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亡者よ、明日をつかめ  作者: イシハラブルー
第2章 死闘激化
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第一編・その3 視えるモノ




 空に星がポツポツと輝く中、地上にも星と見紛うほどに眩い2つの光が現れた。

 ヒカルが能力で変身したヒーロー・ブリリアンと、テツリがコピーした同じくブリリアンである。

 2人は霊獣を退治するために、大勢の人たちが狂乱し、走り去る方向とは逆方向に全力で駆けていき、そして人混みを抜けた。


「……霊獣はどこだ?」


 ヒカルは首を回しながら、周囲に目を配るもそんな化け物の姿は見つからない。


「……いませんね」


 それはテツリも同じだった。


「……どこかに移動したのか?」


 しかしそう言いつつ、そんなはずはないとヒカルは思っていた。


「でも気配から察すると、相当近くにいるはず」


「だよな? 俺もそんな感じ—」


 そう言いかけている時、突如ヒカルはひとりでに吹っ飛んだ。


「ヒカル君!」


 突然のことにテツリは驚いた。慌てて駆け寄ろうとすると、ヒカルは手で止まるよう示す。


「待て、気を付けろテツリ! 何かいる」


 もう戦いは始まっていたのだ。ヒカルは周りに配るようテツリに指示を出す。だが!

 ドゴッ!


「うぐっ!」


 棍棒で殴られたような痛みがヒカルを襲った。耐えきれずその場にうずくまるヒカル。

 それを心配してヒカルに視線を配るテツリ、しかしその彼も同じように頭を殴られたような感覚に襲われ、地面に倒れ込んだ。


「! テツリッ」


 まずい、この展開はまずい! 気を奮い立たせ、ヒカルは立ち上がる。しかし瞬間、足を払われ後頭部を強打する。

 それでもまだ「なにくそ」と立ち上がろうと手をついた瞬間、その手に見えない何かが巻きつけられた。ベタついていて気持ち悪かったが、そのことをヒカルが気にしてる余裕などあるはずなかった。


「うわっ!」


 次の瞬間にはヒカルは宙に引っ張りあげられていて、そして瞬きした後にヒカルの目に写っていたのは地面が迫って来る光景であった。

 上下左右が分からなくなる。ヒカルの体は何者かの意思で思うままに動かされていた。

 ゴシャッッ!

 そのままヒカルは地面に叩きつけられ、衝撃で石畳が割れ、鈍い音が響いた。


「あっ……」


 見ていたテツリが思わず息を飲むほどにショッキングな光景であったが、瞬時にヒカルはパッと立ち上がる。


「大丈夫だ、受け身は取った」


 そう告げたものの、それでダメージが全てなくなるはずがなく、ヒカルは内心激痛に襲われていた。あくまで心配するテツリにそんな素振りを見せないよう、必死に平然を装っているに過ぎない。

 しかもそれに留まらず、他にも問題は山積みときてる。特に問題なのが……


「うわぁああああ!」


「……くっ、ちくしょぉ! どこにいるッ!」


 敵の姿が全く見えないことだ。血眼になって探しても、その影を掴むことすら出来ない。

 まともなどころか、かすり傷程度のダメージすら与えられず、2人が一方的にダメージを負うだけの時間がいたずらに過ぎていく。

 ヒカルの変身には時間制限がある。このままでは何も出来ないまま変身解除され、そして息絶える。そうなれば、1人残されたテツリもその後を追うだろう。


「ど、どうしましょう……ヒカル君」


 移動して、テツリは路地の影に身を潜めた。その路地にはヒカルも、同じように身を潜めていた。


「ハァ……ハァ、ここは、一旦撤退も視野に入れて」


「そんな!? 何か方法は!」


「……音も駄目なんだ、さっきから試してはいるけど」


 ヒカルはすでに視覚に頼るのを諦め、音で霊獣の居場所と攻撃を見極めようとしていた。

 だが霊獣は音もなく忍び寄り、そして見えないが、相当に速いと思える速度で殴りかかってくる。


「それじゃどう戦えば……」


「……俺の変身は、もうすぐ解ける。そうなったら、ますます厳しい戦いになるだろうな」


 ヒカルは光の粒子が漂い出る手を見つめて言った。

 なんとかこの変身が解ける前に退治しなくては、しかし突破口すら見えないこの状況で、果たしてそんなことが出来るだろうか? 正直厳しいと、ヒカルは思っていた。


「でも、このまま放っておくわけには……」


「……」


 そう言われてはヒカルは何も言い返せない、それが正論だと思うから。この霊獣の恐ろしさを考えたら、このままの放置が何を意味するかはよく考えなくても分かる。きっと多くの人が残酷な未来を辿るだろう。

 やはり守るべき命のことを考えたら、今ここで霊獣を退治することは必須だ。


「……何か策があれば」


「……策」


 2人はマスクの下で顔をしかめた。

 知恵を絞るその最中、ヒカルは息を詰まらせた。比喩ではなく、本当に息が出来なかった。首を縄で締め付けられるような圧迫感、ベタつく気持ち悪さ。ヒカルは察する、捕まった!

 そしてそのままヒカルは強引な力で引っ張り出された。テツリが伸ばしたその手を掴もうとするもわずかに掠め、遠ざかっていく。


「! いやこれはチャンスだ!」


 しかしこの危機的状況においてヒカルの勘は冴えた。このまま引っ張られた先、その先に霊獣はいるはず、そう閃いた。


「テ、テツリッ!」


 残りの息で叫ぶと、引っ張られる方向を指差した。


「そうか!」


 瞬時に意図を察したテツリは、ヒカルを追いかけ走った。

 バクッッ!

 そんな音と共にヒカルの頭がパッと消えた。


「ヒカル君ッ、今助ける!」


 テツリ、渾身の右ストレートが虚空を捉えた。


「! 感触が!」


 感触があった! そしてヒカルは虚空から吐き出された。


「大丈夫!?」


「……な、なんとかな、ありがとう」


 無事生還したヒカルは地面にへたり込んでいた。首に残った感触を取り払うよう、しきりに擦りながら。


「……どうしたテツリ?」


「……テカテカだ」


 ヒカルの顔は唾液と思われる液体でベタベタになっていた。


「うえ、気持ち悪りぃ」


 手で拭おうと触ったヒカルは、思わず嫌悪感を覚える。鼻水のような触感だった。


「でも生きててよかったですね」


「ああ、これで貸し借りゼロだな」


 ヒカルはテツリの伸ばした手を掴むと立ち上がった。


「……ベタベタの方で触りましたね」


 ベタベタを飛ばすために手を振りながらテツリは言った。


「あっ、悪い。右利きだから、つい」


「ヒカル君も意外とドジですよね」


「それを言うならテツリもそうだよな」


「え?」


「また振り出しだ」


 見渡してもそこにあるのはなんの変哲もない風景、再び霊獣の在り処は分からなくなった。


「もう1回、見つけないと」


「す、すみません」


「仕方ないさ、あの状況で俺を無視してたらそれはそれで悲しい」


「もう1度、同じ戦法やりますか?」


 テツリが提案するも、その時タイミング悪くヒカルの変身が解除された。生身に戻った今のヒカルが、さっきのような目にあったら、今度は助からない公算の方が高い。つまりさっきのような囮作戦はもう使えない。

 それだけでなく、今こうして立ってるだけで、ヒカルは命の危機にある。襲われたら重傷は免れない。


「と、とりあえずヒカル君はどこか物陰に」


「いや、無闇に動かないほうが……いいかも」


 人間にもある動物的な直感。それが、今自分が狙われているとヒカルに告げていた。

 そしてその直感は悪いことに見事的中していた。霊獣は今か今かと舌を舐めずりまわし、ヒカルを腹の中に収めようと忍び寄っていた。

 緊張が走る、その時!


「伏せろッ!」


「!」


「!」


 突如背後から、聞き知らぬ声が響いた。その声の言う通りにヒカルは瞬発的に身をかがめると、直後に髪が風で揺れた。何かが頭上を通過したらしい。


「誰d—」


「振り返るな、右へ跳べ!」


「!」


 またヒカルが言う通りにすると、さっきまでいた場所の地面が砕けた。

 もしその場にいたなら……そう考えるとヒカルは冷や汗をかいた。

 命拾いしたと思うと同時に、咄嗟(とっさ)に砕けた地面に飛びついた。


「ビンゴ! 捕まえた」


 ヒカルはベタつく何かを掴んだ。


「行けっ、テツリ」


「お任せください!」


 再びテツリの渾身のパンチが見えない霊獣の体を捉えた。


「そのまま殴り続けろ!」


 ヒカルの指揮でテツリはパンチのラッシュを浴びせる。光る拳が無数の星のように輝き、天の川のようで綺麗だった。

 さらにダメージを与えていくと、ついに霊獣はその姿をあらわにした。黄色と黒の縞模様をし、目玉は寄生虫に宿られたカタツムリのように飛び出た、なんとも不気味な容貌をしたカメレオンのような姿が、霊獣の本性であった。

 道端でバッタリ出くわしたなら、ヒカルもテツリも気絶したかもしれないが、今の2人にそんな感情はなかった。むしろ喜びの方が大きかった、なぜなら……


「やっと、姿を見せてくれましたね」


「あぁ、これでお返しには困らないなぁ」


 やっと見つけられた喜びの方が大きいからだ。急に自分たちが大きくなったような、そんな優越感が2人の中に生まれた。


「さぁ、反撃開始だ」


 ここからの展開は早く、そして一方的であった。強さのほとんどを、その透明になる能力に頼っていた霊獣がそれを失っては、もはや動く的でしかなかった。

 これまでの鬱憤を晴らすかのよう、怒涛に攻め立てるヒカルとテツリによって、霊獣は瞬く間にズタボロにされた。


「さぁテツリ、()()で決めてやれ」


()()ですね。よしきた」


 そして手早くトドメを刺すために、テツリは月を背に飛んだ、大技だ。

 両足に青い光がやどり、そのまま竜巻のように回転しながら降下する。

 月の光、回転、落下速度、3つの力がスパークする!


「これぞ、ムーンライトスパークだ」


 ヒカルが見守る中、必殺のキックが霊獣の背中に突き刺さる。えび反りからくの字に、最期には真っ二つに折れ、霊獣は爆散した。


「よし!」


 ヒカルが興奮で拳を握る。撃破の余韻も冷めない、その背後、


「なかなかやるじゃないか」


 ヒカルは振り返った。


「あの霊獣、相当な強敵だったのによく倒したもんだ。素晴らしいコンビネーションだった」


 上は黒のインナーに白いシャツを羽織り、下は気取ってない普通のジーパンを履いた、落ち着いた雰囲気を醸す男がそこには立っていた。温和そうな表情を浮かべ、控えめに称賛の拍手している。


「いや、あなたの助けがあってこそだ」


「俺はただ、()()()ことを回避するための方法を伝えただけだ、俺の能力(ちから)を使って」


「……やっぱり、俺たちと同じか」


 男は静かにうなづく。ヒカルたちと同じく、男もゲーム参加者のようだ。


「ヒカル君、僕やりましたよ……ってこのお方は?」


 ヒカルの傍に立つ知らない男の存在に、テツリはキョトンと首を傾げた。


「さっきの声の人だ」


「この方が、へぇそれはどうも感謝します」


 そう説明されると、テツリはぺこりと頭を下げた。


「礼には及ばない」


 男はニッコリとテツリに笑いかけると、「そんなことより」とヒカルとテツリ、両方に向け声をかけた。


「……君たち、これから暇か?」


 その質問にヒカルとテツリは顔を見合わせる。言葉を交わすまでもなく、答えは分かっている。


「……まぁ暇だろう」


 2人とも後はそれぞれの住処に帰るだけである。体は戦った後だからキツいが、とりあえず暇が余っているのは確かだ。


「だったら一緒にご飯でもどうだ? 君たちとは、話しておきたいことが色々あるんでねぇ」


「「ご飯?」」


 意外な提案にヒカルとテツリの声がコーラスする。


「でm—」


「問題ない。金なら全部出す」


「あぁ〜、そうかい」


 食い気味の返事に、ヒカルは男の圧を垣間見た。


「ヒカル君、どうします?」


 ひそひそとテツリが耳打ちした。どうやらこの可否の決定権はヒカルにあるらしい。

 正直、自分らが断る理由はない。それに見ず知らずの人間が自分たちにわざわざご馳走してまでしたい話がなんなのか? そこが気になる。


「そうだな……。まぁいいんじゃないか」


 長考の後、ヒカルはこの誘いを受けることにした。


「じゃ、お言葉に甘えて」


「そう答えると、思っていた」


 なんの因果か、3人の若者たちは1つの食卓を囲むこととなった。





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