13.5.アントニオ吹っ飛ぶ
「――シルフィアは?」
国王がふりむくと、気を失ったシルフィアはリュートに抱きあげられていた。
濡れたまぶたに口づけを落とし、リュートは眉を寄せる。
「シルフィアにはつらい光景を見せてしまった。様々なことがありすぎました」
『それにマリリアンヌ……彼女の瘴気もすごかったものね。シルフィアへの憎しみが嵐のように身体の中に渦巻いていたわ。中てられてしまっても不思議じゃない』
『シルフィアー……せっかくこっちにこられたのに、ちっとも遊べないよ』
二柱の精霊もシルフィアの顔をのぞきこみ、それぞれ頬に口づけした。瘴気を祓い、早く回復するようにとの想いを込めて。
リュートはそんな光景に口元をゆるめたが、すぐに厳しい目つきになって国王へ向き合った。
「父上。あとでお話ししたいことがあります。シルフィアの処遇について――」
「父上! それなら俺も」
リュートが言い終わらぬうち、アントニオが肘で押しのけるようにして割り込んでくる。
「先ほどの話は本当ですか!? 俺はシルフィアと結婚して、国王に――こうして見れば、かわいい顔をしているじゃ――ヘブッ!!!!!」
目をギラギラと輝かせて眠るシルフィアを覗き込もうとしたアントニオは、次の瞬間、青の文様の壁に叩きつけられていた。
白目をむいてしまったアントニオに先ほどの自分を思い出したのか国王が顔を引きつらせる。
風をくりだしたティティアが腕をさげると、アントニオの身体は壁に沿ってずるずると倒れ伏す。
『だめよ。あの男とシルフィアは結婚させない』
『そうだよー! シルフィアが好きなのは……』
『シッ、そういうことは外野が言わないの。人間はムードを大切にするんだから』
幸か不幸か、そのやりとりはリュートには聞こえなかった。
リュートはいつまでも腕の中のシルフィアを見つめていた。






