第5話 藤原香子はお母さんを助けたい
「力がほしいか?」
藤原香子の耳にどこか懐かしい声が聞こえてくる。
その場所にいるすべての人は固まっていた。
みんなの視線には、血しぶきが飛ばす香子の前に倒れている香子の母と黒尽くめの男。
困惑してぼっとしている香子に、その声は再び聞こえてくる。
「力がほしいか?」
なんでこんなことになったのだろう…
今回の旅で、藤原香子はすごく興奮していた。
生まれて初めて行く海外だった。
行き先は世界一オシャレな街、パリらしい。
尊敬するお母さん、大好きなお父さんも一緒なのだ。
今回、パリに行く理由はお母さんが作った服を色んな人に見てもらうためらしい。
ネットでパリを検索してみたら、世界一おしゃれな街らしい。
写真に映っていた建物はめちゃくちゃおしゃれだった。
そして、色んな有名なおしゃれな人たちがその場所で写真を上げていた。
詳しいことは、今年10歳になる香子にはよくわからなかった。
でも、写真はすごくきれいだったので、素敵な場所に思えてた。
特に今回は世界一尊敬する彼女の母の仕事ぶりが直接見れるのだ。
ドキドキで夜も眠れないほど興奮してしまう。
そして、出発当日。
お父さんは私と出発するギリギリまで仕事で忙しいお母さんを連れて、空港についた。
香子が今まで自分の目で直接見たことがない空港への感想はとにかく大きいなということくらい。
空港についたお母さんはどこかで仕事をすると言って、荷物をお父さんに渡して消えた。
優しいお父さんはその荷物を引き受けて、香子を連れて一緒に荷物の預かりから出国審査を終わらせ、飛行機に乗る。
初めて乗る飛行機の中ではきれいなお姉さんたちか制服をきて、忙しそうにしていて、乗る人達を手伝っていた。
香子はお母さんもそうだけど、きれいな女子はみんな忙しいのかなと勘違いしそうになっていた。
荷物をおいて、書類を書いていたら、お母さんがギリギリな時間についた。
ついたお母さんは疲れた顔でお父さんの右側の席に座った。
お父さんの左に座っていた香子はお母さんと話せないなと思い、ちょっと寂しい気持ちになる。
お母さんは人気なデザイナーで、毎日、外だけではなく、家でも忙しくずっと仕事をしていた。
どんな仕事かは香子にはよくわからない。
ただ、たまに家でお母さんが書く絵は香子にわかるほどすごく素敵だった。
お母さんが書くのは毎回違う服を着ている人。
お母さんに憧れる香子も暇なときは絵を書くようになっていた。
まだまだ、拙いが、お父さんに毎回褒められるので、香子は何年も書き続けられていた。
でも、忙しくあまりお母さんはみてくれない。
だから今の香子の目標はいつかお母さんのように素敵な絵がかけるようになることだった。
そんなこんなでパリにつく。
パリは写真よりもずっと、素敵だった。
建物、人、自然、すべてが美しい。
ただ、パリに来てからどこかで誰かに見られている気がする。
外国人は警戒されるのかな。
朝、私が着ている服を見て、お母さんが頭をかしげていたけど、あまりパリでは着ない服だったかもしれない。
でも、お母さんが初めて直接作ってくれた服なので、初めての海外にはこの服にしたかった。
ともかく、今日はお母さんのファッションショーに招待されて、ショーの2時間前ほどになんか会場の裏側に向かった。
向かう途中で色んなおしゃれな人達がいたので、緊張でお父さんの手をつよく握ったりした。
その中で、ただ一人なんかあまりおしゃれじゃない黒尽くめの男が一人いた。
こんなところに、おしゃれじゃないひともいるっちゃいるんだな…
会場の裏側についたら、お母さんは家より遥かに凛とした顔で、色んな人になにかを話していた。
格好いいな。
そう思ってお母さんをぼっと見ていたら、お母さんはお父さんと俺に気づいて、座れるところに案内してくれた。
お母さんの仕事場には、色んな人達がお母さんのように忙しくしていた。
みんな生き生きとした。
そして、迷うことなく美しい動線を描きながら、動いていた。
これがプロの仕事の現場か、憧れるな…
ただ、おかしい。
先程見た黒尽くめの男が何故か来ていたのだ。
ここの人たちはみんなおしゃれだったので、香子の目には彼はかなり浮いていた。
ただ、香子以外のみんなは知り合いのようで、みんなから警戒されず、私がいるに近づいた。
なんか良くないことが起きる予感がする。
こう感じる時は毎回、お母さんかお父さんに悪いことが起きていた。
いやだ…
接近する人がお母さんとお父さんに近づくことを防ぐため、席から離れ、黒尽くめの男とお母さんの間に立った。
それに気づいたお母さんは黒尽くめの男がかなり近づいてからようやく彼の存在に気づく。
そして、驚いた顔でお母さんは、私のところに走ってきた。
その男は銀色のハサミを手にしていた。
そして、お母さんの腕を狙ってそれを持ち上げ、振り下ろした。
香子はその忌まわしい襲撃からお母さんを救うべきお母さんを精一杯引っ張る。
ただ、それでも男の鋏はお母さんの腕にあたってしまった。
香子の目に見たことない赤い液体が噴水のように舞い散る。
その後、彼はハサミをすて、ナイフを取り出し、青ざめたみんなが離れるなか、みんながいじっていた服を数回切っていく。
すぐに大きい男の人たちが来て、すぐ制圧したが、場の空気は強張ったままだった。
そんな時だった、香子の耳にその声が聞こえたのは。
「力がほしいか?」
お母さんはお父さんに支えられて、腕に白い包帯を巻きながらもだめと叫んでいる。
もうすぐショーを始まるのに…と言いながら。
大事なお母さんの悲痛な叫び。
悔しい顔をして、緊急処置をしているお父さんの涙。
もし、これをなんとかできる力があるなら…
「ほしい!今すぐほしい!」
そして、その声は聞こえた。
「なら、私が力になろう。」
そして、何かすごい力が左目に入ることを感じながら、香子は意識を失った。