第7話 成長?成長!
朦朧とした意識の中、香子はうっすらと湿気を感じた。
それは以前、夜明けのきりに包まれていた白神山地で感じたそれにとても似いていた。
まるで、童話の中に入ったかのような心地よさ。
さらに、なにかいい曲が流れていることに気づく。
夢の中にいざなうような、それとも夢そのもののような旋律。
そんな夢心地の中、香子は徐々に意識を取り戻し、目を開けた。
その香子の目に、クライマックスを迎えるショーが入る。
会場は真っ白で、何か地面は霧のような雲のような物が地面をうっすらと張り巡らせていた。
そして、白ベースの美しい服を着ている天使のような女性と男性たちと共に、母のあかりが出てくる。
凛々しい顔の中、幸せを噛み締めていることがわかった。
父の松蔭も最前列で涙を流しながら、喜んでいた。
「ああ、本当にやってよかった」と心底思いながら、香子は再び目を閉じた。
パリのファッションの後、あの時、香子に何があったかが徐々に顕になっていく。
まず悲しいことに、体の成長が止まっていた。
香子が起きた時、最初わかったのは香子の左目の色が紫になっていたことだ。
なぜかは全くわからなかった。
母のあかりがとても気にしていたため、色んな大きい大学病院で色んな検査をした。
しかし、どんな調査をしても、原因はまったくわからなかった。
色んな調査をしている中、体の成長が完全に止まっていることがわかったのだ。
具体的には身長が全く伸びなかった。
そして、成長しないのは身長だけではなかった。
思春期に訪れる女性としての成長も起きなかった。
周りのみんなが成長している中、香子は成長しない自分が取り残されている寂しさを感じた。
その中で、香子は頑張って、周りに合わせようとした。
しかし、それでも、成長する友達の気持ちはわからなく、徐々にではあったが、同じ年齢の友達と距離ができてしまう。
友達に悪意があったわけではない。
ただ、彼らからすると成長しない香子は異質すぎたのだ。
そして、成長しない香子は知識としてはわかるが、本質的には理解できてなかった。
だから、お互いに徐々に距離ができてしまっていた。
体の成長が止まったのとは対象的に、能力的にはすごく成長していた。
具体的にわかっている変化は、3つだ。
一つ、香子の手はすごく器用になっていた。
一つ、香子の目はすごくよくなっていた。
一つ、香子の耳に誰かからの声が聞こえることがあった。
まず、手先の器用さは凄まじく、例えば、どんな楽器でも説明書さえ読めば、知っているどの曲も引けるようになっていた。
まるで、魔法のように、イメージ通りに体は動いてくれた。
そして、目は単純にめちゃくちゃ良くなっていた。
少しでも、視野に入っていたら、なんかすぐわかってしまう。
どれくらいかというと、以前、香子の父、松蔭が銃を撃つゲームをやらせた時、持ち前の手先の器用さも相まって、視野に入った瞬間殺していた。
そのゲームで一人で相手を全部殺したのは香子が初めてで、この後も多分ないと思われる。
ただ、その後、勝因はゲーム運営側に悪質ユーザーと疑われて、利用停止にされたりしていた。
最後に、誰かの声が左目の方から聞こえてくることになっていた。
たまにだが、本当に危ないことがある時は必ず、その声が聞こえて来た。
そして、その声が言う通りにすると物事が一番丸く収まった。
ただ、このことを母のあかりに言うと、あかりは絶対その声には従ってはいけないと念をおされた。
納得はできなかったけど、香子はあかりの言葉はできるなら、守りたいと思った。
こんな異様な成長により、香子は数多くの成果を出すようになっていた。
それは小学校、中学校の間、香子がやった全てにおいて、全国レベルでも好敵手がないほどの成果だった。
出た音楽や絵のコンクールはすべて圧倒的に優勝した。
そのあまりのクォリティーに、幼い見た目も相まって、世間が信じれず、マスコミは親の介入を疑っていた。
疑いの記事が出たことに苛立った香子は行動した。
まずは、動画のライブ配信で4つの楽器を同時に演奏する動画をアップした。
その後、面白がったテレビが生放送に香子が自分の背より大きい筆を使い、家の壁に葛飾北斎の神奈川沖浪裏をその10倍の大きさで10分ほどで再現している姿をのせた。
絵の再現力は凄まじく、後ほどネットのユーザーが生放送の録画と実際の絵をドット単位で比較したけど、完全に一致していた。
ただ、香子にこれら全てはあくまで練習に過ぎないと思っていた。
なぜなら、母の明かりのショーを見たその日、そんなショーをするのが目的になっていたからだった。
あんな美しい物を作りたいと心底望んでしまったのだ。
それで、思いつく物があれば、絵としてためていった。
いつかまとめて、母のあかりに見てもらう予定である。
ただ、思い浮かぶイメージが足りなく、香子は困っていた。
イメージさえできれば、何でも作れるのに…
そして、ある日、左目から声が聞こえてきた。
「もっとすごい絵を書きたくはない?」