白い彼が、生まれて
センティネラ帝国の後宮の一室。
「おぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!」
生まれたばかりの赤子の泣き声が響きわたる。
母親である女性がメイドから赤子を受け取って、抱く。
この女性は、リリアーナ・カイザー・フォン・センティネラ、旧姓リリアーナ・フォン・アーデントロート。
今年、36歳となる老いを知らない美貌をもつこの女性は、ここセンティネラ帝国の正妃だ。
そして、たった今生まれた赤子の男の子が第4皇子ジルベール・カイザー・フォン・センティネラである。
「ああ、無事に生まれて良かった。ジルベール、会えて嬉しいわ。」
リリアーナがジルにそう声をかけた。
ジルが無事生まれたことで、部屋に安堵と歓喜が広がる。
ジルは少しすると、泣き疲れたのか眠ってしまった。
しかし、そのすぐ後に部屋の扉が開かれた。
「ちゃんとジルベールは生まれたのかい?」
その声に部屋は途端に静かになった。
まるで、空気が凍り付いたようだ。
入ってきたのは、神秘的な白い髪に金色の瞳をもつこの世のものとは思えない美を宿したようなひとりの男だった。
「はい、皇子様は無事お生まれになりました。」
先程リリアーナにジルベールを渡したメイド、アリサが静かな声で男に言葉を返した。
部屋が静まりかえったのには、理由がある。
男、セラフィム・カイザー・フォン・センティネラはこの国の皇帝であり、ジルの父親だ。
セラフィムは、この世界の【超越者】と呼ばれる膨大な魔力を持ち、長い時間を生きる者たちの筆頭でもあり、すでに80年は生きている男である。
そしてこの国には、正妃であるリリアーナの他に側妃として3人の妃がおり、子供も生まれたばかりのジルを含めて4人の皇子と6人の皇女がいた。
そう、いた。
過去形だ。
ジルの前に生まれた第6皇女は、セラフィムの機嫌が悪い時に泣き声が耳障りだと殺されてしまった。
まだ、生まれて2ヶ月程の状態だった。
今日は機嫌が悪いようには見えないが、なんとなくで殺されてしまうこともあるというのは周知の事実である。
実際、臣下の数人がそうして殺された。
そのため、ジルも殺されてしまうのではと思われた。
しかし、見せないわけにもいかない。
「こちらがジルベールでございます。陛下。」
リリアーナは震えそうな声を抑えながら、ジルをセラフィムに渡した。
腕は少しだけ震えてしまっていたが、セラフィムは特に咎めずにジルを自らの腕で抱いた。
その時、ジルの目がパチリと開いた。
その瞳は、セラフィムと同じ金色であった。
それを見たセラフィム以外の者たちは美しい瞳に感嘆しながらも、必死に泣かないでくれと祈った。
ジルはセラフィムをじーーーーと見つめた後、手を伸ばして笑った。
セラフィムは一瞬驚いたが、それが当然だというような自然な動作で伸ばされた手を握った。
「可愛いね。」
セラフィムは優しい声でそう言った。
セラフィムを少しでも知る者ならば、誰?と聞いてしまうような慈愛を宿した目でジルを見ていた。
というのも、このセラフィムという男は常に穏和な微笑を浮かべ声もやわらかいのに、何故か彼から優しさを感じることだけはないのだ。
セラフィムはほとんどのことに無関心で、今まで生まれてきた子供たちもそれは同様で妃であるリリアーナたちのことも、性処理の道具だと思っているような男である。
同族に対しては多少優先順位は上がるが、それだけで他と同じように愛するということはなかった。
そんな男は、自分の子であり同族でもあったジルに初めての愛情を抱いた。
それは、家族に向ける愛としてはあまりに重く、深いものだったが確かにセラフィムからジルへの一番最初の贈り物だったのであろう。
はい、ボクの名前はアリスです。
これからよろしくお願いします。
さて、今回の話としては主人公が生まれたという内容になってるよ。
どうでもいいかもだけど、セラフィムは天使の名前を冠しているのに悪魔、いや魔王みたいなキャラになるといいなとかんがえてるんだけど、この世界では天使という概念はあっても、名前なんて決まってないよ。
で、少しだけ出てきた同族というのは後で説明が入ると思うから今回はここまで。