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Episode.4 魔法具製作師の底力


 シンは掛け持ちしていたバイトを全て辞め、二ヶ月間、学校に通いながらも、それ以外の時間はごく普通の家庭が住む──独り暮しにしては少々立派すぎる二階建ての一軒家に引き(こも)り、魔法具製作に打ち込んだ。


 シンが最初に行ったのは、【魔法具製作師】を魔法具製作師たらしめる技術──装備にステータス強化特性を永続付与(エンチャント)することだ。手始めに自分の装備で試した。


 《スキル》というものはレベルに(ともな)って成長したりするものではなく、所有者個人の力量によってその力を発揮する。今回の場合【魔法具製作師】の《スキル》魔法具製作 は、シン自身の発想力、イメージ力に伴ってその真価を発揮する。


 シンのレザーアーマーを、光の力線で描かれた幾何学的な円陣──魔法陣が包み込む。シンは集中力を高めながら、どんな特性を永続付与(エンチャント)するのかを明確にイメージする。そして。


 「どうだ!」


 魔法陣の光が次第に弱まり、永続付与(エンチャント)作業が終わったことを告げる。《スキル》魔法具鑑定 を使用し、成功したかどうかを調べる。



 VIT:+30

 MND:+30



 「駄目だッ! これじゃ売ってる魔法具と何も変わらないっ!」


 初めての永続付与(エンチャント)で、これだけの特性を与えられる者はそうそう居ない。しかし、確かにシンの言う通り、ただ永続付与(エンチャント)されただけの装備品なら、そこら中に売ってあるし、これより高い数値で永続付与(エンチャント)されたものも数多くあるだろう。


 次にシンが行ったのは、色々な装備店を回って、その中で高値で売られていた魔法具と同等の永続付与(エンチャント)をすることだった。


 《スキル》魔法具製作 の魔法陣が、シンのナイフを包み込む。


 「くッ……」


 シンの頭の中でカウントされる、永続付与(エンチャント)する特性の数値がみるみる上がっていく。そして。



 STR:+60



 と、数値が達した瞬間─────


 ピキッ! という音と共に、ナイフの刃に亀裂が入る。それでもシンは、より集中力を高め、更に数値を上乗せしていく。すると、パリンッ! と完全に刃が砕けた。


 「材質によって、永続付与(エンチャント)出来る特性の数値の上限が違うのか……」


 シンは、今やっていることが無意味なのではないかと思い始めた。


 なぜなら、シンがいくら永続付与(エンチャント)能力に長けていても、材質によってそれに上限があるのなら意味がない。


 では、高材質で出来た高級装備で行うとなれば、その装備を購入する金が必要になってくる。


 それなら、成功するかも分からない永続付与(エンチャント)を自分でするより、成功して売られている装備を購入した方がよっぽどましというものだ。


 「はぁ……」


 シンは思わずため息を(こぼ)す。砕けたナイフを片付け、作業する机の上を綺麗にする。


 「どうすりゃいいんだよ……」


 シンは座っている椅子の背もたれに体重をグッと乗せ、天井を見る。そのまま目を閉じ、少し休憩しようと、そう思ったとき─────


 『探索者たるもの、発想の転換って大切よね~!』


 シンはふと母親が言っていたことを思い出す。休憩モードに移行しつつあった意識を再び起動する。


 「発想の転換……ね……」


 (そう簡単に転換できれば苦労しないっての……)


 魔法具製作に打ち込んだ約二ヶ月間。シンがもっとも苦労したのがここからだ。『発想の転換』をするためにこの期間の大半を(つい)やした。


 シンは、他の魔法具製作師が行っていることを紙に書いてリスト化してみた。


 ・ステータス強化永続付与(エンチャント)


 「ん……?」


 ……………。


 「んんんんんッ!?」


 (全く思い付かん!? えっと、他には──)


 ─────無いのだ。


 今まで数多くの魔法具製作師が居たが、その皆が皆、永続付与(エンチャント)しかしてこなかったのだ。勿論それを極め、凄まじい数値の特性を付与した者も居るが、それでも永続付与(エンチャント)であることに変わりはない。


 そして─────


 「そこに『発想の転換』の余地がある」


 シンは《スキル》魔法具製作 で、何が出来るのかをひたすら研究した。自分の装備だけでは足りなくなったため、研究材料を購入した。購入したのは装備製作に使われる素材だ。その方が、完成された装備を購入するよりよっぽど安価だからだ。



 ─────魔法具製作から二ヶ月目。研究成果を存分に、ふんだんに盛り込んだ装備一式が完成する。


 恐らく世に出したら、革命的な魔法具としてすぐに(うわさ)が広まるだろう。この発想は(またた)く間に広がり、他の魔法具製作師たちが、こぞってこの技術を使い始めるはずだ。


 学校に行けば、迷宮(ダンジョン)に潜らなくなったシンを、晃太とその取り巻き二人が馬鹿にし、見下し、からかいだす。


 研究のため、多くの金が必要になる。そのために出来るだけ生活費を切り詰め、家の貯金で遣り繰りする。


 ─────そんな日々を耐えた、シンの成果。



 【愚者の外套コート・オブ・ストゥルトゥス

 《特殊効果》

 VIT、MND、AGIのいずれか一つのステータスを瞬間的に2倍することが出来る。


 【リビレラリータ】

 《特殊効果》

 ・加える魔力量によってSTRのステータスを向上させられる。

 ・魔力を性質変化させることが出来る。


 【ジェットブーツ】

 《特殊効果》

 ・加える魔力量によってAGIのステータスを向上させられる。

 ・風へ性質変化した魔力を、超圧縮して噴射出来る。



 【愚者の外套コート・オブ・ストゥルトゥス】は実に皮肉掛かった名前であり、非戦闘系職業である【魔法具製作師】の身で迷宮(ダンジョン)に挑む愚者(シン)にぴったりの名前である。


 【リビレラリータ】はラテン語で“自在”。この、甲の部分に複雑奇怪な魔法陣が描かれた白い手袋の名前として実に合っており、シンが付与した特殊効果がその名の由来である。


 【ジェットブーツ】は、この三種の魔法具の中で、シンが最初に完成させたものである。機動力をAGIのステータスのみに頼るのではなく、風を噴射することによって一瞬の超加速を可能としたのだ。


 ─────そう、この二ヶ月間でシンは【魔法具製作師】として初めて、特殊効果(スペシャルエフェクト)付与を思い付き、その成功を成し遂げたのだ。


 勿論これだけの付与を(ほどこ)すため、相応の装備を使用しなくてはならない。


 そこでシンは、独り暮し生活の中で(つちか)われた裁縫技術を駆使し、コートだけはそのものではなく、素材を購入し、自分で縫い上げて作ったのだ。流石に手袋やブーツを一から作ることは出来なかったが、お陰で結構なコストを削減して製作することが出来たのだ。


 シンは、それらの装備を探索者バッジの特殊空間に仕舞い込み、迷宮(ダンジョン)探索の準備を整える。


 最後に迷宮(ダンジョン)に向かったのはおよそ二ヶ月前。今はもう、夏の暑さが消え、秋風が吹く季節になった。日はすでに沈みかかり、空が黄昏色に染まっている。


 「【魔法具製作師(むのう)】の底力、見せてやるよ……」


 そう言ってシンは、探索者バッジを右手に握り締め、二ヶ月ぶりに迷宮(ダンジョン)へと駆けていった─────

「この作品面白いッ!」

「続きが読みたいッ!」


そう思ってくださったそこの貴方!

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