第8話 お願い!! あかりに奇跡を!
香子の母であるあかりは苦しかった。
5年前、待望のブランド立ち上げはショーの大成功によりそれ以上を望めないほど成功した。
その後10年はパリでのショーが確定した。
そして、今まで5年間のショーはことごとく成功していた。
毎回ショーは満員御礼でショー前後はインスターで世界のセレブたちが新作を来た写真を公開しており、国内では新作が毎回ツイッターのトレンド入するようになっていた。
今ではあかりのブランド「シキブ ムラサキ」はフォーブスが選定する「世界の高価値ブランド」100社にも入るくらいに成長していた。
傍から見ると、人生の絶好調以外のなにものでもない。
ただ、違うのだ。
元々、あかりがブランドを立ち上げたのはあくまで夫の松蔭とあかりが思う美を表現する場が欲しかったからだった。
特に専門大学の実習中にあかりを事故から助けて、自身は利き手が怪我したため、デザイナーの道を諦めた松蔭のための場所。
あかりの器用さと松蔭のアイデアが組み合わせることがブランドのモットだった。
ブランド名「シキブ ムラサキ」の由来は二人の最愛の娘の名前に因んだ偉人の名前からつけたそれであった。
なのに、あのショーの後、何もかもがくずれたのだ。
元々は最初のシーズンのみのはずだった天国のモチーフから離れられない。
アイデアに弱いあかりだけではなく、松蔭すらもあのショーの印象が強すぎて、娘が完成させたその服による衝撃が強すぎて、他の服が作れなかった。
ショーで出した服は服と言うより第2の肌と思わせる完璧な曲線をしていた。
ショーで注文を受けて客に合わせて作ろうとするも、できなかった。
なぜくっついているかわからない素材と素材。
完成品を目で見ながらも、あかりを含むみんな誰も再現できない状況。
プロとしての自信が、プライドが砕かれる。
そして、挫折したのはあかりだけではなく、松蔭もだった。
むしろ、もっとひどい状況と言えた。
ショーの当時は一緒に喜んでいた松蔭は今までの人生で一度も起きてなかったスランプに落ちいていた。
新しい美しい服が思いつかない。
頭の中の美しさがショーでみたそれに固定されたため、他のすべてがどこか醜いと感じてしまうようになっていたのだ。
それは多かれ少なかれ、そのショーを見ていた全員の感想でもあった。
そのショーの後、スタッフみんな頑張って新しいデザインを作ろうするも、作れなかった。
そして、そのスランプの末、過剰なストレスにより、松蔭はメンタルの病院に長期入院することになってしまっていた。
そんなぐだぐだな状況でブランドが絶好調だったのは偏に、香子の存在があってからだった。
最初、あかりは香子の仕事への関与を止めていた。
それは香子の才能を使うと、悪い未来が待っていると予感したからであった。
ただ、プライド高いベテランはともかく、新卒は止めきれてなかった。
実はショーを見た新卒の一人が、当時の作り方にSNSを通じて、香子に聞いてしまっていたのだ。
香子はショーの時、香子自信がやったことはまったく覚えてない。
ただ、状況説明を聞いた後、新卒が話したものの接着がなぜできないかががわからない。
ただただ、鋭いはさみで切り、ちょうどいい感じでくっつける。
人形のように小さいその手で、切りくっつけるその現象はまるで魔法のようだった。
新卒がそれをみて、真似るがうまくできない。
そこで、切ったその布を調べたら、原子基準で凸凹ひとつない完璧な切れ目だったのだ。
完璧なきれめだったため、布をくっついた。
それだけだったのだ。
香子は首をかしげながらも、ブランドで生産を担当する福田さんを尋ねる。
以前、人間国宝の下で修行していた福田さんは職人の手先の器用さを機械化する専門家であり、その分野では世界で1,2を争うほどの能力の持ち主だった。
そんな福田さんに行って、なんとかならないかと相談をする。
そうすると、たまたま最近、福田さんが趣味で作っていた切断マシーンを作ったら、再現できそうであることがわかった。
そして…
再現は大成功。
今では毎年最大限作るも公開する瞬間なくなるほど絶対的人気を誇る「シキブ オリジナル」が量産できるようになっていた。
ただ、香子を巻き込みたくないあかりとしては、想定以外の出来事に怒ることも安堵することもできなかった。
反省することはできるので、今後は香子を巻き込まないようにするため、スタッフ全員にコンプライアンス的な観点でやるなと釘をさした。
それなのに…
量産成功につき、香子を崇拝するかのようになった一部のスタッフは、香子を巻き込みつづけた。
量産成功したその日から、スタッフ内で公募するデザインがとてもクオリティー高かった。
それは徐々にスタッフのスランプが治ったからではなく、香子に事前に見せて指摘を修正していただためだった。
その他、香子は色んな活躍でメディアにも注目されるようになっていたため、実質「シキブ ムラサキ」の専属広報になっていた。
特に、外部とのインタービューなどで一部スタッフから香子に感謝することを公開されることしばしばあった。
その結果、ブランドのアイコンとして、SNSでの波及していった。
ある意味、ブランドそのものと言ってもいいと感じることすらある。
色んな香子の関与にあかりは呆然とした。
あのショー以後、あかりは香子を見るたび、嫌な予感を覚える。
悪魔を彷彿させるあの紫の目は願いを叶える悪魔のように思えてならない。
このままだと、夫松蔭とあかりの一番大事な娘とブランドに悪いことが起きてしまいそう。
今までのような不完全な対策ではだめだ。
最愛の娘、香子に潜んだ悪魔はしたたかすぎた。
香子がいないといけない状況で、あかりの統制がきかない人を利用して、今のように香子の力が使われてしまう…
もっと、即効性がある方法で考慮漏れがない方法を考えないとだめだ。
そして、夫松蔭の入院で、あかりはついにその時が来たと直感した。
ここから、ドミノのように悪いことが連鎖して起きると。
その日、あかりは夢の中、ある老人が、人間を遅い、ゾンビのように、食べ尽くす光景をみた。
そして、襲われていたのは、最愛の娘、香子。
やがて、夢から覚めたあかりは汗だくになった状態で、夢の余韻をかみしめる。
リアルすぎた夢はあかりはこれ以上ないくらい不愉快な気持ちになった。
…このままでは香子になにか悪いことが起きかねない…
その確信から、家族のため、あかりはあることを強く、決心する。
「なにがあっても、悪魔から香子を絶対救ってみせる」