お前んちリュックの中にあんの?(マシロ視点)
白銀の二つ名を持つAランク冒険者マシロは、大魔法使いヒーラーと共にダンジョンへと赴いた。
新月が近づいていることもあり、いつもよりモンスターが多い気もする。
「でもまだダンジョンボスは復活してない、か」
「うむ。素通りさせてもらおう」
「……ところでカリーナはいつまでその恰好してるんだ?」
そうヒーラーに、正確にはその正体に声をかけるマシロ。
「まぁもう暫くは。せっかくギルドマスターから冒険者証も貰ったわけだし。とりあえずFかとおもったらなんかEランクだったけど」
「ブラックマンティスを殺せるFランクとかありえねぇからな。いや、Eでもだけど、DやCは期間とかあるしよ。……ってか、その声でその口調は結構違和感あるな。別にいいけど」
ヒーラーがリュックから水筒を取り出し、水飲み、リュックの中に戻す。
通りすがりに出会ったモンスターの死骸を片っ端から詰めこんでいたリュックだ。明らかにその体積より多くを。
一体どんな容量をしているのだろうか、とマシロは気になった。目の前でポイポイ入れていたので、隠す気は無いのだろう。聞いてみることにした。
「……なぁ。そのリュックどんだけモノが入るんだ?」
「ああこれ実は魔法なんだよ。まぁ見てみて」
そう言いながら、ダンジョンボスの部屋を通り過ぎてコア手前の結界前にきたところで、ヒーラーはどこからともなくベッドを出し、地面に置いた。
「……は? おい、なんだそりゃ」
「え、ここを仮拠点にしてコアに悪さするやつが来ないかを見張るんでしょ? ならしっかり休めるベッドは欲しいじゃん?」
「いやいやいや、そりゃまぁ、そうなんだが……そんなデカいもん持ってくるなら、保存食をもっと持ってくるとかあんだろ」
「ご飯もあるけど? なんならお酒も」
マシロは思わず手で目を押さえた。
「マジか?」
「大魔法使いヒーラー様にかかればこんなのお安い御用だよ」
「お前みたいな奴がいたら、モンスター食が研究される事もなかったかもしれねぇな」
ダンジョン攻略において荷物を減らすためにダンジョン内で自給自足するべく研究されたのがモンスター食だ。また、カルカッサの立地による食糧事情にも大いに貢献している。
「美味しいじゃん、モンスター。私は嫌いじゃないよ」
「今でこそ悪くはないが、昔は酷かったらしいぜ? 特にクロウラー肉の毒抜き方法が確立される前は色々やばかったってご隠居が言ってたわ」
「へー、生き証人がいるってことは結構最近なのかな」
「いや、ご隠居はドリアードだからだいぶ古いぞ。100年以上前の話だぞ。当時のヴェーラルド領主が頑張ったとかなんとかだと」
あ、思ってたより昔だった。とヒーラーはつぶやいた。
「ドリアード初めて聞いたよ。長生きな種族なんだね」
「そっか、この国じゃ珍しいか。あいつらは木と同じくらい長生きだぜ。水と光があれば最悪死なないから、飯が少なくてもなんとかなるのが強いよな」
そのせいかどうかは知らないが、のんびり屋が多くて会話が遅いのが珠に瑕で。せっかちなマシロとはあまり相性が宜しくない。
「にしても、あとは見張るだけとか暇だよなぁ。こういう仕事こそドリアードのが向いてるんだが……」
「あ、私一度おうち帰るね。代わりに影武者置いとくよ」
「は? おいおいまてまてまて」
そう言ってリュックの中に自ら入っていくヒーラー。
明らかに地面よりも下に入っているおかしな光景に、マシロは思わず声をかける。
「……お前んちリュックの中にあんの?」
「マシロさんも来る? コアにはバリア張っといたから、急に襲撃されても暫くは大丈夫はなずだよ。何かあったら私に伝わるし」
「……マジかよ。なんでもアリかお前」
折角なので、マシロは家にお邪魔することにした。
どうせ見張りをしていても暇なので。
リュックの中。そこはとても広かった。
リュックの数倍というレベルではなく、大広間……いや、大広場だった。なんと向こう側に家まで建っているし、海まである。
「なんだこりゃ……どおりでアーマーアントがホイホイ入るわけだ?」
「そうだよー。よいしょっと。ふー、疲れたー」
スポッとローブを脱ぎ、ヒーラーからカリーナへと着替える。声も一瞬にしてカリーナのものになった。
そこにとてとてと、ハーフドワーフの奴隷が駆け寄ってくる。
「おかえりなさいませ、あるじ様。あれ、お客様ですか?」
「ただいまアイシア。うん、こっちはマシロさん。カルカッサの冒険者」
「お、おう。よろしく?」
まさかリュックの中に人を住まわせているのか、と戸惑いつつ、これだけ広いならそれもアリかと思いつつ握手するマシロ。
「アイシア、ヒーラー役お願い。一応見張り立っといて」
「畏まりました、あるじ様」
そうペコリとお辞儀をしたアイシアに、カリーナは先ほどまで自分が着ていたローブを被せる。流石に体型が合わないんじゃ、と思ったのだが、何の問題もない様子だ。
「んじゃ、よろしくねー」
「いってきます、あるじ様」
カリーナがポンポンと肩を叩けば、アイシアの声はばっちりヒーラーのそれに変わっていた。ローブが変装用の魔道具だったのか。こんな魔道具をマシロは見たことも聞いたこともなかったが、自分が知らないだけでそういうのがあるのかと認識した。
(ちょっと諸事情によりGW中の更新はなしになります。ご了承ください。m(_ _)m )