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第五章119 『憤怒』


 シュンッ という短な音が響き、加藤(かとう)の視界を一筋の光が横切った。


「ーーー!」


 その刹那、ビスッ という音と共に、横たわる室伏(むろふし)の背中に穴が空く。


「ーーーッ、、がはっ!!」


 小さく呻き声を上げた室伏。

 たったそれだけだ。たったそれだけの出来事で、誰が室伏の死を予想できただろうか。


「は・・・? いや、、おい・・・ぇ?」


 唖然として立ち尽くす加藤。

 その時だーーー。


「ーーー兵庫(ひょうご)!! 伏せて!!」


 加藤へ向かってアゲハが突っ込んでくる。


「は?」


 アゲハは加藤を突き飛ばし、そのまま彼に覆い被さった。

 激戦を制した後の ふらふらの加藤だ。いくら体重の軽いアゲハとはいえ、全体重で突き飛ばされたらバランスも崩す。


「ーーーづぁ!!!」


 アゲハに押し倒された加藤は、そのまま尻餅をついて横たわる。その瞬間だ。つい数瞬前まで加藤の頭があった位置に、先ほど見た一筋の光が通り過ぎた。

 光は、高速で目の前を通り過ぎ、ビスッ と地面へと減り込む。


「・・・??」


 ここまで来ても、加藤には何が起こったのかが理解できなかった。

 否。

 加藤が見た光がマルファーナから放たれた魔法である事は何となくだが理解できている。

 加藤が分からないのは、それより前の出来事だ。


「・・・室伏?」


 そう、室伏に起きた出来事だ。

 一筋の光が室伏の背中に穴を空けた。エアーガンを当てられたかのようなチープな音を立ててだ。

 ただ、アゲハは何が起きたのかを正確に理解出来ていたようだ。きっと、能力の《第六感(シックスセンス)》で何かを感じ取ったのだろうか。

 素早く立ち上がったアゲハは、室伏の元へと駆け寄る。そしてーーー、


「兵庫!! 来て!! 止血・・・なんか、、血を止められるようなモノない!!?」


 彼を抱き起こし、両手で必死に胸を押さえつけた。そんなアゲハの手は、もう既に真っ赤になっている。

 血・・・だろうか。

 きっと、室伏の胸から溢れ出る血で赤くなっているのだ。

 あんなに・・・真っ赤に・・・。


「は・・・嘘だろ・・・おい・・・」


 身体中に走る鈍痛を無視して立ち上がった加藤も、ふらふら とした足取りで室伏の元へ向かう。

 この時には、ようやく加藤も何が起きたのかを理解した。

 そして、これから何が起きるのかも・・・。


「・・・ッ」


 室伏の元へ辿り着いた加藤が見たものは、血だらけの友達の姿だ。胸からドクドク と溢れ出る血が、室伏を真っ赤に染めている。


「・・・兵庫・・・」


 不意に、アゲハが険しい顔で加藤を見上げて来た。

 アゲハは室伏の身体に触れている。その彼女が険しく顔を歪めているのだ。きっと、感触で感じ取ったのだろう。

 その時だーーー。


「ーーーハッ」


 侮蔑を含んだ笑い声が空から聞こえて来た。笑い声の主など見るまでもないーーー、マルファーナだ。


「虫ケラなりに今まで目をかけてやったのに・・・お前はまったく使えん奴だよ。室伏」

「ーーーッ!」


 マルファーナの言葉に弾かれるように反応したのはアゲハだ。


「ーーーッッッ、、アンタ!! 仮にもムロフシの仲間なんでしょ!! なんでこんな事・・・こんな酷い事できんのよ!!!?」


 空に揺蕩うマルファーナを睨みつけて声を張り上げるアゲハ。彼女の言い分は至極真っ当だ。心がある者ならば、きっと多少なりとも響くだろう。

 だが、それはあくまで人の心がある者ならば・・・だ。

 マルファーナは、「はぁ〜・・・」と煩わしそうに溜め息をひとつ吐き、アゲハの叫びを受け流す。


「仲間・・・? こんな虫ケラが僕の仲間だと?」

「・・・ッッ! そうよ!! 一緒に私たちを倒しに来たんでしょ!! なら、仲ーーー」


 次の瞬間、アゲハの口がピタリと止まった。

 否。

 口だけではない。アゲハの全身が、まるで金縛りにあったかのように動きを止めたのだ。

 原因は、マルファーナから発せられる尋常ではないプレッシャーだ。まるで、蛇に睨まれた蛙のごとき状態になったアゲハ。


「ーーーッッッ!!」

「言葉には気を付けろよ・・・劣等人種(エルデリアン)のメスガキが」


 息ができないほどのプレッシャーを、怒りに任せて放つマルファーナ。どうやら、アゲハの言葉がよほどの琴線に触れたようだ。


「お前は地を這う小っぽけなアリを見て、そいつと自分が同等と思うのか? 家を這いずる害虫を見て、家族と思えるのか?」

「ーーーぐ・・・ッ」


 マルファーナが発するプレッシャーは、徐々に強くなる。


「否だ。生まれながらに魔力を持たん劣等人種(エルデリアン)の貴様らごとき、我ら優勢人種(エルフィリアン)の魔道士にとっては虫ケラも同様・・・ッ。道を歩けば踏み潰し、家に立ち入れば片手間で殺す・・・そのような存在が仲間などーーー、ある筈が無いだろうがァァァァ!!!」


 刹那、マルファーナの背後にある空が黒く光った。


「ーーー《重力弾(ガルパナ)》!!」


 と、同時に、マルファーナは超重量の球体をアゲハらに向けて放つーーー、事はなかった。


「ーーーぐッッッ!!?」


 瞬間だーーー、アゲハはマルファーナから感じたプレッシャーを遥かに凌ぐ衝撃を受けた。その発生源は、彼女の目の前に立つ加藤 兵庫だ。


「兵庫・・・?」


 加藤から感じる圧倒的かつ強力な気配。

 これは怒り・・・だろうか。

 仲間であるアゲハですら吐き気を催すほどの恐怖を感じる怒りが、加藤から感じる。

 それは、空にいるマルファーナも同様のようだった。

 放つ直前だった魔法すらも止めて、加藤が放つ怒りに震えている。


「なんだ・・・さっきから、、なんなんだ・・・お前は・・・?」


 得体の知れない加藤へ、先ほどから気になっていた疑問を投げかけたマルファーナだったが、言葉は返ってこない。

 代わりにーーー、


「ーーーッッッ!!!?」


 加藤は怒りに満ちた双眸をマルファーナへ向けた。

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