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プロローグ 天才ミケランジェロの遺言書

遺言書



遺言者、ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニは、次のとおり遺言する。


一.敬愛するフェルディナンド1世・デ・メディチにすべての財産を相続させる。


二.遺体について


私の体は愛するフィレンツェに埋める。


三.付言事項


主よ、私自身の命に終止符を打つ罪をお許しください。


主が与えた天の才能をその一身授かっていた彼女が亡き今、私にこの世を生き続けることはできませんでした。


なぜですか、なぜ…



申し訳ない、取り乱してしまった。


これを読んでいる君たちには理解できないかも知れない。


君たちに協力してもらうため、今までの経緯を簡単に記す。


今まで私が作った作品のすべては、彼女のイメージを聞いて制作した物だ。


私はただ、彼女が石から見出した天使を自由にしていただけだ。


彼女のイメージこそが、神から授かりし物だったのだ。



最初、彼女と出会った時の衝撃を今でも鮮明に覚えている。


彼女と出会うまで、私は私こそが世界の最高の芸術家だと思っていた。


ただ、それはとんだ勘違いだったのだ。


最初彼女と出会った時、彼女はなにかの彫刻を作ってくれる芸術家を探していた。


しかし、お金を持ってなさそうな彼女の話は誰も聞いていなかった。

そして、聞いたところで理解できるやつはいなかったかも知れない。


私はなにかに魅入られたかのように…

(いや、今思うと神の導きだったが…)

彼女の話を聞くことができた。


そして、彼女の話に戦慄した。


聞いたことも見たこともない人体の重さの表し方、繊細な筋肉と血管の表現による力強さの表現、それを一気に意思の強さに変える目の形と視線の使い方。


それは、見るだけで、己の意志の弱さを自覚させ、より強い意志へ導く力をもっていた。


本当に石にそんな力があるのか…


私の足りない才能からは想像できなかったあの圧倒的なイメージに、恐る恐る聞いた通りの形を作った…


そして、それは本物の天使を超える物になっていた。



ちっぽけな私のプライドは粉々になってしまった。


私の才能、生まれて絶え間なく培った私の技術は彼女の才能の前では全く無力だったのだ。


激しい嫉妬で体が震えてしまう。


羨ましい。


死にたい。


羨ましい。


殺してしまいたい。


あれこそが本物なのだ。


今まで類を見たことない史上唯一無二の才能。


あの天使を生み出した時、私の心はくらい泥のような感情でいっぱいなってしまった。


なんなのだ…


歴史の頂点だったローマ時代、その再臨と呼ばれる数々のこの時代の天才ですら、この領域にはたどりついてないというのに…


いや、彼女に比べると人類の極みという彼ら全ては凡人に過ぎないかも知れない…


どこから、出てきたのだ…


私はなんで、こんな苦しい思いをしているんだ…



そう私が苦しい思いをしているなか、彼女は感嘆の一言を言う。


「すごい!私のイメージ通りじゃん!本当に天使様みたい!」


その一言が私の人生を決めることになる。


彼女は驚きと共に古のマリア像のような満面の笑みを浮かべて、喜んでいた。


私は、そこで悟ってしまった。


私が芸術を目指したきっかけを。


親から捨てられた幼いあの日、夢で見た天使。


その時は微かにしか見えなかった天使を生み出したかったから私は芸術家になったのだ。


そして、その天使を今なら生み出せる。


彼女と一緒なら、生み出すことができる。


生まれてようやく、初めて心のそこから満たされることを感じる。


私はこの日のために生まれて来たのだ。


そして…



「お兄さん!色々作って欲しい物があるんだけど、お願いできないかな…?」



そうだ。


もっと、美しい物を作り出したい…


もっと、もっと、この才能による至宝を生み出したい…



「はい」



この誘いを受け入れると私は一生、この娘にとらわれることになるだろう。


頭の中で、人並みの喜びも悲しみもない人生になることがわかってしまう。


ただ、私にそれはどうでもいいことだった。


大事なのはまだ見ぬ美しい物を生み出すことだけなのだ。



その日からはただただ、彼女が発見した天使を世界に生み出し続けた。


それはそれは幸甚の至りだった。



そして…


彼女は自ら命を断ってしまった。


なぜ…



最後の彼女の言葉は意味不明だった。



「満足!もうお腹いっぱいだよ!」



…本当に意味不明。


それは一瞬は満足かも知れないけどな…



ただ、あれほど、神に愛された彼女でも、自殺となると天国にいけないかも知らない。(ケーキの食べすぎで死んだのが自殺なのかな…)


ということはあの才能を追うためには、私も自らの命を絶たねばならぬ。(死ぬまでケーキを食べ続ける…ちょっときついがしょうがない…)


神の愛からありえないと思うが、彼女が地獄に行こうとも私は彼女を見つけ出す。


絶対、次の美を生み出す。


次の美を、ああ、その次の美を…




なので、私の遺体の整理は大変だろうが、よろしく頼む。



A.D. 1564年2月18日


遺言者 ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニ


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読むより聞く派の人はこちら

https://youtu.be/Zt8LMt3vKKg

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