第3話 世界の意思
死。
生きているなら、その最後に必ず待ち受けているそれは、なんだろうか?
理性あるものは誰しもが考える。
ただ、知性の限りを尽くしても死を解明することはできなかった。
それは終わりなのか?
そもそもその逆である生とは何なのか?
よく考えて見ると、生についてもよくわからないことがわかる。
息をする。
今を感じる。
過去を覚える。
未来を考える。
それがすべて…?
よくわからない…
死は全ての終わりだろうか。
生きて初めて、息をし、感じて、覚えて、考えることができる。
死ぬとそれらがすべてできない。
つまり、何もかも失う。
それが死である…ように思える。
ただ、本当にそうだろうか?
褒められた時の喜び、悪いことを言われた時の怒りなどの気持ちも。
親しい人や大切な物への思いも。
肉体の感覚、記憶、知性だけで説明しきれない。
つまり、死んだ後に死んだ肉体以外に残る何かがあるように思える。
ある者はそれを魂と呼んだ。
肉体から離れた魂は自由であると言った。
そして、何を隠そう、私は死んだことでそれが事実であると知った。
ただ、面白いことに、肉体なき魂は自身と自身以外を区別する必要はなく、他の魂と同化して行く。
そう、一つになった魂は生から解き放たれ、一つになるのだ。
私はその魂の集まりを世界の意思と呼ぶ。
そして、私も世界の意思の一部になった。
私、世界の意思は絶対的な存在である。
死んだすべての存在が一つになったため、無限とも思えるエネルギを持つことになった。
ある日、あの男「ミケランジェロ」も死んで魂となった。
普通なら、強い意思に比例して時間はかかるとも、魂として世界の意思に溶け込むはずだった。
ただ、一つの魂であることが信じられない巨大のエネルギを持って、溶け込むことを拒否し、存在し続ける。
私はそれがわかった時、大きい衝撃を受けた。
そして、好奇心を持った。
なぜなら、魂が個別の存在としていると無限の苦しみを味わうことになる。
なのに、なぜ溶け込まずにいられるのだろう。
その男を狂わせたのはすでに世界の意思に溶け込んだ天才、私、ミケちゃんである。
彼の才能への強烈な憧れと強い意思は知っていた。
ただ、私の考えは甘かったのだ。
死して尚、衰えぬ思いに頭が下がる。
そして、その男の報われないあがきを見続ける。
他の才能に惹かれ、その才能に溶け込み、やがて才能の不足に絶望する姿を。
その悲劇は止まることなく続くだろう。
そして、私、世界の意思はこんなことを思ってしまった。
可愛そう…
憧れることしかできないなんて…
彼が天才だったら、ここまで苦しみ、求め続ける必要はないんじゃないかと…
ただ、彼を天才にすることはできない。
なら、せめて、可愛そうなその男にひとつ救済を与えてもいいのではないか。
彼が求め続けていた天才を再現してやる。
そうすると彼は天才が生きている限り、救われるはず。
ただ、その後、世界の意思は思わぬ結果により衝撃を受けることになる。