表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

首の傷

 悲鳴をあげる。母が飛んできた。


「どうしたの美晴!」

 私は声にならない。くびがくびが、と鏡を指さすと不思議そうな顔をする。


「何言ってるの。いつも通りよ。私のかわいい娘」


 鏡に映る私の両肩に手を置き、にっこりと笑う。ぽんぽん、と叩いた後は「早くしないと学校遅れるわよ」と居間に去っていった。


 私は(ほう)けたように立ち尽くす。

 母はどうしてしまったんだろう。


 目立つ大きな傷だ。


 白い肌に似つかわしくない裂け目が、左耳下から鎖骨の上まで走っていた。

 ぱっくりと皮膚が切れている。

 痛くもなく、血も出ていない。


 ひっかかりがあると、触りたくなる。かさぶたを剥がす時みたいに、危ない衝動。

 爪をかけて傷口を広げてみた。赤い中に白い部分もある。きっと筋肉だ。

 

 こんな傷があればとうに死んでいるはず。

 でも私は生きているし傷はないと言われた。どういうことだろ。


 頭の中に社会科見学で見た工場のケーブルを思い出す。係の人の説明を聞き流しながら、私は何本ものケーブルが一つにまとめられ、またあちこちに枝分かれして機械につながっていく様を血管のようだと思い、ぼんやり見ていた。


 今もあの時と同じ。頭にもやがかかっているかのよう。

 鏡の中の私は、人形のようにこちらを見つめている。


 頭がぼうっとしてこれ以上物事を考えられない。

 まあいいか、と私は支度をした。


 何度も首の傷を触りながら階下に降りる。

 シャンデリアの下、木のテーブルの上に朝食が用意されていた。

 パンケーキにフルーツ盛り合わせ、あったかい具沢山の野菜スープ。ヨーグルトが添えてある。


 バラが何十本も入った花瓶を置いて、「車で送るわね」と母がうつくしい声で言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ