第2話 才能を喰らいしモノ
「みつけたー」
渇き。
その苦しみはほんの一瞬も止まることなく、続いた。
徐々に激しさを増すその痛みは心臓を握り潰され続けると感じるような、自分の存在のすべてを粉々に壊していった。
果てしないその渇きという名の苦痛は激しすぎて、受け入れることしかできなかった。
そして、強く実感した。求めることを諦めたら、この苦痛から自由になれると。
圧倒的な苦痛から簡単に開放される事実が心を揺さぶる。
もはや、何を求める渇きかすらわからないのだ。
こんな状況なら、どんな存在でも諦めるはず。
ただ…
私は求めずにはいられない。
前、満たされていたその事実が諦めることを許さない。
そして、苦痛はその激しさを急速に増していく。
この苦痛は永遠に続く物であると感じた…
それでも…
壊れていくある時、私は異変を感じた。
今は無き細胞がまるであるかのように、全存在が反応する。
確かに、微かにしか感じられない。
ただ、渇き切っている私だからこそわかってしまう。
私が求めるなにかがあると。
そして、そのなにかを求めて、私はいつしか動いていた。
やがて、なにかを見つけた私は躊躇することなく、それにかぶりついた。
かぶりつく瞬間、私は渇きが癒やされる強烈で懐かしい快感に酔い痴る。
かぶりついた影響か、色んなことがわかるようになった。
そして、理解した。
私が求めていたものは本当の才能を持ち合わせている者であると。
亡くなってしまったミケちゃんのような真の才能の持ち主こそが私の求めるべき者であると。
今回、私がかぶりついたそれの名前は「ウィリアム・シェークスピア」。
シェークスピアはそれはそれは素晴らしい才能を持っていた。
ミケちゃんと違い天使を掘り出すのではなく、物語を作る才能。
人の世を知り尽くし、心の深淵を見せ、人の心に存在の意味を問いかける物語は神の祝福のように思えた。
シェークスピアに寄生することで、私は懐かしい潤いを感じれた。
ただ…
ミケちゃんよりは足りてない。
シェークスピアはとてもいい線まで行っているが、それでも足りないのだ。
ミケちゃんといた私の才能に対しての器は再度、渇きを訴えてくる。
そこで、ようやく私はわたしの渇きの正体を理解する。
「真の才能」
ミケちゃんの才能に満ちたりたあの時を再現する。
それだけがこの渇きを満たせると知った。
そしてそのためには、今のシェークスピアの才能だと足りないのだ。
「もっと」
いるはずのない口から言葉がこぼれ落ちる。
「もっともっと才能を生み出してくれ」との祈り、または呪い。
奇跡のように、この言葉はシェークスピアに届いた。
そして、彼は動けなくなるまで、才能を絞り出してくれた。
しかし…
それでも足りなかった。
そして、シェークスピアは動かなくなっていった。
そして、再度訪れる激しい才能を求める渇き。
鋭敏になった才能への感覚を研ぎ澄まして、色んな才能を探した。
それこそ、私が生きていた時間の数倍に当たる数百年の時間を費やして…
「モーツァルト」、「アインシュタイン」、「スティーブ”・ジョブズ」…
それ以外にも数多くの素晴らしい才能を見つけた。
そして、才能の持ち主たちが動けなくなるまで呪い続けた。
しかし、それでもこの渇きは満たされることを知らない。
そこで心が避けていた一つの可能性に私の知性が気づいてしまう。
「ミケちゃんのような才能は未来永劫生まれない」
否定し続ける感情を、その希望を、存在しないという絶対的な事実が否定する。
知性を持たなかった時は、信じれた。いずれか、満たされるはずだと。
知性をもった今は、信じきれない…
やっぱり、諦めるしかないんじゃないか…
諦めて、消えてしまえば、楽になるんじゃないか…
そうやって、私は消えることを望んだ…
しかし、私が消えかかったその瞬間、夢心地の私の視覚にそれは映っていた。
最初出会った時のミケちゃんと瓜二つの幼女が。
それも私には計り知れない才能を持ち合わせて。