"主人公の親友"…のはずが!?
ゲーム機の電源を入れ、先ほど買ってきたばかりのソフトを挿入した。
なんとなく立ち寄った中古品店で見つけたクソゲー臭が漂う…いや、クソゲーとしか思えない物だった。
普段なら絶対に買わないが、一世一代の告白で見事に玉砕し、そして振られた理由が「好きな人がいるから」、しかもその好きな人というのが俺の親友だった上に仲を取り持ってほしいと言われた、そんな惨めな俺にぴったりな内容だったから『むしろもう一度味わってやるよ』という気持ちで買ってやった。
タイトルは"べ、別にお前の恋愛になんて興味ないんだからねっ!!"。
最初はツンデレ美少女がメインのストーリーで、主人公(もしくは攻略対象)がモテているのを見ているうちに自分の恋心に気付いてくっつく恋愛ものかと思った。
でも実際の内容はというと、主人公の"親友"がヒロインたちからモテモテで、主人公はヒロインたちの趣味や身辺情報を様々な筋から手に入れて親友に渡して手助けをし、ヒロインうちの一人と親友をくっつけるというものだった。
ハッピーエンドがプレイヤーにとって全くハッピーエンドじゃないという謎のゲームだ。
製作者は一体なにを考えて作ったのやら…。
ともあれ、モテモテというわけではないが俺の好きな…好きだった人が俺の親友を好きという状況と似ていてプレイしてやろうと思った次第だ。
…べ、別に親友の為に勉強してやろうとか思ってないんだからねっ!!
いやマジで思ってないから。
さて、読込音と共にオープニングが流れ始めた。
興味がないのでスキップする。
どうせ起動した時にいつでも聞けるし。
で、タイトルが主人公の声で読み上げられながら表示される。
『べ、別にお前の恋愛になんて興味ないんだからねっ!!』
…ケースの裏にあったキャスト欄を確認すると、声から予想した通りの超有名声優だった。
なんでこんなクソゲーに起用してしまったのか。
ケースをそっと置いて"new game"を選択し、ゲームを始める。
"タッタッタッ…"
真っ暗な画面にメッセージボックスが表示される。
誰かが走っているテンプレな感じ。
普通のギャルゲーとかならこの後"ドッシーン"とか"ドーン"とかヒロインとぶつかるんだけど、このゲームではどうなることやら…。
わずかな期待を胸に進めると…
"ドーン"
というテンプレなメッセージボックスが。
普通なんかい!? と心の中でツッコミを入れた。
そして画面が曲がり角の絵に変わったところで違和感があった。
…曲がり角が画面から遠い。
ボタンを押して話を進める。
『イテテ…』
ボイスはなかった。
『あいたた…』
ヒロインと思われるボイス。
…またしてもケースの裏側を確認し、そしてそっと置いた。
だからなんで声優にそんなに金かけてんだよ!
ボタンを押すと、二人の人物が表示された。
片方はメインヒロインと思われる桃色ロングでどう結んでいるのかわからないお馴染みの髪型の女の子。
本来そんな形にはならないだろ、と思わずツッコミたくなるような感じにブレザーを押し上げる大きな胸が特徴で、お約束通りスカートが捲れてパンツが見えている…らしい。
らしい、というのはもう一人が邪魔…影になって隠れているせいだ。
そのもう一人というのは、おそらく主人公の親友となるであろう尖った感じのオレンジ髪でいかにもスポーツマンって感じのイケメンだ。
キャラ紹介の為だろうが、ぶつかった二人がこちらを向いているという状況には違和感がある。
まあそんなことを気にしていても意味がないので先に進める。
『ご、ごめんなさい』
ヒロインのボイス。
こんなクソゲーでも良い声だなぁ。
『ごめん。大丈夫か?』
たぶんイケメンの方のセリフ。
相変わらずボイスはない。
主要人物なんだから声をつけてやれば良いのに。
『うん。ありがとう』
イケメンがヒロインを立ち上がらせたようで二人が立ち絵になった。
…だから何で二人ともこっち見てんの?
というか、パンツが見えてるのをどっちかが気付いてヒロインが恥ずかしがる展開とかなかったな。
まあいいけど。
『俺は2年A組の峰岸 奏太』
唐突に始まった自己紹介。
なんでこのタイミング? とかツッコんだら負けである。
答えは簡単、だってゲームだもの。
『私は2年B組の深澄 麗奈』
律儀に応えるヒロイン。
ええ声や…。
『俺の名前は…』
"名前を入力してください"
本当に唐突に聞こえた主人公のボイス。
ちょっと待て、なんでお前がこのタイミングで自己紹介してるんだよ?
立ち絵の距離感も変わってないし、会話にいきなり混ざりすぎだろ。
だってゲームだもの、で済まされるレベルじゃねーぞ。
主人公とはすでに親友だとすれば無しでは…いや、無しだな、親友でもアウトだわ。
ヒロインからしたら完全に「え、誰こいつ? キモ」って引くレベルだろ。
…さすがにそれは酷いな、「キモ」までは言われないな、うん。
ま、まあこのまま止まってても進まないし、適当に…いや、このクソゲーを買った目的を思い出せ。ここは俺の名前だ。
一度はフルネームで入力したが、そういえばここで入力した名前で呼ばれることになるんだよなと考え直して、親友からの呼び名である"ともや"にした。
まあ、名前なんだけど。
決定を押して話を進める。
『ともや だ。よろしく、麗奈ちゃん』
後半部分しか読み上げられない。
まあ名前の部分が読まれないのはテンプレだな。
『よろしくね、峰岸くん。ともやくん。』
俺だけ名前で呼ばれている優越感。
…表示されてるだけだけど。
『自己紹介もいいけど、そろそろ行かないと遅刻じゃね?』
"奏太"と表示されている。
…お前から始めたんじゃなかったっけか? とツッコんではいけない。
だってゲームだもの。
そして場面は進み、ローディングが入る。
画面が切り替わり、表示されたのは教室。
『はい、それでは授業を始めます』
凛とした声。
やっぱり良い声優使ってるね。
パッケージには教師っぽいイラストはなかったけど…攻略対象なのかね?
もし違ったら奏太くんに声が付いてない意味がわからないね、本当に。
授業中のイベントとして中学生で習った内容の問題(舞台は高校のはず…)が選択肢形式で出てきた。
これによってパラメータのINT値が上がり、ヒロインの情報入手の成功率が上がるらしい。
なぜこんなことで成功率が上がるのかとツッコんではいけない。
だって(略)。
そして休み時間になると、新たなヒロインの登場。
『よっす』
明るい感じの声とともに現れたのは、赤髪をアップにまとめた笑顔の可愛い女の子。
麗奈ちゃんと同じく巨乳である。
『おっす』
奏太が気軽い感じに返した(と思う)。
『よっす。なんか用か?』
主人公のイケボ。
『ん? ん〜、どうしよっかなぁ〜』
もったいぶるような感じに言っているが、こちらは用があるのかと訊ねたのである。
しかしツッコんではいけない。
選択肢が表示された。
"なんだよ〜"
"やっぱりいいや"
"さっさと帰れ"
…最後のは無いな。
明らかに選んじゃいけないやつだろ。
てか実質一択じゃね、これ。
迷わず"なんだよ〜"を選ぶ。
『ふっふっふ〜。今日は何の日か知ってるかい?』
うん、可愛い声だ。
今日が何の日か、だって?
俺がフラれた日だよ…違うか。
『そう』
…え。
『女子の手作りクッキーが味わえる日だー!!』
…あ、うんそうだよね、そっちの話だよね。
女子の手作りクッキーか、調理実習って大半は男女合同だし現実じゃほぼ無いよな、なんてツッコんでは(略)。
『どうせ誰からも貰えないであろうチミたちに、中学からの腐れ縁の私が恵んでやろう〜』
と差し出されているのは一袋。
何枚入りだろうかとか細かいことは考えてはいけない。
『ははー。ありがたき幸せ』
主人公のイケボ。
『ありがとな』
奏太の優しそうな感謝の文字。
『ま、私も一緒に食べるけどね』
そしてタイミングよくなるチャイム。
『なんというバッドタイミング…』
項垂れる様子のヒロインとボイス。
本当にそれ。
『というわけで、これは昼休みまで私が預かっておきまーす。また後でね〜』
ボイスとともにフェードしていくヒロイン。
…最後まで待ってたけど、名前は?
『それでは授業を始める』
教師の渋い声。
モブの教師は声あるのに、奏太くんは…。
もう気にしないことにするか、可哀想だし。
『それでは日高 なつみ。次のところを和訳しろ』
…ん、フルネーム?
『はい。え、え〜と…』
立ち絵&ボイスとともに先ほどの赤髪のヒロインが登場。
ここで名前が出てくるんかーい。
『わ、私の象は飛んでいる?』
…どういう状況だよそれ?
たぶん英語かなんかなんだろうけど、どういう誤訳をしたらそうなるんだよ。
などとツッコんではいけない。
だってゲーm…
『正解だ』
正解なのかよ!?
『次のところを…峰岸』
お、奏太くんの出番か。
モテモテの設定だし、余裕だろうな。
…ただ教科書の方があれだから判断に困るよな。
『私は彼のように空を飛びたいが、そのための翼が無い』
さすがイケメン、正解だな。
文脈からしても…
『おしいな』
おっと、まさかの凡ミスか?
まあ完璧超人よりも少し欠点がある方がモテるっていうしな。
『正解は"私は象に乗って空を飛びたい"だ』
…おしいの意味がわからない。
あれか、翻訳する場所が惜しかったのか。
そうだろうな、うん。
そして終りを告げるチャイムの音。
教師が出ていく音の後、足音とともになつみちゃんが現れた。
『はいはい、ではお待ちかねのクッキーだよ』
と言いつつも画面のどこにも映っていないクッキー、などとは(略)。
『ちょっと待ったー!!』
突然、ロリボイスが乱入してきた。
そしてなつみちゃんを押すようにして出てきたのは水色ショートヘアにウサギのヘアピンを付けた小学生くらいの女の子。
ヒロインで唯一の貧乳である。
『この湊 京香ちゃんを差し置いて奏太に手作りクッキーを渡そうだなんて100年早い!』
ヒロインから初めて名前を呼ばれる奏太くん。
そして名前を呼ばれない俺。
麗奈ちゃんの時と反対の立場になって思い出した。
そういえば俺、この惨めな感じを味わうためにこのゲーム始めたんだっけか。
あの時の気持ちを思い出しながら話を進める。
『ちょっと! 邪魔しないでよ』
怒った様子のなつみちゃん、可愛い。
『そっちこそ!』
対抗する京香ちゃん。
『ま、まあまあ二人とも落ち着いて…』
主人公のイケボ。
…普通は奏太くんが止めるところじゃね?
『そうそう、みんなで分けて食べようぜ』
文字だけの表示。
あ、奏太くんか。
その言葉は悪手な気がするんだけど。
『奏太が言うなら…』
京香ちゃんが矛を収めた。
てかもう奏太くん付き合っちゃえよ、ここまで慕ってくれてるなら京香ちゃんでいいじゃん。
ハーレムとかふざけんな、もげろ。
『ふーんだ。私のは ともや と二人で食べるもんねーだ』
不貞腐れた感じのなつみちゃん、可愛い。
俺の名前の部分だけボイスが無いのが悔やまれる。
『ならわたしは遠慮なく奏太と二人で。はい奏太、あ〜ん』
画面が奏太くんと京香ちゃんの二人を映し、まさに"あ〜ん"を実行しているところだった。
照れて避けようとしている奏太くんの迷惑そうででも実は嬉しそうな顔がなんとも妬ま…妬ましい。
『ふ、ふんだ。ともや 、あ〜ん…』
対抗心を燃やしたのかなつみちゃんが俺にあ〜んをしてくれているらしい。
誠に残念ながら専用のイラストは無いようで、京香ちゃんとなつみちゃんの立ち絵に戻っている。
…仲人の立場ってこんな気持ちなんだなぁ。
これでイベントは終わりらしく、ローディングのあと場面は放課後に切り替わった。
『じゃ、俺は部活だから』
そう"表示"して奏太くんが去っていく。
『俺は…』
"委員会に行く"
"帰る"
"屋上に行く"
お、ここで選択肢か。
帰るは無いとして、イベントを期待するなら屋上に行く場面だけど…。
悩んだ末に"委員会に行く"を選んだ。
ゲームの中でくらい真面目に行こうとか、6~7割くらいしか思ってない。
『あ、 ともや くん。ちょうどよかった』
涼やかな感じの声で話しかけられた。
いやまあ、名前の部分はやっぱり声無しだけど。
そして画面に現れるのは黒髪ポニーテールでつり目がちな女の子。
パッケージでは竹刀を持っていたから剣道部か道場の娘だと思われる。
常備して持ち歩くのがゲーム界の常識かと思ったけど、意外と良識があるようで今は携帯していなかった。
『委員長。どしたん?』
『委員長じゃなくて"詩織"と呼んでといつも言ってるのに…』
拗ねたような声、見た目から想像される性格とのギャップがいいね。
てか、名前を呼び捨てしてほしいって言ってる?
そうして勘違いしてアタックして玉砕するのでした。
…うん、どっかの誰かさん(俺)みたいだね。
『榊さん、とかで妥協してといつも言ってるのに…』
イケボで詩織ちゃんのマネをする主人公。
イケボだから許されるのであって、俺がやったら引かれる。
『もう』
少し怒ったような声もいいね。
『っと。ともや くんにお願いがあるんだけど、時間もらってもいいかしら?』
"もちろん…ダメ"
"もちろん"
"あ、急にお腹の調子が…"
下のは毎度のこと論外として、上のは詩織ちゃんとのやり取りを楽しむ意味では捨てがたい…が、真面目に行く俺は真ん中を選ぶ。
『もちろん』
『ありがとう。じゃあ付いてきてちょうだい』
嬉しそうな詩織ちゃんの表情とともにローディング画面へ。
場面は職員室になり、渋い感じのどこかで聞いた声が。
『じゃあ、よろしく頼むぞ』
"はい"
"YES"
"了解っす"
…はい出た、出ましたよ。
お約束の全部同じ選択肢。
NOと言える日本人を目指す俺には厳しい場面だけど、同じ英語つながりで"YES"を選んでやるか。
すると突然イベントゲームが始まった。
しかもまさかの俺の苦手な格ゲー。
幸いなことに複雑なコマンドはなく、ガードと弱攻撃と強攻撃しかない。
なんとかクリアすると、詩織ちゃんがハグしてくれたようだ。
暗転とムニュという効果音だけで済ませるのは酷くない? とかツッコんではいけないのだろうか。
いや、主張してはいけないのだろうか!
そしてローディングが入り、場面は再び廊下へ。
さっきのイベントは一体なんだったのかとツッコんではいけない。
だってゲームだもの。
『あれ、奏太じゃん』
主人公の言う通り、奏太の絵が現れた。
『峰岸くんか』
詩織ちゃんが奏太くんを苗字で呼ぶ。
今のところ奏太くんを名前で呼んでるのが主人公と京香ちゃんだけなんだけど、ここから他のヒロインを結びつけるってキツくね?
…安易に名前呼びが親しさを表してるって考える俺の考えが浅はかなのかもしれないけど。
『部活はどうしたんよ? サボりか〜?』
主人公のからかうような声。
イケボだから許される。
俺がやったら煽りだと思われてマジギレされる。
『ちげーよ。着替えを教室に忘れたから取りに来ただけ』
そう表示すると少しの間消えて、荷物を持って現れた。
『じゃ、お邪魔虫は退散するから。お二人さん、仲良くな〜』
また消えていった。
頬を赤く染める詩織ちゃん。
…これって俺(主人公)に惚れてるんじゃね?
いや、勘違いクソ野郎の俺がそう思うってことは、奏太くんに勘違いされて困ってるって考えたほうが正しいな、うん。
もう二度と繰り返さない。
俺はちゃんと学んだ。
『奏太のやつ、なに勘違いしてんだろうな?』
本当にな、そんなわけ無いのにな。
『あ、あながち間違ってなくも…ないというか…』
後半は小声になりつつもそんな可愛いことを言う詩織ちゃん。
現実だったら聞こえ無いんじゃねとか実際にそんな声量が小声とか無いだろとかツッコんではいけない。
というより、詩織ちゃんってもしかして本当に?
いや、勘違いするな俺、それは気のせいで間違いだ。
『ま、あとでちゃんと勘違いすんなって怒っとくから気にすんなよ、委員長。じゃあまた明日』
そうそう、ちゃんと誤解はといておかないとな。
ローディング画面を挟んで自宅の絵に切り替わった。
"ステータス"
"持ち物"
"情報"
"セーブ"
"ロード"
"オプション"
と左上に並んでいる。
ステータスを押すとINT,ATK,DEFといった項目が表示されていた。
…恋愛シミュレーションゲームに必要な要素か?
次に持ち物を押すと"なつみのクッキー"と表示された。
貰って帰ってきたのか。
情報を押すと、各ヒロインについて知っている情報が表示された。
"麗奈","なつみ","京香","詩織","UNKNOWN"と並んでおり、あと一人出てきていないヒロインがいることがわかった。
というか詩織ちゃんは奏太の攻略対象の一人なんだな、勘違いしなくてよかった…。
べ、別に悔しくなんかねぇし。
…とりあえずセーブしとくか。
そして始まる二日目。
奏太くんが見知らぬ女の子と歩いている場面が映った。
これがたぶん"UNKNOWN"の子だろう。
それで登校シーンは終わった。
…え。
そしてローディングが終わるとついさっき見たばかりの自宅の絵。
これが表す意味を考えると…まさかの二日目終了?
ナニコレ。
セーブする意味もないのでそのまま三日目へ突入。
奏太くんと"UNKNOWN"の子に加えて麗奈ちゃんがいる絵が映った。
そしてまたローディングが終わると自宅の絵。
……何このクソゲー、最初とは別の意味でホントにクソゲー。
またセーブせずに四日目へ。
今度は奏太くんが京香ちゃんと二人で歩いている登校シーン、そしてローディング。
どうせまたそのまま終了だろうと予想していると、教室が表示された。
おっと新しいイベントの予感。
『そういえば、奏太。最近、一緒に登校している子って誰? もしかして浮気か?』
からかうようなイケボ。
『ん、京香のことか?』
すっとぼける奏太くん。
いくらイケメンでもそれはダメだろ。
『違う違う。昨日とか一昨日とか一緒に歩いてた子だよ』
逃がさ無いとばかりに追求するイケボの主人公。
『あ、奈央のことか。妹だよ、って紹介したことなかったか?』
妹…だと?
あんな可愛い子が妹とか許せない。
うちの妹と交換してほしい…切実に。
…もちろん妹が攻略対象にいるとか犯罪だろとか言ってはいけない。
だってゲームだもの。
『初耳だよ!! はぁ、せっかくのスクープだと思ったのによ』
残念そうな主人公の声。
そしてローディングのあとはまた自宅。
一応、情報を選択すると"UNKNOWN"が"奈央"に変わっていた。
そして奈央の情報の中に奏太の妹という記述もあった。
これで攻略対象は全員揃ったわけだけど、初日以外にまともにプレイできる部分がなさすぎてどうすればいいのか全くわから無い。
そんな俺を無視して無情にも月日は流れ…。
『ずっと君のことが好きだった。俺と付き合ってください』
奏太くんが京香ちゃんに告白しているシーンとなった。
…京香ちゃんが相手なら、まあ順当に収まるだろ。
『ごめんなさい。京香、ともや くんが好きなの』
えぇー!!
まさかの急展開でびっくりなんだけど!?
俺がプレイすることもできずにただ進めて行くだけだった日々の中に一体何があったというのか。
そして京香ちゃんが影で見ていた俺のほうに向かってくる。
…居場所ばれてんのね。
だってゲ(略)。
『ともや くん。京香、ともや くんのことが好き。世界で一番、誰よりも貴方を愛してる』
必死な感じのロリボイス。
本当なら嬉しいんだろうけど、奏太くんにゾッコンだったシーンしか知らなかったから全く嬉しくない。
なんていうか、全くその愛が信用できない。
『待って』
息を切らせた様子の明るい声。
真剣味を帯びた表情のなつみちゃんが現れた。
『私も ともや のことが好き』
なつみちゃんの真剣な告白の直後、誰かが駆けてくる足音。
……。
『わ、私も…』
息も絶え絶えにそう言って現れたのは詩織ちゃん。
『私も、ともや くんのことが好き。ずっと前から、一目惚れだったの…』
頬を真っ赤にしながらの告白。
少し潤んだ瞳が可愛い。
というか、思えば最初から詩織ちゃんは主人公狙いだったみたいだし、一番信用できる。
『ちょ、ちょっと待ってください』
初めて聞く声、だけど誰だかだいたい察しはつく。
画面に現れたのは予想通り奈央だった。
『わ、わたし。ともや お兄ちゃんのことが大好きです!』
…音声だけ聞くと『わ、わたし。お兄ちゃん(=奏太くん)のことが大好きです!』なんだよね。
このゲームの趣旨としてはむしろそっちの方が正しくね?
『私と付き合ってください』
四人のボイスが重なった。
そして表示される選択肢。
"京香"
"なつみ"
"詩織"
"奈央"
"奏太"
…一番下おかしくね?
とりあえず一番印象のいい詩織ちゃんを選ぶ。
ローディング。
画面に映ったのは大人になった幸せそうな詩織ちゃんと主人公の絵。
思わずスクリーンショット。
そして会話やメッセージは一切なくエンディング。
エンディングのあとに何かあるのを期待するも、表示されたのはタイトル画面。
"load game"を選択して告白シーンへ。
奏太くん以外の全員を試してみるも、全て同様に幸せそうなヒロインと主人公の絵。
一応、全部のスクリーンショットを撮っておいた。
念のためと奏太くんを選んでみる。
『…え!?』
四人の声が重なった。
そして表示される主人公と奏太くんが熱く見つめ合うシーン。
背景にはバラが…。
それ以上の演出はなくエンディングを経てタイトルへ。
もちろんスクリーンショットは撮らなかった。
そっちの趣味はないんで。
…このゲームのあらすじを確認する。
主人公の"親友"がヒロインたちからモテモテで、主人公はヒロインたちの趣味や身辺情報を様々な筋から手に入れて親友に渡して手助けをし、ヒロインうちの一人と親友をくっつけるというものだった。
うん、俺の記憶に間違いはなかった。
…なんで主人公がモテモテなん?
ゲームの趣旨からしたら全部バッドエンドじゃん。
「…マジでクソゲー」
俺はそう呟くと中古ゲーム屋に売りに行った。
そして店を出た後で思った。
麗奈ちゃん、どこいったんだろうな…。
え、リアルの親友の話?
いつの間にか勝手に付き合ってたよ、チクショウ。