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第一章11 『盗賊砦脱獄作戦!』

「よし! 脱獄するぞ」


 加藤が連れて行かれて数分後、佐伯は決断する。


「これ以上、旅の日程を遅らせる訳にはいかない」

「加藤はどうしますか? 連れて行かれましたけど」

「盗賊団のボスは《覚醒者》だ。《覚醒者》同士で話でもあるのかもしれない」

「殺されてる・・・なんて事はないですよね?」


 恐る恐るたずねる島田。


「あの《覚醒者》の少女と一緒なら、それはないだろ。多分な」

「は?」

「殺すのが目的なら、わざわざアジトに連れてくる前に殺してる。それにーーー、」


 先ほど立ち会った時、《覚醒者》の少女に殺意はなかったように感じる。

 銃を突きつけてられて おかしな話だが、あの少女は殺人に強い抵抗感を持っていると佐伯は推察した。


「むしろ危険なのは、取り巻きのふたりだな」


 島田と加藤を人質にとった、長髪の女と大柄な女のふたり。


「あのふたり、恐らくもう何度か人を殺してる」


 この世紀末の世でも珍しい、殺気でよどんだ嫌な目をしていた。人殺しの目だ。


「奴らがおかしな真似をする前に脱出したい」

「でも、どうやって? 武器はもちろん、荷物 一式 取られましたよ」

「盗賊団と言っても所詮は子供の集まりだ。連中、身体検査が雑すぎる」


 佐伯はふところから小袋を取り出す。中には、黄色に輝く結晶が数個入っていた。


「俺の黄結晶きけっしょうを使う」


 黄結晶とは、中級以上のモンスターからごくまれに採取される希少な結晶だ。

 価値としては、赤結晶の50倍から100倍ほどある。


「それは先生のへそくり。連中を買収でもするんですか!?」

「いや、こいつを使ってな・・・」


 佐伯は、島田に耳打ちで作戦を伝える。






***********






 看守役の少女たちは、うんざりしていた。

 と 言うのも、こんな月明かりも届かない地下で、延々と見張りを行うなど、退屈で仕方がないからだ。

 3人いるうちのひとりが口を開く。


「ねぇ、もうサボってウチらも上いかない?」

「ダメだよ! キリエねえさんがしっかり見張っとけって言ったんだから」

「でもさぁ、暇じゃんマジで」

「バレたらミサエ姐さんに殺されるよ。つーか、次ユキナの番だし。早く出せよ」


 少女たちが囲む机の上には、拳大のあわく光る石と数個の黒結晶こくけっしょう、そしてトランプの束が置かれていた。

 どうやら仕事中にカードゲームにきょうじているようだ。


「はぁ、まじメンディー。鍵かけてんだから逃げれないっしょ。はい死霊戦士!」

 ユキナと呼ばれた少女は、カードの束を机に出す。

「うっそ! マジで! 私トロールだわ」

 もうひとりの少女が同じように、カードの束を机に出す。

「フジキ、トロールとかまじダッセェ。クソ雑魚じゃん! ミエっちはどうよ?」


 尋ねられたミエっちは、不敵に笑う。


「ふっふっふっ! 君たちもまだまだだね」


 ミエっちは、机にカードを広げる。


「飛竜ってマジかよ!?」

「クソ強じゃん!」

「悪いねーふたりとも。じゃあコレは私の総取りってことで」


 机の黒結晶を自分の元に引き寄せるミエっち。

 淡い光で照らされる 悔しそうなふたりの顔を眺めるのは、たまらなく気分がいい。


「あーもー、一文なしだわ! ん? なんかうるさくね?」


 牢の中が騒がしいのにユキナが気づく。中から扉が叩かれているのだ。


「ちょっと注意してきてよ。ユキナ」

「は? 何でウチだし? メンディーよ」

「アンタ負けたじゃん! 罰ゲームだよ、ほら」


 ユキナはしぶしぶ立ち上がり、牢の前まで歩みる。

 よく聞くと、中で何かを叫んでいるようだ。ユキナは、南京錠がかかった鎖を緩めて、扉を少し開ける。


「ちょっちちょっち! うるせーよ」

 佐伯は、少し開けられた扉から助けを求めた。

「お、おい助けてくれ! 仲間の具合が悪いんだ!」

「は?」


 ユキナは地下牢の奥をのぞき見る。もうひとりの若い男がうずくまっているのが、ぼんやりと見えた。


「薬! 薬をくれ! 仲間が死んじまう!」

「いやいやいや。薬なんてコーカナもんねぇーし。悪りぃんだけど我慢してくんねー?」

「俺の荷物にあるんだ! こいつの薬が! 早く持ってきてくれ!」

「は? アンタらの荷物は、ウチらがもう貰ったし」

「なら、買おう! もう、アンタらの荷物なら俺が金を出して薬を買うよ!」


 ユキナは佐伯が取り出した黄色に光る結晶を見て驚く。

 あれは、黄結晶だ。ひとつあれば、街で数ヶ月は豪遊ごうゆうできる。いや、大きな街の市民権を買うことも可能だ。

 それが、見る限り4つほどある。


「マジ!? マジマジ!? マジかよ!!?」


 ユキナは急いで牢の鍵を開ける。

 あの黄結晶があれば、明日をも知れぬ盗賊の下っ端生活から抜け出せる。

 今しがた、全財産をギャンブルでスったのにツキが回ってきたと彼女は興奮した。


「は? 何してるしユキナ?」

「何でもねーし! 座ってろ!」


 仲間に取られる前に独り占めにしてやる。

 ユキナは扉を開け放つーー、


「はぶぅ!!」


 と、同時に中から鉄拳が飛んできた。

 顔面に硬い拳をくらい、勢いよく後ろの壁に後頭部を打ち付けるユキナ。


「な!? どうしたし!?」

「ユキナ!?」


 残りのふたりが弾けるように立ち上がる。が、不測の事態に慌てるふたり。

 あろうことか、彼女たちは、武器を携帯していなかった。


「島田! もうひとりを任せる!」

「はい!」


 解放された佐伯と島田は、看守のふたりに襲いかかる。


「はぁ!? マジ何だし!」


 ミエっちは、机の上にあった光る石を佐伯に投げつける。

 が、それは佐伯に難なく躱されてしまう。

 早くも万策尽きたらしいミエっちは、背中を見せて逃げ出した。が、島田が彼女の足に飛びつき、ミエっちは盛大に転ぶ。

 地面で組み合うふたり。


「ミエっち! ちくしょー!」


 フジキは首にかかった笛を(くわ)える。


「! 仲間を呼ぶ気か」


 佐伯は、上段の回し蹴りをフジキの顔面に放つ。フジキの顔が盛大に吹き飛び、足が天井近くまで飛んでいく。

 彼女は気を失った。


「さ、流石、先生・・・。女の子相手でも容赦ないな」


 ミエっちをめ落としながら、島田は背筋を凍らす。

 ガクリ、とミエっちが落ちた。


「ふぅ・・・とりあえず、制圧は出来ましたけど・・・この後、どうします?」

「荷物を取り戻して脱出する。それだけだ」


(どうやって脱出するかを聞きたいんだが・・・。相変わらず、雑な作戦をたてる人だ)

「まぁ、いつもそれで上手くいくんだが・・・」

 ぼそり、と島田は呟いた。

「ん? どうした?」

「いえ! 早く荷物を取り戻しましょう!」


 佐伯と島田は、階段を登ってショッピングセンターのバックヤードに出る。


「? ここは・・・ショッピングセンターか」

「見た感じ、ここはバックヤードとかですかね?」


 薄暗い通路をひた走ると、ぼんやり明かりが灯っているのが見えた。

 近づいてみると休憩室のような部屋があり、その窓から漏れる光だ。

 窓からこっそりと中の様子を伺うと、数人の盗賊たちが宴を開いている。


「先生あれ!」

「むっ!」


 休憩室には、佐伯たちの荷物が置いてある。

 戦利品を一時的に保管しているのだろう。ひとりの盗賊少女が佐伯の日本刀を抜刀して騒いでいる。


「見て見てこの刀! すごーい綺麗」

「やべーバエてるわ!」

「バエるってどーういう意味?」

「しらね。前にお店のママが言ってた」

「何でも切れんのかな? ちょちょ、試し切りさせて!」

「やべーあぶなし! 振り回すなし!」


 狭い室内で日本刀を振り回す盗賊少女。

 休憩室の扉が開いて、佐伯が室内に入る。


「危ないから、それ返してくれ」


 突然の闖入者ちんにゅうしゃに固まる盗賊少女たち。


「は? 何でこいつがここにいんの?」


 休憩室から数度、鈍い殴打音おうだおんが聞こえて、そして静かになる。島田が中を覗くと、5人もの盗賊少女が気を失っていた。


(やばい。この人数をマジで秒殺だ!)


 仮にも暴力で身を立てている盗賊5人を丸腰の状態で、さらに殺さず制圧するなど人間 わざではない。


「流石は、桜花流剣術師範代だよ」

「島田。荷物を持って脱出するぞ。急げ!」

「あ、はい! ・・・って加藤はどうするんですか」

「脱出の途中で適当に拾ってく。さっき作戦を説明したろ?」

「それは作戦とはいいませんよ・・・説明もされてませんし・・・」


 佐伯と島田は、荷物と装備を整えて休憩室を後にする。そのまま、バックヤードから売り場に出る。

 と、次の瞬間ーーー、


「なっ! 貴様らいったい何してる!」


 早速、見回りの盗賊少女 数人と出くわした。


「脱走だ! アゲハ様に報告しろ!」


 わらわら、と集まってくる盗賊少女たちと、またたく間に戦闘に発展する。


「島田! いつも通りだぞ!」

「はい! 人間は極力殺さない、ですね!」

(貴方の方が心配ですけど・・・)


 島田は、心のすみでそう思った。

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