強大な魔物の胃袋(マシロ視点)
「ま、あんまり意味ないかもだけど一応仕事だしね。見張りも」
「お、おう」
そう言ってカリーナはマシロをリビングであろう場所へ連れて行った。カリーナに勧められるがままに置かれていた長椅子に座るマシロ。
「なんつーか、ホントに拠点をリュックで持ち運べるんだな……」
「ああ、正確には私の魔法だからリュックはタダの飾りなんだけどね」
「お、おう。そうなのか」
同じく長椅子に座って寛ぐカリーナに、あれ、これどうしたらいいかなと手持無沙汰なマシロ。そこに、誰かがやってきた。
可愛らしい緑のワンピースを着た、エルフの少女だった。
「あれ、お客さんですか。先日言ってた獣人の冒険者さんですね?」
「あ、ディア君ただいまー。うん、マシロさんっていうの。可愛いでしょ?」
国からあまり出ることのないエルフは、結構珍しい存在だ。
紹介されたので、マシロは一応軽く頭を下げて挨拶した。
「可愛いかどうかはさておき、冒険者のマシロだ。……えーっと、よろしくな、嬢ちゃん」
「はい、ディアです。あとボクは男です」
「ん?」
マシロは首を傾げた。
……よく見れば、骨格が少年のように見えなくもない。
「お姉さんが、その、こっちのほうが良いからって」
「ああ……カリーナの。じゃあ、うん、仕方ねぇな……?」
「ええ、まぁ」
マシロも先日から靴下を履きっぱなしにさせられている。似たようなものなのだろうな、と納得した。
「え、やだなー。今日はどっちの格好でもいい日でしょ? なのに女の子の格好を選んだのはディア君だよ?」
「そ、それはその! こ、コッチの方がお姉さんの好みなわけですし!」
「えー? うーん、それはそう」
言いながら、ディアに抱き着くカリーナ。抱き着かれた側のディアは、やや困り顔で、しかし嬉しそうに顔を赤らめた。
「って、今一瞬で移動したな!?」
「それも魔法だよ」
「魔法はそんな詳しくねぇんだがすげぇな。今度手合わせしようぜ。なんなら今からでもいいけどよ」
「いいよ。ただ、私が本気出したらマシロさんは手も足も出ないけどね!」
「……それはそうだな」
なにせマシロが追い詰められたブラックマンティス、それを楽々と仕留めるカリーナだ。そもそもブラックマンティスの鎌を砕く防御力を前に、マシロの攻撃が通用する光景は想像すらできなかった。
「で。アタシにこんな秘密を見せて……何をさせようってんだ?」
「ん? えーっと。ほら、これから数日間一緒にコアの監視の仕事するじゃん?」
「ああ」
「なのに黙って自分だけ拠点に帰ってゴロゴロするの、罪悪感あるじゃん……」
「……」
マシロはこめかみを手で押さえた。
罪悪感。本当にそれだけの理由で、己の秘密をバラしたのだろうか。
「なんならマシロさんの部屋も作る?」
「アタシもそのエルフの嬢ちゃん……坊ちゃん? みたく、囲おうってか?」
「ん? それはそれでいいかもしれないね」
「アタシがこのことバラしたりしたら、どうすんだよ。……いや、消せばいいだけか」
マシロは今更ながらに、強大な魔物の胃袋にのこのことやってきた気分になった。
その気になれば、カリーナはいつでもマシロを消すことも、死体を隠滅することもできるのだ。
「そんな物騒なことしないよぅ。お、お、お友達でしょ? 私達っ!」
「あー、そうだな。カリーナもそう思ってくれてるなら嬉しいぜ」
とりあえずは、敵対したくない相手であることは間違いない。そして、味方であるならこれ以上なく頼もしいことも。
故に、マシロはあっさりとカリーナと友達であることを認めた。実際マシロとしても既に知り合い以上であるとは思っていたし。
……一緒に寝てモフられまくったが、それが別に嫌ではなかったというのも理由であることは、カリーナには秘密だ。
(更新再開しましたがストックはほぼないし書籍化作業はまだ終わってないので更新はピンチ)