表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/677

第一章7 『世紀末!』

「ぁぁぁああああああ!!! 助けでぇええ!」


 中学体育祭組対抗リレーぶりの全力疾走を叩き出した加藤。

 背後に迫るのは、中型トラック並みに巨大なイノシシだ。


「ばか加藤! 走って逃げるな! 横だ、横に飛べ!」

「はぁ!? 走らねぇと踏み潰されるわ!」

「走って逃げた方が踏み潰されんだよ、アホっ!」


 加藤の後を追う巨大イノシシ《インパクト・ボア》は、背を向けて逃げる者を追いかける習性がある。


「つーか、もう無理、し、死ぬ・・・」


 早鐘はやがねのように心臓が鳴るのが分かる。

 足が自然と止まっていく。もう体力の限界だ。

 加藤は、じきに《インパクト・ボア》に踏み潰されてアスファルトのシミになる。

 その時、前方の路肩に巨大な植物が根を張っているのが見えた。

 高さ10メートルはあるだろうか。アサガオに似た植物だ。花弁はなびらの中央部分には巨大な実がなっている。

 加藤は、巨大アサガオの近くまでくると、足に力を込めてジャンプ。茎の中腹辺りに着地して、そのままつたを頼りに《インパクト・ボア》が届かない高所まで避難する。


「はぁー、はぁー、危なかった・・・」


 肩で息をする加藤。

 下では《インパクト・ボア》が鼻息荒く佇んでいる。


「完全に俺をロックオンしてんな。なんかいい匂いでもしてんのか、俺」


 自分の体臭を確認するが、汗臭いという感想しか出てこない。

 そんな加藤の足に、突如 しゅるる と蔦が巻き付き、凄まじい力で体が引っ張られた。


「え? って、うぉぉおおおぉぉおおお!!」


 叫び声をも置き去りにして、加藤の体は縦横無尽に振り回される。

 巨大アサガオが生き物のようにうねりだしたのだ。


「加藤ぉー!」


 追いついてきた佐伯と島田が 視界のはしに映る。


「た、たたたたしゅけてぇぇぇええええ!!」

「先生ぇ、加藤が《腐った実》に捕まりました!」

「見れば分かる」


 佐伯はそう言って、跳躍。《腐った実》の暴力的な畝りを見極め、加藤の足に絡まった蔦を日本刀(かたな)で切断した。

 勢いよく放り出された加藤が行き着いた先は、《インパクト・ボア》の背中だ。

 背中に獲物を乗せた怪物は、容赦なく暴れ出す。加藤は、またも放り出され、次こそは地面に着地した。


「加藤! すぐに離れろ! 《腐った実》の攻撃がくる!」


 佐伯に首根っこを掴まれて《腐った実》から離れる加藤。

 背後では、花弁にった実が、ポロリと地面に落ちる。

 瞬間、実が割れて青紫色の煙が舞い上がった。


『ブゴォォォオオオ!!』


 青紫色の煙に包まれた《インパクト・ボア》。絶叫した巨大な四足獣は、地響きを上げて倒れ込む。それだけでは終わらない。《インパクト・ボア》の体が泡立ち溶け出した。


「何だありゃ!? うっ、クサッ!」

 風に乗って、卵が腐ったような匂いが鼻をついた。

「あれは《腐った実》。危険なモンスターだ。見ろ!」


 すでに骨だけとなった《インパクト・ボア》が蔦に巻き取られて《腐った実》に取り込まれていく。


「実を落として、下にいる獲物を溶かして喰らう」


 血の気が引く加藤。ほんの少し逃げるのが遅かったら加藤も《インパクト・ボア》と同じ末路を辿っていただろう。

 完全に《インパクト・ボア》を取り込んだ《腐った実》。風船が膨らむように、瞬く間に実が復活する。

 そして、何もなかったかのように路肩に咲く巨大なアサガオに戻った。


「・・・加藤。お前、さっき」

「もぉぉおおお! 何だよこれ!? 何でこんな道 選んだんだよ!」


 佐伯が何か言いかけたが、加藤の絶叫で掻き消される。


「仕方ないだろ。街道は盗賊が居座ってんだから、道変えないといけないんだよ」


 佐伯、島田、加藤の3人は、街道となっている国道2号線を逸れて、別の道を進んでいた。


「それは分かるけどさ、盗賊って言っても人間だろ? あんな化け物よりかは安全じゃないか?」

「そりゃそうだけど・・・」

「こんな世紀末でも人と殺し合うのは極力避けたい。だから、こちらの道を選んだんだ」

「うっ! まぁ、そりゃ納得だな」


 佐伯の言葉に素直に納得する。

 荒れ果てた世紀末の世でも、殺人は最大の禁忌なのだ。盗賊とかち合えば、殺し合いに発展する可能性が高い。

 そうすれは、加藤も人を殺害することを迫られる。

 無論、加藤にそんな覚悟はない。


「先を急ごう。夜までには、盗賊を避けて街道に合流したい」

「はい! 行くぞ加藤」

「あぁ」

 3人は、先に進む。その後も・・・。




 工場跡の敷地を横切った時。

「うわぁー!」

 銀白色ぎんはくしょくの鱗の巨大なトカゲが追いかけてくる。

「《大トカゲ》だ! 逃げろ!」

 どたどた、と地を鳴らす大トカゲの喉が膨れ上がる。口の端に炎がともるのが見えた。

 加藤は咄嗟に躱す。

 瞬間、直径50センチほどの火球が3人を襲う。ボゴォ、と地面に激突して四散する火球。

「アツッ! アツアツッ!」

 四散した火の粉が加藤のリュックに飛び火した。

「気をつけろ! 火を吐くぞ!」

「知ってるよ! 鞄燃えたわ!」

 火の粉を払いながら必死に逃げる。

 


 マンションの駐車場では。

「何だこいつら!?」

 手足が異様に長い猿の群れに襲われだ。

「《スティール・モンキー》だ!」

 五階建てのマンションが完全に猿山と化している。縄張りに入ってきた獲物に、数十頭の《スティール・モンキー》がわらわら、と纏わりついてくる。

「うわっ、うわぁ! 服引っ張んな!」

 服やリュックを引っ張られる。

「奴ら、物を盗むぞ! 気をつけろ」

「あぁ! 俺の5万が!」

 加藤は5万を盗まれた。



 住宅街を歩いていると。

「むっ!」

 佐伯が突然、足を止めて腰に下げた日本刀に手をかざす。曲がり角から武装した四人組の男女が姿を表した。

「! あぁ、こんにちは。あなた達もここでモンスター狩りですか?」

 警戒態勢を解く佐伯。

「いえ、我々は旅人で・・・」

「そうですか。ここら辺はモンスターが多いので お気をつけて」

 加藤は、島田にこっそりと尋ねる。

「この人たちは?」

「冒険者って呼ばれる人たちだ。モンスターを狩って生計を立ててる。あいさつしろ」

「こんにちは!」

 二、三言葉を交わして冒険者たちと別れる。



 そして・・・。


「どらぁぁあああ!!」


 加藤は木刀を横薙ぎに一閃。

 ガイコツ姿の犬が粉々に吹き飛ぶ。その背後から額にツノを生やしたウサギが突進してくるのを、横に飛んで躱した。ウサギの脇腹に突きをお見舞いした。


『フギャ!』


 ウサギは断末魔を上げて絶命。


「加藤、後ろだ!」


 島田の声で、背後から迫り来る巨大な蜂の存在に加藤は、気がついた。

 巨大蜂は、高所から不快な羽音を撒き散らしながら加藤に迫り来る。転がって攻撃を回避。攻撃が不発に終わり、再び上空に逃げる巨大蜂。

 加藤は足に力を込めてジャンプ。木刀を振り上げ、ホバリングする巨大蜂を粉砕する。


「おぉ! すごい!」

「ふぅ。そっちも終わった?」


 佐伯と島田も襲いかかってきたモンスターを 全て倒しきっていた。


「早くも慣れたものだな」

「まぁな。バカでかい怪物以外ならこんなもんよ」


 加藤は剣道部だ。部員たちと何十、何百と竹刀で打ち合った経験がある加藤にすれば、木刀を用いた戦いでモンスターと渡り合うことも可能だ。


「来い、加藤!」

「! 何すか?」


 佐伯に呼ばれる加藤。

 佐伯はナイフを取り出し、倒したモンスターの死骸をさばく。

 捌く、と言っても、胸を軽く開いて胸元から白い結晶を取り出しただけだ。


「これが、さっき教えると言った、結晶の取り方だ。モンスターは、それぞれ体内に結晶を宿している。それが世紀末の世では、通貨として使われている訳だ」

「モンスターから剥ぎ取ったものだったのか・・・」

「あぁ、だいたい体の中心部か胸元にある。お前も倒したモンスターから剥ぎ取っておけ」


 加藤は言われて、倒したモンスターから結晶を剥ぎ取る。

 ガイコツ犬と角ウサギからは白結晶はくけっしょう。巨大蜂からは赤結晶せきけっしょうを入手した。


「モンスターを倒したらお金が手に入るなんて、本当にゲームみたいだな」

「だから、さっきの冒険者みたいな職業が成り立つんだろ」


 島田も倒したモンスターから結晶を剥ぎ取り終わっている。

 加藤より大量に取れたようだった。佐伯はさらに大量の結晶を入手している。

 そんな、3人を隠れて見る人影がひとつ。シルエットからして女性だろうか。


「ん?」


 加藤が何に気がついて振り向くと、その影は消えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ