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6:エリックとボトルシップコレクション




 今日は侍女に泣きつかれ案件その②。

 勇者であり王太子であるエリックの私室である。


 彼の執務室の隣にあるその部屋は、寝室もついた二間続きなのだがーーーすべてがボトルシップにまみれていた。


 ボトルシップとは瓶の中でピンセットを使って組み立てた船の模型のことだ。

 船の模型を組み立ててから瓶の底を切って中に入れる邪道もあるらしいけど、この世界ではその方法はないらしい。


 エリックの執務室に行ったときもやたらとボトルシップが多いなぁと思ったけれど、ここはかなりの侵食具合である。


「私は子供の頃からボトルシップが好きでね、新しいのを見ると買わずにはいられないんだよ。今は勇者として王太子として忙しいし、戴冠したらさらに忙しくなるからできないんだけど、いつか自分でもボトルシップを作ってみたくてね。材料やキットはいろいろ買っているんだ。ふふ、いつかのんびりした老後に作りたくて……」


 つまりエリックは、コレクション癖とクラフト魂を抱えたタイプの汚部屋創造主であった。


「エリック様、恐ろしいことをお教えしましょうか……」

「うん、なんだい、キヨコ」

「年を取ると老眼になって細かい作業が難しくなり、ここにあるボトルシップのキットすべては作れない可能性がものすごく高いです」

「え」

「むしろ今から作り始めないと一生掛かっても終わらないくらい材料がありすぎます」

「……どうしよう」


 私はエリックに、手始めに出来そうな初心者用と、どうしても自分で作りたいキットだけを残すように進言した。それ以外のキットは職人に作らせて、完成品を愛でることにした方がいいと。


 エリックは素直に頷いた。


「そうだね……、一から十まで全部買い漁ったけれど、私の時間は限られている。厳選した方がいいかもしれない」

「そうです、その意気ですエリック様!」

「でも私が集めたボトルシップは何一つ捨てたくない。ここまで頑張って集めた、私の宝物なんだ!」


 それはあちらの世界のオタクのほとんどが願うことだろう。だが大抵は、スペースやお金の問題で手放さざるをえない。

 けれどエリックは王太子である。金も土地も持っている男である。経済を回してなんぼの立場である。

 私は彼の肩を叩いて言った。


「ボトルシップ博物館を作っちゃいましょう、エリック様」

「え……?」

「あなたの個人資産で、どーんと建てちゃいましょう。それで解決です」

「キヨコ……! きみは本当に聖女だ……っ!」


 頬を上気させ、涙まで浮かべるエリックはとても喜んでいた。


 私は、本人が捨てることに同意しないものまで捨てるべきだとは思わない、穏健派である。

 ネズミや害虫や悪臭を発生させて周囲の人に迷惑をかけないのなら、その人がどれだけ物を集めていても好きにしたらいいとしか思わない。だから両親にも強硬な態度には出なかった。正直隣の家まで距離のある田舎で良かった。


 まぁそれはともかくとして、上下水道の件を頑張っているエリックなのでボトルシップ博物館の準備はまだまだ先だ。

 どれだけ先になるかわからないので、無秩序に散らばっているボトルシップのために、壁一面のコレクション用の棚を作ることにした。製作担当はシスである。

 下駄箱やロッカーみたいに、ただひたすらボトルシップに合うサイズのスペースが並んでいる棚は圧巻だ。


 エリックは嬉々として、棚の一つ一つにボトルシップを詰めていく。


「なんて素敵な部屋だろう。私の好きな物がこんなに美しく並んでいる。今までみたいに空いたスペースに適当に置くより、ずっとずっと“宝物”という感じがして、見ているだけで幸せな気分になるよ」

「それはよかったですねぇ、エリック様」

「いつか本当にボトルシップ博物館を作るよ。私のためだけの大きな“宝物”にするんだ」


 ふにゃっと笑うエリックは、初めて会ってから一番優しい笑顔をしていた。


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