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未来と過去  作者: R.K
9/11

踏み出す一歩は、小さな一歩

 いくら白と言っても、やはり自分の失恋の話をするのは恥ずかしいものだ。その聞き方が直球になればなおのこと。


 今日はやめておくか。


 流石の使者(天野)といえど、ルールに反したわけではないのだから、あんな風には言っていたものの消されるなんてことはないだろう、と思いたいところだけれど、あいつならやりかねないという気持ちを無下にできない自分がいるのも確かだ。


 おれはこっちの世界に来てからあいつ(使者)に振り回されてばかりだ。


 それで特別嫌な思いをしたとかいう訳でもない。ただ、あいつの掌の上で転がされているというのが気に食わないだけだ。


 でももっと気に食わないのが、また俺の人生を自分の小さな羞恥心で終わらしてしまうことだ。後で、なんてあるかはわからない。けど、“今”この瞬間俺は存在している。“今”なら聞き出せるかもしれない。


 確実に存在する“今”、それを大切にしないでどうする、、、、


 前の俺には踏み出せなかったこの一歩を“今”踏み出すんだ!


「なぁ、白?」


「どうしたの、藜?」


「藜?」


 ドクドク、ドクドク、自分の鼓動が聞こえる。今までで一番強く。でもそれに負けるわけにもいかない。


「塚原ってどこの大学に行くかわかるか?」


 人生をかけるかのもの言い草で聞いたのはそんなことか思うかも知れない。


 けれどこれを聞くのは訳がある。


 実は、天野と話している時も、塚原詩音がどこにいるか目で探してはいた。しかし見つからず、白が戻ってきて、あと少しで始業のチャイムが鳴るというのに見つからなかった。


 彼女は電車の都合上、朝早くに学校に登校する。だから、この時間になっても登校してこないのは、おそらく学校を欠席するからだろう。


 受験の合否が発表されたり、試験が終わったするこの時期ならありがちで、塚原詩音もおそらくそれだろう。


 この状況だったら、一クラスメートとしてこの質問が一番しやすく、かつ「塚原詩音」についての話を広げやすい。


「・・・」


 白の反応がない。微妙な沈黙に陥る。これはどんな沈黙を意味するのか、しかしそれを深く考える間もなく、白の口が開く。


「いや、知らないけど。」


 まずい、白がこのことを知らないというのは全く想定していなかった。いや、想定していなかったというよりも、先の質問を問いかけるのに必死で想定する余裕がなかったという方が正しいか、、


 このままではこの会話が終わってしまう、なんとかここまで来たら繋げなければ、、、


「そ、そうか、でも今日、塚原、学校きてないよな。」


「そうだね。今日も来てないね。」


 今日も? 昨日はこっちの世界に来たばかりで正直誰がいて、誰がいるかなんてどころではなかった。でも、察するに、彼女は、しばらく学校に来ていないのだろう。


 正直、自分の失恋についても天野(使者)にヒントを出してもらわなかったら思い出せなかった俺が、この時期に誰かがしばらく居なかったとか覚えてるはずもない。


「そういえば、塚原っていつから来てないんだっけ?」


「うーん、、12月頃は、時々休んでたくらいだったけど、新年明けてからは、全く来てないからもう二ヶ月くらい来てないね」


 二ヶ月も、、、


 そう言いながら白はきょとんとした様子で俺を見つめている。


「なんだ?俺の顔になんかついてるか?」


「いや、そうじゃなくて。」


「じゃあ、なんだ?」


「いや、藜が塚原さんに振られてから、塚原さんの話を自分からするなんてはじめてだったから。」


「いや、たまたま今日、学校に来てなかったから。」


「それなら、もっと前に話してたでしょ、何も今日から来なくなった訳じゃないんだから。」


「まぁ、それもそうなんだけど、、い、いいだろ、別に。」


「何、逆ギレしてんの?」


「別に白に怒ってる訳じゃない。」


「ふーん、でもよかった。」


「なにが?」


「いや、やっと乗り越えたんだなぁって」


「とっくに失恋なんて乗り越えてたわ」


 と言いつつも頬が紅潮しているのが自分でもわかるくらいのだから、白がそれを見逃すわけが無い。


「いや、もうひどかったんだからね、藜が塚原さんに振られた時は。泣いてたの隠してたつもりだろうけど、俺が藜を見た時にはもう目が赤くて赤くて、なんかあったの?って聞いても、なんでもないの一点張りでさ、んで、同じ班の塚原さんともなんか微妙に距離取られてさ。それでなんとなく察したけどさ、もう修学旅行の帰りなんて最悪よ、あれは今でも忘れない。」


 ここぞとばかりにいじってきやがる。こいつのこういう、チャンスは絶対逃さないってところは本当にすごい。尊敬に値する。


「いや、悪かったってその節は、」


「でも、あんなに仲良かったから俺も上手くいくって思ってたんだけど、すごいお似合いだったよ。これは、お世辞とかじゃないよ、本心だから。」


「ああ」


「今でもどうもしっくり来てないんだよね、藜が振られたこと。」


「慰めなんて今更いらないぞ、白」


「いや、慰めでも同情でもお世辞でもなくて、単純に振られた理由が変だったんだよ。」


「振られた理由?」


「うん、藜は俺にそのことを話した時に「なんで断られたの?」聞いたら、「受験勉強があるからそういうの考えられない。」って言われたって、藜は言ってたよ。」


「それのどこが変なんだよ。」


「いや、これは噂なんだけど、どうやら塚原さん受験をしてないらしいんだよ。」


 え??、どういうことなんだ?


 それは一体、、、



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