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迫りくる魔の手

 



 ――――――――――――








 暗い洞窟の中、一筋の懐中電灯の光が照らされ、讃良は横にいた佐野刑事の袖を掴みながら進む。



「真っ暗でよく見えない」


 内心怯えながら、辺りを見回す中、今にも何かが出てきそうな恐怖が押し付ける。


「嬢ちゃん、離れるなよ」


 佐野刑事は讃良を守りながら、自ら先導して前に進むと、突如、足元で何やらポキッと折れる音がした。


「何これ?」


 讃良がしゃがみながら、スマホのライトを照らすと、それは細く小さい白い棒状のものがあった。



「なんかの小動物の骨ですね」


「これは、ネズミか?」


 刑事二人はその骨に灯りを照らしながら、骨を取って凝視する。


 その時、


「ん?」


 讃良は何か妙に地面が盛っていた地面を踏んでしまった。


「岩かな?」


 岩にしては妙に柔らかいその感触を不審に思いながら、スマホのライトを照らすと、


「っ……!?」


 そこには、黒焦げに炭化した子供が、背中の壁岩に背を付けながら、もたれるように座っていた。



「こいつがナミさんか……!」


「これが……!」


 刑事二人もまたその遺体同然の子供を見て、驚愕する


 全身、顔面は誰なのかも分からないぐらいに炭化し、頭髪はすっかり焼き尽くされ、手と足の指からは原爆の熱線を浴びた影響で出てくると言われる黒い爪が長く生えていた。


「ちょっと、刑事さん! 何を……!」


 その時、佐野刑事が突如、その炭化した子供に手を近づけ、その首元を掴んだ。


「なんてことだ……!」


 佐野刑事の顔面が蒼白する。


「どうしたんです? 佐野さん?」


 杉浦刑事が首を傾げながら問うと、彼は恐る恐ると答えた。


「リセさんの言った通りだ……! こいつ、まだ生きてる……!」


 その瞬間、讃良と杉浦刑事の二人は絶句した。



「こ、この黒焦げの遺体が……!?」


「信じられない……!」


 彼らは未だに夢を見てるのかと、言わんばかりに狼狽える。



 その時、


「ガハッ!」


 遺体と思われてた黒焦げの子供が、突如、息を吹き返した。


「きゃあ!」


 讃良はそれに驚き、悲鳴を上げる。



「リ、リ……セ……チャン……!」


 渇ききった声で、何かを求めるように両手を上げた。



「こいつ、こんな状態なのに、まだ動けるのか!?」


「なんという生命力だ……!」


 長崎原爆で全身炭化するほどの大火傷を負い、それから戦後七十年以上もの年月を、このいつ死んでもおかしくない状態のまま生き抜いてきたナミの生き様に圧倒され、刑事二人は咄嗟に拳銃に手を付けてしまう。



「ダメ刑事さん! この子は敵じゃない! れっきとした重傷者なのよ!」


「そ、そうは言ってもよ……!」


「これは、あまりにも……!」


 讃良は銃を手に取ろうとする刑事二人を止めようとするが、彼らはどうしても動揺を隠せず、まるでゾンビを見てるかのような恐怖心を抱えた。


「リ……セ……チャ……ン……!」


 その時、黒焦げの少女は讃良の方に顔を向けながら、両手を差した。


「な、なに……!」


 讃良はその黒焦げの少女の動作に狼狽えると、


 その瞬間、溶けて繋がりかけてる瞼から、僅かな隙間が開き、そこから覗く白い目が彼女の目と合わさると、讃良の視界と意識はその目に引き込まれるかのような感覚に襲われる。



「きゃあああああああああああああああああ!!」


 洞窟の中で讃良の悲鳴が鳴り響く。





「今のは、七瀬の悲鳴……!?」


 その頃、外にいた翼彦の耳にも、その彼女の悲鳴が届いた。


「七瀬!!」


 頼もしい刑事二人が側にいるから、大丈夫だろうとは思っていたが、やはり今回の事件に彼女を連れて行くべきではなかったかもと彼は後悔する。


「行きなさい。あたしが止めるから」


 すると、リセが自ら殿を引き受けようとする。


「駄目だリセさん。あなたを置いていく訳には行かない」


 だが、翼彦はそれを拒否した。



「この事件の鍵を握ってるのは、リセさんしかいないんだ! だから、絶対に見捨てる訳にはいかない!」


「そうかい。なら、お好きに」


 リセは目の前にある川を見ながら、数珠を取り出す。



「アアア……!」



 川からは、やがて能面を被った不気味な少女が、ずぶ濡れで這い上がって行く。


 焼けただれた皮膚からは、川の水に濡れて、高体温で蒸発した蒸気が溢れ、身を纏わせる。



「ナミちゃん! あたしだよ!」


「アアア……!」


「井口リセだよ! 覚えてる?」


「アアア……!」


 リセは不気味な少女に何度も声をかけるが、全く反応しない。


「そんな! 昔の親友だったんだろ!」


 翼彦は不気味な少女に問い詰めるが、何も返事はない。



「無理もない。もうあたしも既に老い過ぎたからねえ。顔を見たって、すぐには分からないさ」


「だけど……!」


「もう仕方ない。今のナミちゃんは正気じゃないんだ。結界を張るよ!」


 そう言うと、リセは手に数珠をかけながら、印を結び始めた。


「きえい!」


 リセが喝を込めた声を放ちながら念じると、翼彦の目には見えない結界の壁が現れ、二人とその後ろの穴を守る。


「ジャマ……!」


 だが、その瞬間、不気味な少女は手を横に一振りすると、その結界の壁をあっさりと焼き切ってしまう。



「結界が……こうも簡単に……!」


 霊媒師のリセはその最も簡単に結界を破ってしまう相手に絶望感を覚えた。


 結界は手を抜いてなかった。むしろ、これまでの人生の中で、幽霊相手に結界を破られる事は一度もない上に、本気を出していた。


 それをこうもあっさりと破られてしまい、リセは唯一、霊相手に対抗できる術を失ってしまう。



「やはり、生きてる人間が一番怖いね。この結界を破るとなると、もう神様の域だよ……!」


 今、目の前にいる生き霊は間違いなく、リセにとって最大の敵であった。



「打つ手なしだね……」


「そんな……!」


 翼彦はリセのその諦めた言葉に悲観する。


「リセさん! 諦めるなよ!」


「無理だね。ここまでのようだ……」


 リセは力ない言葉で呟く。



「俺は諦めない! 七瀬の為にもだ! リセさんが打つ手なしと言って諦めるなら、俺は最後の最後まで足掻く方を選ぶ!」


 すると、翼彦はポケットからスマホを取り出し、何かを検索した。


「ナミさん。俺はあんたが怖い。一度、あんたに焼かれたからな」


 翼彦はあの滅亡の長崎で身を焼かれた時の記憶がまだ残り、そのトラウマの影響で僅かに身を震わす。


「だが、あんただって、怖いものはある筈だ!」


 すると、翼彦はスマホの音量を最大にして、あるものを見せた。



 ブゥ――――ン



 それは太平洋戦争、当時に飛んでいた戦闘機が映ってる動画であった。



「キ……キィッッッ!?」



 不気味な少女はその映像と音に反応して怯んでしまう。



 ヒュー! ヒュー!


 ダダダダダダダダ!



 そして、スマホからは、やがて爆弾が落とされる瞬間と機銃の掃射音が流れ、それを見た不気味な少女はかつての恐怖を思い出して体を震わしてしまう。



「キ、キェエエエエエエエエエエエエ!!」



 すると、不気味な少女は恐怖のあまりに川へ逃げ、そのまま潜って消えてしまった。



「なるほど、その手があったのね」


「電波が届かなかったら、どうしようかと思いましたが」


 翼彦は不気味な少女を追い払えた事に、ホッと一息をする。


「いつ聞いても、嫌な映像と音だが、まさかそれに助けられる日が来るとは思ってなかったよ」


 リセはかつて自分達を苦しませた戦闘機や爆撃機に対し、皮肉な思いを抱く。



「それよりも、奴を食い止めることが出来たんだ! 早く七瀬達のところに行かないと!」


 だが、翼彦は安心してる場合ではないと言わんばかりに、リセにすぐに為すべき事を伝える。



「そうだったね。本体のナミちゃんに会わなきゃ」



 リセは翼彦のその言葉に従い、二人は洞窟の中を目指す。



「待ってろ七瀬!」



 一番に入った翼彦は讃良を求めて、狭い穴を掻い潜る。


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