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第一話 狼の覚醒

VRMMOのラストマイソロジー。

そのゲームは、自由度の高いゲームでありながら、メインストーリーにも注力されて大人気ゲームだ。



「まったく! このレイナード滅茶苦茶むかつくな!」


そんな大人気ゲームに出てくる敵のレイナードは、魔王に次ぐ強敵で、人間でありながら魔導を極めた存在で、人間国家を裏切り魔王側に寝返ったキャラクターだ。


多くのヒロイン候補やプレイヤー達の命を狙う存在で、ラストマイソロジーの中でもメインキャラクターであり主人公的存在のハルベルトを追い詰める存在。


それ故に多くのプレイヤー達に命を嫌われている悪役だ。


なんのことはない。私もこのレイナードが大嫌いである。


何せチート級の敵であり、イベント戦で何回こいつのせいで課金させられたことか。


超レアなアイテムを入手できるからと、古参プレイヤーが嬉々としてイベントに臨み、その後は黙々と周回プレイでプレイヤー強化に励む日々。


結局誰もがこいつを前に挫折していった。


ゲーム史上稀に見る倒せない敵として、誰もが一番乗りでそいつを倒そうと躍起になったが、未だかつて倒した報告は聞いていない。


運営もレイナードに思い入れ強すぎじゃないか?


倒せない敵用意してどうすんのよ


古代史編、中世辺編、近未来編とある物語の中で、全てに登場するレイナード。



私はまさに近未来編のレイナードに何百回目かの勝負を挑んでいてた。


中世編から登場する人型機動兵器が、近未来編からは更に技術発達の恩恵で空や陸を駆け回る素敵ロボットになっているのだが、それを使ってレイナードのいる最果ての地へと向かうところからイベントはスタートする。


最もこの人型機動兵器は、プレイヤーが様々な生産職を極め、独自に技術レベルをあげなければ建造できないので、それすらイベントの参加条件になっているところが酷い。


その最果ての地へと向かう途中は、レイドボスクラスの龍や怪獣がルートを塞いでおり、これらを討伐してそのまま最果ての地へと挑まないといけないため、大抵はここで瀕死状態に陥って最果ての地に到着してまもなく、守護者達にぶっ殺されるパターンが多い。


しかも最果ての地には、近未来編特有の、近代的な軍事部隊とも言える装備に身を包んだ兵士達が待ち構えており、それらに大抵は殺されてしまう。



が、こいつら相手に何度も辛酸を舐めさせられた俺は、攻略法を独自に生み出し、こいつらの猛攻を突破。


数々の課金によって用意した回復アイテムを消費し、その上でレイナードの前に立っていた。


「ようやくだ! ようやくベストに近い状態でお前の前に立てた!」



「ようこそ我が城に。不屈の精神の持ち主よ。666回も根気よく挑んだのはお前だけだ」


おや? セリフが何か違う。


「まさか我が結界を打ち破る者がいようとはな。よかろう。我が全力を持って貴様を妥当してやろうではないか」



なんだ・・・・・・こいつを倒すためには規定回数戦闘に挑まないと、倒せない仕様になっていたのか。


「666回も戦い挑んで始めて倒せるとか鬼畜過ぎるでしょ! ふざけんな!」


「ふん。魔法の発動や解除に条件をつけるのは魔導師として初歩だろうに。さあ掛かってこい。・・・・・・そして殺してくれ」



「そんなに殺して欲しいなら黙ってぶっ殺されやがれ!」


私はありったけの補助魔法の効能を持つ魔道具を使用し、レイナードに勝負を挑んだ。



──



「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」


初めてだった。ゲーム史上最強とまで名高いレイナードを追い詰め、あと一撃で初討伐を成し遂げることができる。



「ふふふ。ようやくだ・・・・・・・ようやく解放される・・・・・」


「こっちもようやくだ! お前のせいでどんだけ課金したと思ってんだ! 超レアなアイテム期待してるぜ!」



止めとばかりに俺はアサルトライフルに装着されたナイフをレイナードの心臓にめがけて振り下ろす。



「有り難う・・・・・そして済まない・・・・・」


レイナードが最後の悪足掻きとばかりに俺に掌を向けると、そこから爆発的な魔力が放たれ、俺を包み込んでいく。



次の瞬間、私の目の前は真っ白になっていた。




───



冬の玄関口と言われる、エルテミナ帝国とブランベルク王国との国境付近の空白地帯。


サラード大連山を形成する山の麓に、幼い少年のハルは暮らしていた。

山から吹き下ろす冷たい風に湿り気が帯始めると、もうじき越冬前期の季節が訪れる。


集落付近にある湧水の出る場所に水汲みにきたハルベルト・クリスタは、ふと山を見上げながら、山の中腹から三角状の何かが空に向かって飛んでいくのを目にする。


この時期になれば恒例の光景である。


「また姉さん。本当に空が好きだなぁ」


確かグライダーと呼ばれるものだっただろうか?


集落長の娘でありながら、物心ついた時から“かがく”と言うものを研究し、集落の皆を驚かせていた少女のユアナ・スプリング。


血の繋がりはないものの、両親のいないハルベルトを実の弟のように面倒を見ていた。


そんな彼女はまるで神の掲示を受けたように、日々色々と発明したり、ハルベルトに様々なことを教えてくれた。


例えば水に電撃魔法を放つと、二種類の可燃性の気体が発生するとか、黒鉛には微量の素敵物質が混ざっていて、それとミスリルと混ぜると摩訶不思議な合金が出きる等、聞かされてる側からすれば、それはもう何のことやらわからないが、瞳を輝かせながら楽しそうに話すユアナを、ハルベルトは好きだった。


「明日にはアカデミーに行くって言うのに・・・・・」



王都にあるアカデミー。貴族や王族に勇者候補と呼ばれる者達が通う学院に、ユアナは他の王族や貴族達に圧倒的な差をつけ、主席の試験成績を叩き出して合格した。


本来であれば国籍を持たない空白地帯の人間が、王国の魔導学院になど入学出来るわけがないのだが、彼女は見事にそれを果たしたのである。


それ故に集落では彼女を神童と呼ぶ者は多い。


水を汲み終えたハルベルトが集落に戻ると、集落では明日出立するユアナの為に、盛大な送り出しのお祭りの準備が行われていた。


「おいハルベルト、その水桶置いてきたらこっちの準備手伝ってくれ」


「はい」


集落長のロイに頼まれ、ハルベルトは水桶を置きに行くと、恰幅のいい女性がシチューの入った鍋を持って建物から出てくる。



「こら危ないじゃないか! 鍋がひっくり返ったらどうするんだい!」


「すみません」

「全く。どんくさい子だね! ったく・・・・・気を付けな」


「おいハルベルト! まだか! さっさとせんか!」


「今すぐ行きます」


そう言って俯きながら行こうとするハルベルトの肩を、恰幅のいい女性が掴んで引き留めた。


「お待ちよ」


突然口の中に突っこまれるスプーン。


「美味しいかい?」

「美味しいです」


「なら美味しそうな顔をするんだよ!」


方々から聞こえてくる声に反応しながら、ハルベルトは無表情に応えていく。



両親のいない子供。その両親はエルテミナ帝国の父親と母親がブランベルク王国だとは聞いたが、それ以上の詳しいことは聞かされていないハルベルト。



そのせいか、この国籍のない空白地帯の中で、ただ一人浮いていたハルベルトは、同じ集落の子供達には苛められ、一部の大人達からはつま弾きにされていた。


この恰幅のいい女性は、数少ないハルベルトを気に掛けてくれる女性だった。


「はい。マーサさん」


「行っておいで」


背中を押されてロイの元へと行くハルベルト。


そうしてお祭りの準備が整い、その日の夜は盛大な催しが行われた。


いつもと違い遅くまで明かりが灯る集落。


そんな集落を尻目に、ハルベルトは一人集落の外に出て、小高い丘の上で星を眺めていた。


少し大きめな白くて丸いものが月であると、以前ユアナに教わったハルベルトは、手が届きそうな錯覚に思わず手を伸ばそうとした。


「届かないよハル」


声に振り返ると、ユアナが暖かなスープを持って立っていた。


「姉さん」


「あの月は何時だってこの星の周りを回っているんだ。いつかハルベルトを連れていってあげたいな」


「行けるの? 最果ての塔とどっちが遠いの?」


お伽噺に出てくる最果ての塔。大海原の中にそびえ立つ人類未踏の地であり、伝説級の魔者達が塔に続く空と海を守護して妨げている。


そんなお伽噺を引き合いにだしたハルベルトに、


「もちろん月。でも行くのが簡単なのは月かもね。でも僕は最果ての塔を目指してる。そこに行けばきっとこの世界の真実がわかると思うんだ」


「この世界の真実? 姉さんは時々難しいことを口にするよね」

「今は難しくても、いずれハルにもわかる。いいかい? 以前から言っていたように、僕の部屋にある僕が沢山かいた本を、毎日欠かさず読んで勉強するんだよ? それと私が王都から毎月必ず本や道具を送るから、それを使って勉強したりトレーニングするんだよ? そうすればハルベルトも、いずれアカデミーに入れる」


「別に入りたくない・・・・・・それに僕は姉さんと違い頭も良くないし、魔力だってそんなにある訳じゃない」


「諦めちゃ駄目。比較しちゃ駄目。他者と比較して自分を貶めるのは諦める為の言い訳。いいかい? 確かに生まれ持った才能は誰しも違うよ。でもね、君はだって勉強し考え続ければ頭は良くなる。体だって鍛えれば強くなる。魔力はどうしようもないけど、ハルには魂の強さがある」


そう言ってハルベルトの胸に手を充てるユアナ。


「魂?」


「いずれわかるよ。それにここではないとある国には、アームジャケットと呼ばれる人型機動兵器があってね。それに様々な装備を施すと単独で宇宙に行けるんだ。それこそ王国の魔導騎兵なんて有人兵器はただの木偶さ。何せ鉄のフレームに魔法付与で強化しただけのなんちゃってロボットを僕はロボットと認めない! まぁ、最近じゃ目覚ましい進化を遂げてるみたいだけど、僕の造るものはそんなもの目じゃない。ハル。きっと私が本気を出して建造したものは君しか乗れない。だから君にこれをあげよう」


そう言ってユアナはハルベルトに謎の素材でできた、レリーフを渡す。


「これは?」


「これはとある家の家紋。│飛燕狼鬼龍ひえんろうきりゅうの家紋。二匹の白と黒の燕が世界を包み、世界蛇と神を呑み込んだ白亜の巨狼、五属性の守護者たる鬼。僕がとある知人に託されたものだよ。これがいずれ君を導くと思う」


そんな知人がユアナにいただろうかと首を傾げるハルベルトだったが、慕う姉からのプレゼントを素直に受け取った。


「さぁ冷めないうちに食べな」


「うん。姉さん。僕、大きくなったらあの月に行けるかな?」


「行けるよ。月どころか最果ての塔にすら行けるよ。何せハルには私がいるから」


「うん」


───



「懐かしい夢を見てしまったなぁ」


気がついたらいつの間にか朝を迎えていた。そんな日々はここ最近日常茶飯事であるのだが、ユアナは着崩した制服の上にお手製の白衣を羽織ると、出向先の魔導学院の演習場へと足を運んだ。



故郷を出たのが七年前。そして学院を主席で卒業して王国の魔導騎兵研究開発部署を独自に創設したのが四年前だ。



当時の王国の、一般魔導騎士が扱う魔導騎兵は、操縦者の魔力で動く張りぼてに等しいものだった。


何せ稼働時間は短いし、操縦席は年中かび臭く、視界を確保できるのは胴部にある小窓のみ。


一度だけ試しに乗ってみたユアナだが、乗り心地は最悪としか言いようがなかった。


鉄の棺なんじゃないかとユアナに言わしめさせたほど、魔導騎兵の操縦席は夏は蒸し暑く冬は極寒地獄。


今でこそユアナが開発した兵器は、四方に魔導モニターが備えられ、空調設備も備わっている。


そして小窓なんて古臭い視界確保手段がなくなったお陰で、雨季の大雨がコックピットに入り込んでくることもなければ、越冬期の極寒風が顔面を吹き付けてくることはない。


そして更に魔導カートリッジの採用により、操作性は格段に複雑化したが、兵士の魔力を使用しなくても運用できるようになっただけでなく、運用時間も伸びた。


が、その開発した機体は未だお披露目していない。


何故ならばそれはまだその時期ではないと、ユアナは考えているからだ。




視線の先では、王族のヴァレンタイン家に仕える貴族の少年が、親に与えられた訓練機を操って、一般学生の訓練用に払い下げられた旧式機体相手に一方的に仕掛けている光景が広がっていた。


貴族の少年と平民の少年による決闘。



おまけに相手は王国十二騎士に選ばれている貴族の息子。


「醜いねぇ」


そう言いながらもどこか楽しそうに見ているユアナは、まるでその光景を見ていても別の何かを見ているようにも見えた。


視線の先に映る黒髪の少年。


辺境の空白地帯からやって来てアカデミーに入学した少年が駆る機体。


黒髪の少年の駆る旧式機体と貴族の少年が乗る機体の性能差は歴然だった。


何せ十二騎士の子供に与えられた機体は、訓練機とは言え、加工され原動力代わりに搭載された魔石が操縦魔力の代わりを果たしている。


そして平民の少年なんて魔力の才能がない。


それ故に、一方的な蹂躙とも言える戦いだった。



「はっはっは! どうした平民! 成績と剣術訓練の実技では優秀だそうだが、魔導騎兵の操縦はからっきしだな!」



「・・・・・・」


ユアナには少年が考えていることが手に取るようにわかった。


恐らく貴族の少年の頭の中では、黒髪の少年がさぞ悔しそうにしていると想像していることだろう。


でも違う。


「明らかに劣勢。でもね」



貴族の少年の操る機体の装備するレイピアが、連続の刺突を繰り出した時、その連続された腕の振りの一瞬から隙を見つけた少年は、半壊しそうな魔導騎兵の右腕を左腕でもぎ取り、肩の隙間の稼働部分に壊れた右腕のマニピュレーターを突っ込んだ。


「一瞬だけで十分だよ」


続いて行われる魔導騎兵によるヘッドバッドが、貴族の少年の胸部装甲に叩き込まれ、その衝撃で操縦席の中の貴族の少年は頭を強打して意識を失ったのだった。



「旧式は装甲が厚く、そっちの専用機は機動性を上げるために装甲が薄くなっている。性能の差で機体を破壊できないならパイロットを動けなくしてしまえばいい」


決して少年がそのようなことを丁寧に説明している訳じゃない。


ユアナはさも少年が口にしたかのような台詞を独りごちると、満足そうに笑う。


登場機から降りた少年は、倒れた機体から助け出された少年を一瞬だけ視線を向け、早々と訓練場を立ち去って行くのだった。


そんな様子を遠目から眺めていたユアナは、舌をちろりと出して下唇を舐める。


「成長したねハル。まぁ、機体性能の差を覆した結果には満足だけど、まだまだ君はひよっこだ。さて、試練の時が来るよ」



2




「ったく。面倒臭い仕事ね」

「そう言わずにフランチェスカ様。今回の和平条約の締結は、エルテミナ帝国の国民の生活を助ける為に必要なことです。これが成功すれば、国民の生活が向上し、国力増強に繋がります」



極寒地帯であるエルテミナ帝国。年中豪雪地帯とされる北方の領土は、帝国の魔導技術によってどうにか人々が住める状況にはなっていた。


が、侵略国家としての歴史が、国の優先順位のトップに軍備増強と軍閥貴族優位主義の礎ともなったことから、帝国は常に国民の生活が逼迫していた。



このままではいずれ国が滅びることは間違いないだろう。


皇帝の妾の子であり、ヴェルズ公爵家に養子として引き取られたフランチェスカを、穏健派の者達は秘密裏に王国との和平の使者として擁立。


本来であればフランチェスカを表舞台に出した所で意味はない。


が、皇帝の血族で継承権を握っているのは、側室との間に産まれたばかりの男児と、フランチェスカのみであった。


長い歴史の中で蓄積された帝国皇帝の業故か、子供に恵まれなかっただけに、穏健派はフランチェスカに目をつけたのである。



万が一にも帝国の軍閥貴族達に知られてはならない。


連中が穏健派の企みに気付いた時、確実にフランチェスカの命は暗殺の危機に晒されるだろう。


それ故に同行者のルミナス・ネージュは、穏健派が選んだ中でも、帝国国内で数ある精鋭部隊の中から選ばれた戦闘のエキスパートであった。


護衛役の任を与えられたルミナスは、帝国製魔導騎兵の運搬車輌と連結された魔導馬車の中で、フランチェスカのご機嫌伺いに苦労することは想定外であった。


幼少の頃、焔の精霊との契約により左目を差し出した彼女は、左頬まで覆う漆黒の眼帯を装着しているせいで、その皇族にも関わらず異様な雰囲気を纏った彼女を、社交界でも浮いた姿とも相まって、周囲の貴族達は敬遠していた。



幼少からの状況が、彼女の性格を少々気難しいものにしてしまってのかもしれない。



そんな彼女を少しばかり気の毒に思っていたルミナスが、移動中の異変に気付いたのはすぐのことだった。


「後方から土煙と、上空から聞こえてくるドラゴンの咆哮・・・・・・まさか」



ドラゴンとは通常人気のない山にこもっており、特にサラード大連山の極寒地にはドラゴンは生息していない。


鳴き声からして、エルテミナ帝国が飼い慣らした運搬用のワイバーンであることはすぐにわかった。


国境を越えてフランチェスカを襲撃しに来た可能性が高いと判断したルミナスは、直ぐ様後部車輌に続く扉を開く。


もうすぐで王都であるにも関わらず、このタイミングで仕掛けてくるということは、フランチェスカが王都に入ると同時に襲撃を仕掛けるつもりであることは、ルミナスにもすぐにわかった。



「このまま王都に逃げ込み助けを求めます」


「一体どういうことよルミナス!」


万が一、王国内部に敵の協力者がいた場合、王都の中にも安全な場所がないかもしれない。


本当ならここで足止めに参加したかったが、ルミナスは部下に魔導騎兵を預け、殿を命令した。


「いいか! 一機たりとも王都へ近づけさせるな!」


「は!」


フランチェスカの手をとって前へ移動させると、ルミナスは後部車輌との連結を切り離し、魔導馬車を全速力で走らせる。


そうして魔導馬車が王都の門を潜った時だった。


突如上空から無数の機影が王都目掛けて降下してくる。



「まさか・・・・・・ドラグーン部隊。しかもあの紋章はラウンズ12柱が一人のライアン・オーウェン侯爵の家紋! 」



驚きを隠すことが出来ないルミナスに、家紋をつけた魔導騎兵から声が響き渡る。


「ここまでですよフランチェスカ様。貴方にはここで死んで頂きます。卑劣にもブランベルク王国は貴方を人質に我々に降伏を迫り、連中は非道にも貴女方を殺した。我々は非道な王国に屈することなく、ここででフランチェスカ様の仇を打ち、王都を占領するという筋書きです」



「それでもラウンズのすることか!」


「ええ。ラウンズは帝国に剣を捧げた。そしてその捧げるべき主はヴァイス・エルテミナ皇帝で、皇帝のご子息であるリカルド様のみ。フランチェスカ様ではないのですよ」


「ヴァイス様が貴様達の横暴を」


「否応なしに認めますよ。女系皇帝なぞ認めない我々の理念をね。エーテルドライブ起動。我が愛機であるリュクセールンの刃にて散るが良い」


膨大な魔力から形成された焔の剣が、街の建物を焼き切りながらフランチェスカへと迫る。


「帝国貴族め! 貴様達の隙にはさせん!」


帝国魔導騎兵の襲撃に駆けつけた一般魔導騎兵が割り込み、焔の剣を持つリュクセールンの腕を押さえ込む。



「さぁ今のうちに!」


「勇敢なる王国の魔導騎士よ! 感謝する!」


ルミナスはフランチェスカの手を取り走り出す中、王国の魔導騎兵の胴体が上下に割かれた。


膨大な熱によって融解した切り口からして、操縦者の無事は絶望的であった。


「くっくっく。我が懐に飛び込めば、このようにフレアバイトの餌食よ」


まるで鎌のような形の二本の刃が、リュクセールンの胴を軸に胴の前で交差し、膨大な熱を放っていた。


「く! 逃げますよ!」


勇敢なる王国の魔導騎士の奮闘むなしく、ルミナス達はライアンから逃げ回ることとなった。






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