。昨日のシチューも美味かったぜ」
「そう言ってもらえると作りがいがありますね。では」
マシロさんに軽く会釈してリュックの中に帰るアイシア。
すっかり私たちに馴染んだマシロさんだが、お風呂以外では収納空間の部屋を使わなかった。休むのもご飯を食べるのもダンジョンコア前だ。
一応、依頼中だからということらしい。
せめて寝る時に収納空間を使ったらどうかとは言ったんだけど、中に入ると完全に外の様子が分からず、護衛対象のコアが無事なのか不安になって落ち着かないそうだ。
とはいえ実際、ダンジョン下層――森になっている部分への出入口に結界というかセンサーというか、空間魔法で怪しいやつが居たら反応するようなものを設置しているのだが、正規に扉番に挨拶して入っている連中しかいない。
もちろん、私が見つけた新しい通路も人通りが一切無い。
本当に敵は動くのだろうか。もうあきらめて他行ったりしたんじゃないのか。
そんな風に思ってあくびをしていると、マシロさんに小突かれた。
「気ぃ抜きすぎるなよカリーナ。相手も警戒してるのは間違いないだろうし」
「んー、マシロさんの嗅覚で怪しいやつパパッと見つけられたらいいのにねぇ?」
「無理。アタシのは半分勘だしな。それに、多少悪人が判別できても、冒険者やってるやつなんて何かしらキズがあるもんだぜ?」
その理論でいうとマシロさんも何か後ろめたい事があるということになるね?
「……マシロさんにはどんなキズがあるのさ?」
「ああ。実はオヤジをぶん殴って家を出たからな、もしかしたら指名手配されてるかもしれねぇ」
「殴ると指名手配されるような身分の親なんだ?」
結構いいところのお嬢様が冒険者やってるパターンなのかマシロさん。
「大した話じゃねーよ。オヤジには50人近くガキがいるし、忘れられてるかもな」
「わぁー獣人って子沢山なんだね」
「アタシが家を出た時は妻が8人いたしな」
ハーレムじゃん。やっば。なにそれ王様か何かか。
「勘違いしてそうだから言うけど、ただの村長だよ。酋長って言った方が近いかも知んねぇな、蛮族って言われても納得して受け入れるぜ」
「え、獣人の村長ってそんなハーレム状態になんの?」
「他は知らねぇがウチはそうだった。強いオスに群がる感じって言や伝わるか?」
なるほど。獣人なだけに獣っぽい生態だ。
逆に弱いオスは悲惨そうだけどそれは置いておく。
「マシロさんもモテそうだよねぇ。美人だし強いし」
「お? そうだよアタシはモテるんだぞ。男も女も鳴かせた数は数えきれねぇわ」
「あー、やっぱ女にもモテるんだ」
「ンだよ、お前だってアタシと寝ただろうが。今日も家賃払うぞコラ」
そんな堂々と言われると、その、照れる……っ!
ってか、マシロさん相手だと完全にメスにされちゃうんだよぉ! んもぉ!
テクニックではハルミカヅチお姉様に及ばないものの力任せの乱暴さがクセになるというか、その、うん……うん。
「……ディア君とアイシアには手を出さないでよね?」
「バカ言うな、ガキに手を出したりするかっての。むしろアタシはお前が手を出さないように発散の手伝いさせられてるんじゃねーか」
「それはそう」
実のとこ2人とも私より年上で合法なんだけど。
いや、アイシアとはすれ違いざまにちゅってくらいはするけどね。可愛らしいのよ。
「それにしてもこのまま新月まで、いや新月過ぎても敵が来なかったらどうすんだろ」
「知らね。アタシはギルドから依頼料貰えれば別に監視を続けてもいいしな」
「……マシロさんがそういうスタンスなら、私も付き合おうかなー」
「へへ、そりゃ嬉しいぜ! ダチがいると暇が潰せていいしな!」
がしっと頭を抱えられてうりうりとじゃれ付かれる。
ちょっと痛いけど良い匂いでもふもふで最高なんだが? あとおっぱいも当たってて天国かな? あ、むしろ痛いのもすこしご褒美っていうか。あんっ。
「……カリーナ、お前ってホント物好きだよなぁ」
「え、そう? ってか何が?」
「なんでもねーよ」
よく分からなかったけど、私とマシロさんはダンジョンコアの監視をしながらイチャついた。
――そして、そんなことを言っていた翌日、ついに動きがあった。