始まりの町2
ゴブリン達は、無抵抗の獲物を何度も何度もおぞましい形の棍棒で殴りつける。
手足を、胴体を、そして弱点でもある頭部をタコ殴りにした。
ずる賢い小鬼達にとって、人間の女は都合の良い獲物だ。
男に比べて貧弱で、数で襲えば抵抗される前に仕留める事ができる。
今回の獲物も無抵抗で簡単に仕留められる・・・、はずだった・・・。
獲物は無傷だった。ゴブリン達がどれだけ力いっぱい殴っても、傷を負わせる事ができない。
鋼の鎧を纏っている訳でもない、薄い布の軽装の女に、ゴブリン達は死に物狂いで襲い掛かる。
「痛ったぁ・・・。もう、やめてよね!」
獲物はそう叫ぶと、近くのゴブリンの顔に肘打ちを喰らわす。
ゴブリンは大きくのけ反り、そのまま倒れ伏した。
それを見た小鬼達はたじろいだ。何が起きたか理解できないでいる。
「あ・・・、なるほど、ね・・・」
獲物はそう呟くと、先程のゴブリンが落とした棍棒を手にした。それを杖代わりに立ち上がると、ゴブリン達を鬼の形相で睨みつける。
「さぁて、どの子から行こうかな・・・」
狩る側だった小鬼達は、今にも泣き出しそうな顔をして逃げ出した。獲物だった人間が棍棒を一振りし、宙を切る頃には悲鳴を上げ、振り向く事も無く、去っていった。
「あ、こら逃げるな!」
逃げ出したゴブリンを少し追いかけたが、すぐに諦めた。追って来た時以上の速度で逃げ出した奴らは、四方八方に散り、あっと言う間に姿を消した。このまま追っても逃げられ、無駄足にしかならないだろう。
「お嬢さん、凄いな!。驚きだ、素手でゴブリンの群れを追っ払うなんて!」
目を丸くした茶髪の男が、駆け足で寄って来た。背負った荷物は大切そうにしているが、その顔と反応は子供の様だった。
見知らぬ男にきょとんとしていると、男はハッと我に返った。目の前の恩人に一礼すると、落ち着いた表情で口を開く。
「僕は行商をしてるライル。この先の町に行く途中でアイツらに追われてしまったんだ。いやー、助かったよ、まさかこんな所にゴブリンが出てくるなんて思いもしなかったからね。」
ライルと言う男は額の汗を拭った。
相当長い距離を追われてたらしい。大汗をかいて、息も上がりかけていた。
「ところで君は誰なんだい、見たところこの世界の人じゃないみたいだし・・・」
ライルは物珍しそうに見つめて来た。
「私は宍戸 悠・・・。ユウって名前なの」