第一章30 『決着』
吹抜けに爆発音が響きわたる。
耳を劈くような その音は、その場にいた全員を包み込んだ。
「ーーーッツ! ・・・? ん? あれ?」
加藤は、てっきり自分の体が吹き飛んだのか と思ったが、なんともない。
それもそのはずだ。爆発など起こっていないのだから。
「・・・音響弾?」
「加藤!」
「!?」
呼ばれて、島田の方へ目を向ける。
「もう、動けるだろッ!」
「ぇ・・・?」
島田の言葉が、一瞬 理解できなかった。
今、加藤の体は麻痺してーーー。
「ーーーぁ!」
体が動く。呼吸も正常に戻っている。
つい先ほどまで、指の先まで痺れて動かなかったはずなのに。
「なんで・・・?」
《凶戦士の咆哮》による状態異常は、肉体にある程度の負荷やショックを与えると 解ける性質がある。
吹抜けに投げこまれた音響弾がその役割を果たしたのだ。
「ーーー加藤ぉ!!」
再び、島田に名を呼ばれて顔を向ける。
視線の先には、悪い顔をしながら、親指を下に向ける島田の姿が。そしてーーー、
「ーーーやっちまえ!」
「・・・っ!」
その一言で加藤は、疾風怒濤の勢いで飛び出した。
向かう先は もちろんーーーホブゴブリンだ。
『ーーーゴアァ!』
この時に、ホブゴブリンの未来は決定したのかもしれない。
咄嗟に背を向けて、逃げ出すホブゴブリン。
“力”を得ても、彼の本質は変わらなかった。窮地に立たされた時に、その本質が行動に現れたのだ。
『ガァァ・・・ッ!!』
(ーーー死にたくない死にたくない死にたくない!)
斬! と一閃。
加藤の白刃が ホブゴブリンの背中を深々と斬りつけた。
『ゴ、ガァ! ァァアアア!!』
ホブゴブリンは 足を止めて、残った右腕を振り回す。
だが、そんな攻撃とも言えない稚拙な反抗は、加藤に擦りもしない。
身を屈めてホブゴブリンの腕を躱した加藤は、さらに脇腹に一撃を入れる。
皮膚が裂けてーーー遅れて、ドロリと血が溢れ出す。さらに遅れて ホブゴブリンに痛みが走った。
『ゴガァァーーー!!』
堪らず、右腕で地を穿つホブゴブリン。隻腕と言えど、流石の膂力。
床が砕けて、瓦礫が舞った。
「ーーーっ!」
衝撃で怯んだ加藤の隙をついて、ホブゴブリンは、再度 走り出す。
向かう先は、落とした大型の鉄鋼ハンマーの元だ。
なぜ、ホブゴブリンが武器の元に走ったのかは、本人でもよく分からない事だろう。
もしかしたらーーー、短いながらも数多くの敵を屠ってきた、自らの武器に縋りたかったから かもしれない。
ただ、確実に言えるのは、彼にはもう 加藤に勝つ気も、ましてや戦う気もなかったという事だ。
彼が考えていたのはーーー、
“いかに これ以上、傷を負わずにこの場を離れられるか!”
その一点のみだろう。
鉄鋼ハンマーを手に取るホブゴブリン。威圧するように肩に担ぎ上げて構えた。
「ーーーッツ!」
対して、加藤も日本刀を居合いのように構える。
この時、加藤は、何をどうすればいいのか 無意識のうちに理解していた。
足を強化して、踏み込む。一瞬のうちにホブゴブリンを間合いの内に入れるとーーー次は 、日本刀を持つ腕を強化する。
『ガァァァアアアーーーーーーッ!!!』
一方、ホブゴブリンは、間合いに入った敵を排除すべく、大上段からの一撃を放つ。
対して加藤は、横薙ぎの一閃だ。
二者の間で、鉄塊と白刃が交差して、鈍色の火花が散った。
体格差から加藤が不利と言えるだろう。
だがーーー、“勝つ気”の者と“逃げる気”の者ーーー彼我の攻撃には 明確な差が生まれる。
「殺った」
鉄鋼のハンマーが音もなく両断される。
そのまま、白刃はホブゴブリンの肉体を斬り裂き、怪物の上半身が中に舞った。
ホブゴブリンが 地上に残した下半身からは、鮮血が噴水のように溢れ出し、程なくして糸が切れたように地に付した。
「ひゅーーー、ふぅふぅ、ふぅ・・・」
浅く息を繰り返す加藤。
よろけながらも、ふたつになった怪物の死体を見下ろす。
「ーーー佐伯さんの仇だ。しっかり味わえ」




