ドキドキ不思議な森の中
世界はとっても理不尽なものなんだって、いつか誰かが言っていた気がする。いつどこで誰に言われたかなんて、もう忘れちゃったけど。
暗くて、ジメジメしていて誰も寄り付かない、そんなイヤな感じの森があります。進めども、進めども森の中は見分けのつかない似たような木でいっぱいなのでただ真っ直ぐ進むのもとても大変です。しかし私、エルとその姉、アサはそんなところに家を一件構えています。その家は当然私たちが建てたものでなく、多分昔にここに立ち寄った誰かが建てたものです。その家は丸太で組まれた木の家で、出来た当初はそれなりに立派だったのかもしれないけれど、時が経って朽ちかかっているので見るからに貧相な見た目だと思います。匂いも結構ひどいです。
この森では食べ物に苦労します。これ腐ってるんじゃないかと思ってしまうくらい真っ黒でヒョロヒョロ、ガリガリな果物だったり、逆にこれ食べても大丈夫なのかというくらい色鮮やかで派手な感じのキノコだったりが私たちの主食です。飲み水に関してはもうそれはとっても大変なんです。この森にある水は飲めたもんじゃありません。この前なんか二人でお水を探しに行ってやっと泉を見つけたんですけど、近づいてみたらそれはびっくりしました。だって水はちょっと黒っぽかったし、変な虫が中で泳いでいたんです。あの時は二人して肩を落としちゃいました。なので、今は何とか雨水で凌いでいます。幸いなことにそれなりに雨が降るので、それを家にたまたま置いてあった壺の中にきちんと取っておくのです。そんなこんなで結構大変な生活ですけど、私はとっても楽しいです。だってアサお姉ちゃんと一緒にいられますから。こんな暮らしも悪くないかなって思っちゃったりしてます。
「おーーいヨル、飯とってくるけどお前どうする、家にいるかぁ?」お姉ちゃんが私を呼んでます。早く行かなきゃ。
「今行くから、ちょっとだけ待ってて」やっぱりこんな不気味な森の中ですから一人でいるのはちょっぴり怖いです。さっと手元にあったカゴを手に取り、急いで外に出ると、そこにはお腹が減って少しだけ機嫌の悪そうなお姉ちゃんが待っています。
「やっと来たか、ほら行くぞ、すぐ行くぞ」お姉ちゃんが私を急かします。だいたいいっつもこんな感じなので、お姉ちゃんはちょっと気の短いところがあるんじゃないかなと思います。私はあまり急いで何かをするのが得意じゃないのでいっつもお姉ちゃんには振り回されてます。
今日取りに行くのは何にしようか、と二人で相談しながら森の中を進みます。いつも変な果物とヤバそうなキノコしか食べていないのでたまにはなんか変わったものがないかなってことで今日はちょっとだけ森の奥まで行ってみることにします。森の中で迷子になると本当に帰れなくなっちゃうかもしれないので、しっかりお姉ちゃんから離れないように、離れないようにとあてもなく彷徨っていると、何やらとても大きな木が見えてきました。他の木とは高さも太さも全然違います。なんで今まで気が付かなかったんだろう。と、それよりも気になるのはその木になっている実です。茶色っぽいゴツゴツとした見た目で正直あんまり美味しそうには見えないんですけど、それよりも何だかすっごいいい匂いがします。甘いとかそんなんじゃなくて、なんかこう落ち着くというか安らぐというか上手くは言えませんが何だか不思議な魅力を感じるっていうのかな。大体そんな感じです。そんな匂いが遠く離れているのに確かに感じられるんです。当然お腹を空かせているお姉ちゃんはスルスルっと木に登って実を一つもぎ取りました。あんなに高い木なのに。
「ヨルもほら、さっさと登りなよーー」なんて、そんなこと言われても絶対無理です。
「私にはちょっと厳しいから、ここで待ってるよ」とそう私が返すと、
「じゃあ、こいつら全部アタシがもらってくよ」とお姉ちゃんは意地悪そうにこちらに笑いかけます。そしてこちらに見せつけてくるかのように、みるからに固そうなその木の実の殻を木に打ち付けました。すると中から出てきたのは美味しそうな果肉・・・ではなく何だか黒い煙のようなものでした。明らかに危険だと直感した私はお姉ちゃんに叫びます。
「投げ捨てて、早く」それを聞いたお姉ちゃんはすぐに投げ捨てたんですけど、その煙はお姉ちゃんにまとわりつくように残ります。
「何なんだ、どうなってんだこれは」お姉ちゃんは困惑しつつも、さっとその煙を振り払いながら飛び降ります。私もすぐに駆け寄りました。幸いなことに特に怪我もなく元気そうな感じだったので私もホッとしました。当のお姉ちゃんはビックリしたのと空腹とでさらにイライラが募ったのか、その木に思いっきり蹴りを浴びせています。
「うん、やっぱり元気そうだ」私はすごく安心しました。それでもう懲りたので、その後は二人していつもと変わらぬ食材たちで我慢することと相成りました。なんだかんだでこういうのも結構楽しい思い出ですよね。