第四章 -最終局面- 1 『蘇生』
はじめ、その異変に気がついたのは加藤と四門だった。
「ーーーっ!?」
「ーーーぇ!?」
今後、《岐阜の街》の復興をどうするか という議題で盛り上がる仲間たちに背を向けて、加藤と四門の2人は、少し離れた場所に横たわっているアルフレッドの死体を見る。
2人が覚えた違和感・・・それは微かな ものだった。
視界の端に虫を入れたときのような・・・もっと言えば、空気の揺らぎのような・・・普段なら到底 気づくはずもない、気づいたとしても、数秒で意識の外に弾き出されるような 小さな変化・・・。
だがしかし、加藤と四門は、その変化に鋭敏に反応した。
ひとえに、彼らの体内に流れる 強すぎる“血” が、そうさせたのだ。
「ーーー今の・・・なんだ?」
「ン? なんか言ったカ、カトウ?」
ぽつり と呟いた加藤の疑問に反応したのはシャノンだ。
「いや・・・なんか、変な感じが したような」
「ぼ、僕も感じたよ・・・か、加藤くん。な、何か・・・変だ」
この時には、加藤と四門が覚えた微かな違和感は、確実なモノへと変わっていた。
肉体を両断されて死に絶えたはずのアルフレッドが どこかおかしい。
そう、死体から生き物の気配がするのだ。
例えば、草むらに隠れている獣の気配を感じ取るように。
もっと言えば、部屋の隅にゴキブリを見つけた時のような・・・意識下の中で、何かが うごめく その感じがする。
「おい。どうしたんだ、2人とも?」
「なんかあったの?」
「・・・アルフレッドを見ていたようだが、何か気になる事があるのか?」
斑鳩、アゲハ、島田の3人が、様子がおかしい加藤と四門を通じて、死んだはずのアルフレッドに意識を向ける。
その時だーーー。
「ーーーっ!?」
ドクンッ!! と心臓の鼓動のような音が鳴り響いた。
大きな音だ・・・だが、アルフレッドが発した心音ではない。
地面・・・加藤たちが立つ真下の地面から聞こえてきた心音だ。
「なんだ? 何の音だ、今の!?」
「心臓の音・・・だよね!?」
「あぁ、確かに聞こえた・・・下からか?」
「えぇ〜っ! なんなん、なんなん!? 今度は何!?」
地面から聞こえてきた心音は、鼓動を大きくしながら、続けて ドクンッ ドクンッ と鳴り響く。
まるで、何かが産まれる前兆のように、だ。
「おかしいぞ・・・何だよこれ?」
「また、アルフレッドの魔法? でも、アイツは死んだはずなんだよね?」
「アァ・・・アルフレッドの魔力は感じなイ。奴ハ、確実に死んでいるはずダ。だけド・・・」
シャノンは、ちらり と地面に目を向ける。
何の変転もない更地となった地面。シャノンは、その下に うごめく、得体の知れない魔力の塊を魔力感知を通して見た。
(ーーー鼓動のような音が響いてきてかラ・・・バカでかい魔力の塊が地面の下に現れやがっタ! 何なんだ この魔力の塊ハ!?)
刹那、困惑する加藤たちを大規模な揺れが襲った。
「なになに!? 今度は何!?」
「地震!?」
硬い地面が、バックリ と割れるほどの巨大な地震だ。
揺れに驚いた加藤たち一行は、思わず、その場に腰を下ろしてしまう。
「・・・! いや、違う! アレを見ろ!!」
はじめに気がついたのは 島田だ。
アルフレッドの死体の真横の地面に、大きな亀裂が走った。
次の瞬間、その亀裂から巨大な根が顔を出して、瞬く間に巨大なツボミを付けた植物が出現したのだ。
その巨大さたるや、樹齢1000年を超える巨木のようだ。
「ーーー木ぃ!? いや・・・花か!?」
「・・・ッ!!」
突如、姿を現した巨大なツボミを付けた植物を見たシャノンは、思わず息を呑んだ。
「ウソだロ・・・あリャ、《蘇生》じゃねぇカ」
「りざ、、れくしょん? なにそれ?」
「・・・最上級に位置する蘇生魔法ダ。死の淵にいる者を蘇生させテ、完全回復させる効果があル」
「ーーーっ!? そ、素性に、か 完全回復って・・・まさか・・・っ」
四門の声につられて、この場にいた他7人が 最悪の想像を頭の中に思い浮かべた。
そう、それはすなわちーーー。
「ーーーアルフレッドの野郎・・・生き返るのか!!?」
加藤の言葉を肯定するように、《岐阜の街》の中に出現した巨大なツボミをつけた植物が、突如、鼓動を開始する。先ほど、地の下から聞こえてきた鼓動と同じ音だ。
「ーーーおい!? アレ、エネルギーを吸い取ってんのか!?」
島田が そう言って指を差したのは、巨大な植物の根元・・・根と地面と繋がっている部分だ。
植物の根元の地面は、まるで荒野のように ガビガビに乾燥して、地割れすらも起こしている。
植物が、地中に存在する水分やエネルギーを吸い上げているのだ。
「ヤバない・・・これ?」
きっと 植物の根元からは、無数の根が地中に張り巡らされており、広範囲にエネルギーを吸い上げているのだろう。
事実、少し離れた位置にいる加藤たちの足元の地面も、みるみる干からびて、荒野のように地割れが発生している。
「ーーーくそっ・・・あの 1撃でも倒しきれねぇのか・・・っ」
加藤が、ギリィ と歯を食いしばり、数メートル先に転がっているアルフレッドの死体を睨みつけた瞬間ーーー、地中のエネルギーを存分に吸い上げた巨大なツボミが、パァァァァァ と開き、アサガオのような花を咲かせる。
そして、花は、樹液のような雫を、下に倒れ込むアルフレッドに 1滴垂らす。
まるで、星屑のように煌めきながら落ちていった雫は、ピチャン とアルフレッドの口元に着地してーーー、彼の命を、再び この世に蘇らせる。
刹那、加藤の魔力感知は、再びアルフレッドの高魔力を感じ取った。




