NTRは脳を破壊する……ッ!
ダンジョン内にあった森は、上方面にはあまり広くなかったが、平面方向には結構広くなっているようだった。
恐らくこれ、空間魔法で拡張した空間になっているのだろう。やはりダンジョン=空間魔法の使い手という説はあると思う。
人は自然を師に学ぶもの。リンゴが落ちるのを見て引力を発見したり、カマキリを師匠にして蟷螂拳を習得したり、そういう感じで私もダンジョンを師匠として更なる空間魔法を学ぶというのもアリかもしらんね。
というか、さっき気が付いたんだけど、この場所――自分のじゃない空間魔法の中――にいると……その、結構酔う。なんだろう、身体は本来の空間を把握しているのに頭で認識している空間と差異があるとかなんだろうか……うぉえっぷ。
「まるで船酔い……いや、VR酔いかなぁ……」
辛うじて吐いてはいないけど、このままだと胃袋がリバースするのも時間の問題だろう。おのれダンジョンめ、なんというトラップ。
多分間違えてアイシアの部屋に入っちゃったのもこれが原因だよ……
仕方がないので、一旦収納空間に帰還することにした。
「あー、きっつ。ただいまぁ……って、ディア君もアイシアもいないのか」
時刻はまだ日の高い昼下がり。二人はカルカッサの観光なりお買い物なりに行ってるんだろうか。……少し心配だな。様子を見ておこう。えいえい、むんっ!
『――アイシアさん、これなんてどうでしょうか?』
『お、可愛いですね! やはりディア様はセンスがある――』
私は二人の無事を確認したのでそっと窓を閉じた。
……アクセサリーを買っているようだ。デート中かな?
いつのまにそんな仲に……っ!? アイシア、私のことお慕いしてるっていってくれたじゃんよう! ディア君も初恋の私はもう良いって!?
うう、疎外感っ!……いやまて、もしかしたら私へのサプライズプレゼントという線も考えられるのではなかろうか!?
もう一度ちらっと覗いてみる。
『――うん、ディア様にお似合いです!』
『そうですか? んー、なら、その、買ってみますか――』
スッと閉じる。
だぁあああ! ディア君の個人的お買い物だったぁ! 可愛いリボン買ってたぁ!
やーだー! デートじゃんコレぇ! 私のけ者にしてデートしてんじゃんコレぇ!
そりゃー、私中身男だし、ディア君の気持ちにはまだ答えらんないけどぉ! アイシアだって私の奴隷だからご主人様として毅然とした態度で接しないとなんだけどぉ!
二人がくっついちゃったら私、ここ自分の収納空間なのにハブられちゃうじゃんよぅ!! ラブラブの波動に浄化されちゃうよぅ! 助けてサティたーーーーん!!
……ちらっ。
『――よくできましたね』
『えへへ』
あー! あー! ディア君がアイシアの頭なでなでしてるぅー!
やべぇ。吐きそう。NTRは脳を破壊する……ッ!
「おろろろろ……」
私はトイレへ転移し、胃袋の中身をリバースした。
……あー、ごめんよスカベンジャースライム君。上から出したものを処理させてしまったわ……あ、これは大丈夫なのね。うーん、やっぱ業が深い生命体よのぅ。
うぅぅ。でも購入してたのはリボンだった。つまりこれは順調に男の娘の道を進んでるようで、観賞用美少女な男の娘としては正解であるからしてぇ。喜ぶべきなんだろうかコレぇ……?
はっ。そうだよ男の娘として成長してるってことは、ただ二人でお出かけしてお買い物してる女の子二人ってことじゃん。デートっていうか、デートだけど、男女のそれじゃない奴じゃん! 百合友情デートじゃん!
もう一度、ちらっと二人の様子を覗き見してみる。空間魔法、えい、えい、むん!
『――ディア様、荷物は私が持ちますよっ』
『大丈夫です、これくらいボクが持ちます。アイシアさんに持たせるわけにも――』
へぶぁああああ!
ディア君が女の子に荷物を持たせないイケメンムーブしてたぁ。
ううう、かっこ可愛いいよぅ。
お、落ち着け。落ち着くんだ私。深呼吸……すー、はー、すー、はー。
うう、アレかなぁ。これ二人がくっついちゃう流れなのかなぁ。
だとしたら超寂しいけど、祝福しないとぉ……っ、くぅうっ……
(※NTRではありません)








