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自宅に迫る何者

 


 ――――――――――








 その夜、自宅に帰った讃良は、部屋でベッドの上に座っていた。


 翼彦から縛ってくれた右手の包帯を解いて見てみると、そこには手形の火傷がまだ残っていた。



「あれは一体なんだったの……?」



 右手にはまだ痛みがあり、彼女は救急箱から取り出した消毒液を火傷につけた後、新しい包帯で右手を巻きつけた。



「お母さん、早く帰って来ないかな?」



 この日、讃良の父親は出張しており、母親は会社泊まりで家にはおらず、両親共働きの一人娘である讃良は家で留守番をしていた。



「静かだね」



 両親も誰もいない家に彼女は一人でいた。台所の冷蔵庫には、母が作って置いた夕食と明日の朝食が入っており、リビングには愛犬のケージと玩具が置いてあった。



「寂しいよ。なっちゃん……」



 いつもは両親がいなくても、家には愛犬が一緒にいてくれた。だが、その愛犬もいなくなり、讃良は一人だけ取り残されたような孤独感を覚える。


 まるで世界が止まっているような感覚である。


 だが、現実は時間だけが刻々と過ぎると、彼女はいつものように電子レンジで温めた夕食を一人で食べ、昨日の残り湯で温めた風呂に一人で入り、普段あまりやらないゲームを一人でやり、飽きてしまうと一人で机に向かって勉学に励み、そして一人でベッドに寝てしまう。



 いつもは側に愛犬がくっついていたが、今はその温もりもない。



 やがて、彼女は今日一日の出来事に疲れて、眠りについてしまう。









 時刻は深夜2時頃。









 モウ、イイカイ?









 その時、讃良の耳元から何かが聞こえ始めた。



「ん?」



 真夜中、讃良は何故か目が覚めて、ベッドから起き上がってしまう。



「何……?」



 目覚めたばかりの讃良は目を擦ると、









 モウ、イイカイ?









「痛っ……!」



 その時、讃良の右腕の火傷が疼き始めた。まるで火傷そのものが熱くなるかのような痛みに襲われた彼女は、右腕を押さえながら苦悶したその直後、





 ガチャ





 突如、讃良の部屋の外で、誰かが鍵のかかっているドアノブを掴み、開けようとする音が聞こえた。



「お母さん?」



 讃良は部屋の外に母親がいるのかと思って、首を傾げると、





 ガチャガチャガチャ!!





 外にいる何者かが、鍵がかかっている部屋のドアを、力づくでこじ開けようとしていた。



「違う。お母さんじゃない……!」



 讃良はそのドアノブの音に恐怖を感じた。



「一体誰なの……!?」



 家には彼女一人しかおらず、玄関のドアはちゃんと鍵をかけてチェーンもかけ、家の窓も全て閉めていた筈であった。


 しかし、現に讃良の目の前には、誰かが家の中に侵入して、部屋のドアをこじ開けようとしていた。






 ガチャガチャガチャガチャガチャ!! バンバンバン!! ガチャガチャガチャバンバンバンバンバン!! ガチャガチャガチャガチャガチャバンバンバンバンバンバンバンバンバンガチャガチャガチャガチャガチャバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!






 更に部屋の外にいるその何者かは、ドアノブが開かない事に苛立っているかのように、彼女の部屋のドア面を強く叩き始め、なんとしてでも部屋に入ろうとする。



 讃良はすぐさまスマホを取って、警察に通報しようとするが、



「そんな……! なんで圏外に!?」



 彼女の家には無線ルーターは勿論あり、住宅街にも囲まれているので、電波が届かない心配はない筈なのだが、ありえないことにスマホ画面の右上には圏外マークが表示され、讃良は絶望する。



 やがて、讃良の右腕の火傷はそのドアの音と共に強く疼きだす。




「いやぁあああああああああああああああああ!!」




 讃良は恐怖のあまりに悲鳴を出すが、その直後。






 し〜ん








 その強い物音は、突如いなくなったかのように一瞬で静まってしまう。



「……!」



 彼女はまだ部屋の外に誰かがいるのかもしれないと思いながら、布団に包まる。






 時刻は午前4時頃。






 夏の日の出が早く上り始めたその頃、ようやく家に日の光が照らされ、先ほどまでの恐怖体験に怯えて、ベットに包まっていた讃良はようやくここで起き上がり、恐る恐るゆっくりと部屋のドアを開けた。



 部屋の外には誰もいない。



「ほっ……」



 讃良は怖い人がいない事に一安心をし、部屋を出て振り返ったその途端、



「ひっ!?」



 ドアを閉めた直後、彼女は目の前にある光景を見て、驚愕した。




 そこには、無数の血の手形が、ドア一面に広がっていた。




 昨夜、何者かが確かに家に侵入し、血の付いた手で殴るように讃良の部屋のドアを塗りつけたのである。



「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



 あまりの恐怖に怯えた讃良の悲鳴が家中に広がる。




 その後、讃良は朝帰りでやっと帰ってきた母親を急いで部屋のドアまで連れていくと、その血の手形跡は嘘だったかのように、いつの間にか消えて無くなっていた。



 讃良は母親に昨夜起きたことを何度も訴えるが、証拠どころか痕跡自体もなく、結局、そこまでは構ってはくれなかった。














 モウ、イイカイ?



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