第二章15 『地下鉄ダンジョン・扉を守護するモノ』
「防火扉か・・・」
島田が扉に手を掛ける。
基本的に、防火扉や防火シャッターなどは人の力で開くようには出来ているがーーー、
「だめだ。扉が歪んでいるのか、びくともしない」
目の前の防火扉は、固く閉ざされていた。
「兵庫の能力ならいけるんじゃない?」
「!」
アゲハに言われて、島田に代わって扉に手を掛ける加藤。そして、《部分強化》で腕を強化。
グッ、と力を込めると、軋むような音を出した防火扉。
「お! いけそう」
手応えを感じた。
グギギギ・・・ッ、と軋みを上げながら、扉は開くーーーと、その時。
「ーーーん!?」
加藤の目の前に、2本の触覚が揺れた。
視線を落とすと、そこにはーーー、
「バッタ?」
猫ほどの大きさのバッタが居た。
「いつの間に・・・ーーーッ!!?」
次の瞬間、加藤は階段の一番下から上階である地下一階まで吹き飛ばされた。
「なっ!?」
「兵庫!!?」
島田とアゲハの声が遠くで聞こえた気がした。
「ーーーっ!」
ーーーあ、危なかった・・・。なんだ今の!? 腹を強化してなかったら、風穴 空いてたぞ・・・ッ!?
加藤は、咄嗟に起き上がり、耳を強化して辺りを探る。
すると、不快な羽音を撒き散らす それは直ぐに見つかった。
無論、加藤を上階まで吹き飛ばしたのは、先ほどの巨大バッタだった。
バッタは天井に着地。そしてーーー、
「ーーーうぉ!」
長い足で天井を蹴り、加藤に向かって猛スピードで突っ込んできた。
ぎりぎりで飛び退き、攻撃を躱した加藤。
直ぐさま、仲間の元へ走り出す。
「ーーー加藤、どうした!? 急に吹き飛んで・・・」
「モンスターだ! でかいバッタのモンスター!」
「ンな!? 今度はバッタ!」
島田は、攻略ノートを開く。そこには、加藤を吹き飛ばしたのはモンスターの詳細が載ってあった。
「《弾丸バッタ》だ! 中級のモンスターだ!」
「ーーー中級モンスター・・・っ! 避けろ!」
加藤は、咄嗟に島田とアゲハを突き飛ばす。その1秒後、バッタがふたりの居た位置に突っ込む。
「ーーーちぃ!」
乾いた発砲音が響いた。
アゲハの銃が火を吹いたのだ。だがーーー、ぶぅぅぅぅんッと羽音を撒き散らしながら、《弾丸バッタ》は容易く銃撃を躱した。
「当たらない!」
「アゲハ、落ち着け! 集中したら能力で先を読めるはずだ!」
天井に着地する《弾丸バッタ》。そのまま強靭な脚をバネにーーー、
「ーーーその隙があれば、する・・・っよ!」
ドゴンッ、とアゲハに突っ込んでくる。それをぎりぎりの所で回避し、銃口を向けるがーーー。
「くそッ!」
バッタの背後に島田が見えた。もし躱されでもしたら島田に当たる。
「どけっ!」
「ーーーっ!」
斬! と加藤の白刃が アゲハの前を横切った。
だが、それも虚しく空を斬り裂いただけで、バッタには当たっていない。
「ーーーくっ!」
《弾丸バッタ》は、ぴょこぴょこと飛び跳ねると、階段の踊り場に着地する。
加藤たち3人は、地下鉄乗り場に繋がる防火扉と、バッタとの間に挟まれる形になった。
ーーーなんだコイツ? 突っ込み以外は、大して早くないのに攻撃が当たらねぇ・・・ッ。
「兵庫。ちょっと」
「!」
アゲハに呼ばれて、加藤は耳だけ彼女の方に傾ける。
「考えてる事は分かるよ。何で攻撃が当たらないのかって事だよね」
アゲハは、《第六感》を発動させる。
「ーーーあの触覚」
《弾丸バッタ》の三角の頭部から生えている2本の触覚が、ぴょこぴょこと動いている。
アゲハは、バッタに向かって発砲する。
だが、触覚が一瞬早くアゲハの動きを察知して、巨大なバッタが弾丸となった。
バッタは、加藤とアゲハの間に割って入るように着弾。階段の一角を破壊して、盛大に土埃が舞った。
「ーーーくっ! この触覚がセンサーになって、私たちの動きが読まれてる!」
「なるほど! だが、突っ込んだ時は、一瞬動きが止まる!」
加藤は、足元に突っ込んできたバッタに日本刀を振るう。土埃で姿は見えないが、おおよその位置なら分かる。
だがーーー、
「っ!!?」
土埃の奥で 鋭利に光る何が見えた。
次の瞬間、《弾丸バッタ》は加藤の顔面めがけて発射。ぎりぎりで体を反らした加藤は、九死に一生を得る。
バッタは、そのまま階段の壁に激突した。
「あっ・・・ぶねぇ」
安心したのも束の間。
バッタは再び壁を蹴り、発射。反対側の壁に突っ込んだ。
「ーーーくっ!」
ーーーやばい! こんな狭い所で暴れ回られたら逃げ場がない!
加藤は、ちらりと島田とアゲハを見る。
アゲハの方は、能力で攻撃を躱せるだろうが、島田はそうはいかない。現に、島田は今、頭を抱えて塞ぎ込んでいる。
ーーー俺が囮になってふたりを逃すか!? だが、そんな隙は・・・っ!
「ふたりとも、頭を下げてじっとしてろ!」
「ーーーっ!!?」
「えっ!?」
声を発したのは、頭を抱えて伏せっていた島田だ。
「はぁ!? ンな事したら、やられる一方じゃねぇか!」
「ーーーいいから! 俺の攻撃は もう完了している!」
「ンな!? どう言うこ・・・っ」
加藤の足元が弾け飛んだ。バッタが突っ込んで来たのだ。
「あぶねっ!」
「・・・ーーーぁ。そう言う事か!」
アゲハが何かに気づいたように呟いた。
「兵庫。マサルの言う通りにしよう! 多分上手くいく。私の能力が言ってるから」
「《第六感》が! くそッ、分かったよ」
加藤とアゲハは、身を伏せる。
その間も、《弾丸バッタ》の猛攻は続く。爆音を幾重にも反響させながら飛び回るバッタ。
だが、次の瞬間ーーー、
『ビビビッーーー!』
《弾丸バッタ》が、蜘蛛の糸に絡め取られた。
「ーーーなっ!?」
「罠に掛かったな! 加藤、倒せ! そんなに長くは持たない」
島田の声に、弾かれるように飛び出した加藤。
銃弾の速度で飛び回るバッタの瞬発力と筋力を持ってすれば、巨大蜘蛛の糸など数秒程度しか持たない。
ーーーが、加藤がバッタを両断するには、数秒は充分すぎる時間だった。
ーーー斬! と加藤は《弾丸バッタ》を両断する。
「ーーー意外に強敵だった・・・」
日本刀の錆にしたバッタを見下ろしながら、加藤は溜め息のように呟いた。
「ーーーでも、なんで急に蜘蛛の糸が?」
「これだよ」
「!」
加藤は、島田から投げ渡された物をキャッチする。見るに、それはーーー。
「糸の玉・・・あの蜘蛛のモンスターが使ってた罠か!」
「ご名答。さっき巣から幾つか拝借しておいたんだ」
島田は、巾着袋を開けると、数個《糸玉》が中に入っていた。その内ひとつを手に取る。
「この玉は、大きな衝撃を加えると中に織り込まれた糸が展開するんだ。それに、粘着性だから何処にでも直ぐにくっつく。お前らが戦ってる隙に、この《糸玉》を至る所に仕掛けておいたんだ」
「なるほど。暴れ回るバッタは、その罠に引っかかったって事か・・・」
「そう言う事だ。俺には、お前らみたいな能力は無いが、そういう知恵は回るんだよ」
島田は、したり顔を貼り付けながら、指で頭を突っつく。
「ーーーマサルも流石だね」
アゲハが素直に賞賛する。
「まぁな。ーーーで、話を戻すけど、このモンスターやけに強かったが、もしかしてボスか?」
「ーーーいや」
島田の言葉に加藤は、首を横に振る。
「ーーーそうだね。この扉の向こうに、もっと強い奴がいるよ」
地下鉄乗り場へ通じる 防火扉を睨みつけながら、アゲハも加藤に同意する。
「なんでそんな事が分かるんだ・・・?」
「「なんとなく」」
島田の問いに、口を揃えて答えるふたり。
事実、加藤とアゲハは、なぜそんな事が分かったのか理解していなかった。
言うなれば、本能がふたりに呼びかけたのか。
もしくは、ふたりの中に流れる“血”が警告を発しているのか。
ーーーこの先に、ふたりの命を脅かす“何か”がいる、と言う事を。
「うっし! じゃあ行くぞ!」
加藤は そう言って、能力で強化した腕で防火扉に手を掛ける。
ギギギ・・・ギィー、と重厚な音を立てて扉は開いた。




