第一章6 『世紀末でのお買い物』
佐伯、島田、加藤の三人は、《草野の街》はずれにある武器屋の前に立っていた。
かつては、街のスポーツ用品店だった店舗の戸を開けて入店する。
「武器屋で何するんすか?」
「武器屋で大根を買う気か」
「はぁ・・・」
(地味に武器になりそうなモノを例えに出したな)
当然、武器屋でする事といえば、武器の調達だろう。加藤は少し興奮した。
(何買うのかなぁ! わくわくする! と言うか、武器屋に興奮する!)
さすがは武器屋だ。棚には手製の槍やナイフ、鍬から、おそらく本物であろう銃器類までもが並んでいる。
殺伐とした空気が流れる店内の奥には、カウンターがあり、その奥には店主が居座る。
「いらっしゃい。何をお求めですか?」
イガグリのような髪の店主が訪ねてきた。佐伯は、加藤を指差してーーー、
「こいつに武器を与えたいんだが、いいのはあるか?」
入店の目的を伝える。
「え!?」
「えぇ!!」
島田と加藤は、驚きの声を上げた。
「佐伯さん、俺にも武器くれんスか!? でも、俺 金持ってないっスよ。使えない諭吉が五人いるけど」
「もしかして、先生が?」
「あぁ。旅についてくる以上、丸腰でいさせる訳には いかないからな」
「予算はどれくらいだ?」
店主に尋ねられ、佐伯は巾着袋を懐から取り出して中身をカウンターに広げる。
小石ほどの色とりどりの結晶が転がり出た。
「これくらいで」
店主は、ぶち撒けられた結晶を見定める。時には、虫眼鏡を使ってじっくりと見ると、嘆息をひとつ。右手の棚を指差す。
「あの棚の武器ならどれでもひとついいぜ」
鉄パイプや木刀、手製のパチンコなどが並べられている棚だ。
「なんか地味なのばっかだな」
「俺もあまり手持ちがないからな。高価な武器は買ってやれん」
「つーか、加藤。買ってもらう立場で文句言うな」
島田に睨まれて身を竦ませる加藤。
「ぐぅぅ・・・正論」
「それと、加藤。ついでにこの世界での買い物を教えてやる」
佐伯は、巾着袋から三つの結晶を取り出す。三つそれぞれ灰色、白色、赤色と色が違う。
「グレーが黒結晶、白が白結晶、赤が赤結晶。後に行くほど希少で高価な結晶だ。これが世紀末の世界での通貨になる」
「これが結晶?」
加藤は、それぞれの結晶をまじまじと見る。
「こんなの何処で手に入るスか? まさか、土を掘るとか?」
「それは、おいおい説明する。物の価値は街によってかなり異なるが、だいたい黒結晶5つで白結晶、白結晶3つで赤結晶と同額と言った感じだな」
「ふーん・・・」
加藤は武器屋のカウンターを覗き見する。白結晶が数個と赤結晶がひとつ転がっている。
あれだけなら木刀程度の地味な武器しか買えないという訳か。
(しかし、物価が街によって違うなのは困ったな。治安が良くない街とか裕福な街とかなら物価は高かったりするのかな?)
「で、加藤。どれにするんだ?」
「え? あぁ、そうだなぁ」
加藤は、棚の武器を物色する。
木刀や鉄パイプ、果物ナイフに手製のパチンコ、コンビニで見たことあるカラーボールなどが棚に並んでいる。
加藤はカラーボールを手に取る。
「このカラーボール、まだ使えるんですか?」
確か、カラーボールの使用期限は数年だったはずだ。二十年後の未来に使えるカラーボールが残っているのか疑問だったので、聞いてみた。
「そいつは、カラーボールじゃねぇ。びっくり玉だ。中に唐辛子やら何やらが詰まってて、投げた相手を怯ませる系の武器だな」
「あぁ。そう言う感じの・・・」
(何やらってなんだよ)
「加藤、お前は剣道やってたんだろ? 木刀でいいんじゃないか?」
島田の提案に加藤は、嘲笑で返す。
「へいへいへーい。島田くん、剣道部が木刀なんて安直すぎるぜ」
「は? 安直で何が悪いんだよ。使い慣れた物にしておくのが一番だ」
「島田。知っての通り、俺は武器には一家言ある人間だ」
「初耳だけど」
(そうだっけ? 言った気がするけどな。俺の捏造した記憶の中では)
「俺も男の子の端くれだ。昔、ホームセンターを訪れた際、工具やキャンプコーナーのナイフを見て、武器を見る目を肥えさせていたもんだよ」
(それ武器じゃなくて、工具を見る目が肥えてただけじゃね?)
(見るだけでなんの知識も得てねぇじゃん)
佐伯と店主に突っ込まれた事を知らずに加藤は続ける。
「いついかなる時でも有事に備えて殺傷能力が高い武器をピックアップしていた。俺はそういう男だ」
「お前、平和な世界で生きてたんだよな? 何のためにそんな事してたんだよ」
「・・・そりゃ、お前。ぞ、ゾンビが溢れたときのためだよ・・・」
「へー、昔もゾンビ居たんだ」
「えっ!? 昔“も”? 今ってゾンビもいるの!? それこそ初耳なんだけど」
「加藤、そろそろ決めろ。剣道やってたなら木刀でいいだろう」
佐伯は棚から木刀を掴み、加藤に放り投げる。
「佐伯さんも木刀スか? まぁ、確かに使い慣れてはいるんですけど・・・これで怪物倒せます?」
「雑魚なら問題ない。時間もないからそれでいいな?」
佐伯が強引に決める。その後、佐伯は細々とした品物を素早く購入して、3人は店を出る。
「腰に挿して歩きたかったな」
加藤は、サービスでつけてもらったケースに木刀を収納して肩から担ぐ。
「これで準備は整ったな。では、出発だ」
3人は、《草野の街》の出入り口であるアーチ型のゲートに向かう。
門兵に簡単な挨拶を済ませて、アルミゲートを開けてもらった。街を出る時は、入る時に比べて楽に通れた。
「・・・っ!」
街の外の殺伐とした空気が加藤の頬を撫でる。緊張と不安で、体をこわばった。
ここは、モンスターの領域だ。改めて、加藤はその事を知る。
「二人とも装備の最終確認をしておけ」
佐伯に言われて、島田と加藤は自分の装備を確認する。
佐伯ミクマ
装備 ・日本刀
・サバイバルナイフ
・機動隊装備一式
頭:機動隊ヘルメット
胸:機動隊のプロテクター
腕:籠手
足:脛当・安全靴
島田マモル
装備 ・特殊警棒
・サバイバルナイフ
・手製の手榴弾を十数個
頭:なし
胸:防刃ベスト
腕:なし
足:安全靴
加藤兵庫
装備 ・買ってもらった木刀
・旅人セットについてきた小ちゃいナイフ
・借りたままの手榴弾一個
頭:なし
胸:なし
腕:なし
足:使い古した運動靴
「なんか俺の装備だけショボくない!?」
「そんなことないだろ。あっ、手榴弾返せ!」
島田に手榴弾を奪われる。
「あっ! おい、それはダメだ! 返せ!」
奪われたのを奪い返す。
「何でだよ! それは元々は俺のだぞ!」
「これ以上、装備をショボくしてたまるかよ」
「お前な、それ1個作るのにどれだけ時間がかかると思ってんだよ」
「えっ! これ島田が作ったの。スゲェ。・・・まぁ、もう俺のだけど」
加藤は、手榴弾をポケットに仕舞う。
「佐伯さんもなんか下さいよ。その刀とかでいいんで」
「・・・こいつ図々しすぎる」
「そうだな。俺が死んだらくれてやるよ」
佐伯に軽く流される。死んだら譲ってくれるというが、装備差的には加藤が先に死ぬ可能性がずっと高そうだ。
あと、死人から剥ぎ取るのは、図々しい加藤でも流石に気がひけた。
「先生。先を急ぎましょう」
「あぁ」
「加藤、お前 大口叩いたんだ。少しくらい恩をかえせよ」
「もちろんだ! ふたりとも遠慮なく俺を頼ってくれ! 助けてやるぞ!」
3人は、荒れ果てた街を進む。