第七話
ストック切れました…………(^_^;
不定期連載になると思いますが、よろしくお願いしますm(__)m
「あ、そうだった。真由理記憶が無かったんね」
ふと思い出したように、表情をシュンと凹ませる沙乙。
完全な記憶喪失ではないんだけど、まぁいいか。
気を取り直して、沙乙が呪力について説明を始める。
「呪力ってのは、『呪法』を使う為に必要な燃料みたいなもんなんよ。生物すべてに備わっており、世界中どこら辺にもあるんよ。
呪力は呪法だけでなく、生活用品にも活用されてるんね。例えば、あそこに掛けてある照明とか」
沙乙が指差したマストには、趣のあるランタンが掛けられていた。
油や電気、ガスの代わりにその呪力ってのを使ってる訳か。生物すべてに備わっているって言ってたけど、ようは気やオーラみたいなものと理解しとけばいいのかな?
「すごいわね、呪力って。その呪法? ってどんなものなの?」
「んー、口で説明するより実際にやって見せる方が分かりやすいかもしれんね」
言うと、沙乙は手を前にかざし呪文を唱え始めた。
「炎呪!!」
唱えた沙乙の手のひらから、赤黒い焔が噴き出した。
唖然として、言葉が出ない。
さも当然とばかりに、炎を出して見せた沙乙。とてもじゃ無いが、理解が追い付かない。種も仕掛けもない状態で炎がでた、その事実だけは目の前で起きたのだから認めるしかあるまい。
けど、どうやって…………。
「呪法はまぁ、人によって向き不向きがあるから誰でもできる訳じゃないんよ。使える人たちの事を世間一般じゃ『呪法師』って呼ばれてるん」
じゅ、呪法師…………なんかカッコいい!
「わ、私にも出来るかな?」
「んー、やってみないことには判らんね。よし! 物は試しに…………」
懐の鞄から、石を取りだし沙乙が手渡してきた。
「それは、『吸呪石』って言って呪力を吸収する性質をもってるんよ。そして、吸収する際光を発する特殊な石なんよ。その吸呪石を光らせる事が出来たら呪力、呪法が扱えるってわけんね」
渡された石に言われた通り、やってみる。…………が、うんともすんとも言わない。
全く光る様子すらなかった。
「って、できるわけないじゃん!! 沙乙、なにかコツとかないの?」
「ん? いきなり諦めるん?」
「諦めるってより、その呪力ってのを送る方法が分かんないんだよ」
「ああ、えっとね。まず、心を落ち着かせて手先に集中するん。そして、体の奥底から力を放出する感じなんよ」
…………全くもって、意味がわかんない。
手先に集中するのは、何となくわかるけど。体の奥底から力を放出するってなに。
とりあえず、手から呪力を出すってイメージで良いのかな?
「フッンッ……………………ンンンンッ」
手先に感覚を集中させ、呪力を送るイメージを浮かべる。すると何かが、体の奥から肩、腕を通り手へ流れていく感覚がした。
そして、石が光出した。
「お、光ったんね」
「や、やった! あははは、やったよ!」
これ見よがしに、光った吸呪石を沙乙に見せ嬉しさをアピールする。
「分かった、分かった」と手を振り間を取る沙乙。
「真由理が呪力を扱える事が分かったし、次は呪法んね」
来ました、呪法! 実際、目にした物の原理が全然判らないから、どう発動させるのかすっごく気になる。
さっきの呪力を扱うようだけど、これまた難しいのだろうか?
「呪法は、さっきの吸呪石に呪力を流したようにするんよ。で、呪法を発動させるには『詠唱』が必要なんよ」
「詠唱? 沙乙は、さっき何にも呪文唱えてないよね?」
技名みたいなのは唱えてたけど。
「ウチは、詠唱省略出来るからしてないだけ。世の中には詠唱破棄で呪法を扱える人もおるらしんよ」
「へぇー、じゃあ私も詠唱破棄で呪法扱えたりするのかな?」
「んー、どうだろ…………。才能に大きく関わるからできるかどうか分かんないんよ」
「そっか…………でも、できるかも知れないんだよね?」
「うん、だから一度呪法を使ってみよんね。そしたら、分かるし。
じゃあ、ウチに続いて唱えてみてんね。まずは、比較的簡単なーー」
手を前に翳し、沙乙は呪文を唱え始める。
「流れる風よ、荒ぶる龍となりて顕現せよ。“龍風”!!」
すると、風が集まり竜巻となっていく。
意思のある生き物の如く、うねる様は本物の龍のようだった。勢いよく天へ昇っていく風の龍は、徐々に小さくなっていき次第に消滅していった。
あ、あれが比較的簡単…………?
冗談でしょ。思いっきり大技っぽいじゃん!
「さぁ、やってんみ。詠唱は『流れる風よ、荒ぶる龍となりて顕現せよ“龍風”』だからんね」
さぁ、と沙乙が促してくる。
いやいや、いきなりは無理だよ。自動車教習所に普通自動車運転免許とりにいった筈なのに、いきなり大型車に乗せられたみたいな有り得なさだよ!!
沙乙の汚れのない綺麗な瞳が、じっとこちらをとらえている。
え、これ、やらなきゃいけない流れなの?
…………。
もしかしたら、案外簡単なのかも…………?
補助輪なしで自転車に乗ってみたら、意外とすんなり乗れたみたいな。
なら…………っ!
心を落ち着かせ、呼吸を整え手先に呪力を集中させる。
そして、沙乙から教わった呪文を唱えた!
「流れる風よ、荒ぶる龍となりて顕現せよ! “龍風”!!」
風が手先に集まり出し竜巻となって、生き物のようにうねりながら前方へ勢いよく飛んでいった。
沙乙が出した龍風よりも一回りも二回りも大きく、威力のある龍風が出てきた。それを見た沙乙は、目を点にし飛び去った龍風を呆然と眺めている。
と、気を取り直した沙乙が興奮気味にハシャギながら近寄ってくる。
「すごいんよ! 真由理!! 初めてで、あんなデカイ龍風を出せるなんて!!」
両手を握られ激しく上下に振られる。危うく腕がもげそうなくらいだ。
「ちょ、沙乙落ち着いて!!」
「あ、ごめん…………つい」
ハッと我に帰り、強く握っていた私の手を離す沙乙。
先程の龍風、自分で出しといて何だが、あんなにでかいのが出るとは思わなかった。
「真由理、アンタ才能あるんかもね。初めてであんなにでかい龍風を出せるなんて」
「私自身、すっごいビックリしてる」
その後、沙乙からの呪法についてのレクチャーは昼過ぎまで続いた。
教わり分かった事としては、呪法には『属性』と言うものがあるらしい。それは、呪力にも言える事であり、自身の呪力が有する属性と使おうとする呪法の属性が一致しないと発動しないらしい。
属性は、火、水、風、雷、土の五大基礎属性に光、闇と言った特殊属性がある。他にも固有属性と言うものがあり世界に数人しかいないと言われている。
私の呪力の属性は何なのかというと。
最初にやった吸呪石に呪力を流し込んだ時、吸呪石の輝く色で解るらしい。緑色に輝いたから、風属性だった。
属性も分かった所で、まず五大基礎属性に属さない基礎呪法(無属性呪法)を習い。風属性の呪法を習い、早一ヶ月の年月が過ぎた。
色んなところに立ち寄った。
私がこの義楼旅団に加わり始めて訪れた街、ウェーズッシャ。ここは、交易が盛んに行われる商業の街で一日数十万人規模で商人や品を求める客が行き交っていた。
ホロウ國と言う國の中で一番大きい街と言うこともあり、数えきれないくらいの建物の数と人の多さに私は上空から見たとき呆気にとられた。
建物の形は、私がいた世界の高層ビルと同じ物や四角形だったり。基本、建物の形は四角形が支流みたい。中世ヨーロッパ風の街と言える街並みだった。
三角屋根の家が無いのは、日本人として何だが寂しい思いがする。
ウェーズッシャに立ち寄った理由は、商工会組合からの荷を運ぶ依頼を受けたから。
荷の中身は食料から反物、生活用品。果ては武具等も含まれていた。
義桜旅団は傭兵業も営んでおり、商工組合などから荷の運搬及び護衛を依頼で受け生計を建てている。
前に某國から依頼で要人を護衛したこともあるらしい。
大概は、商工組合からの荷の護衛兼運搬が多いみたいだ。
義桜旅団の団員数は、総勢三十六名。過半数を男性で占められて、武闘派揃い。強面な人ばかりではなく、意外と二枚目風の人もいた。
みんな、清々しいほど爽快で豪胆な性格で小さいことは気にしない──まるで“海の漢”って感じだ。
旅団って言うよりも、船乗りの集団と言った方がしっくりくる。
数少ない女性陣も、みんな男性陣にも劣らない男勝りな人達。特に漓園さんは、竹を割ったような性格で筋を通さないのが大嫌いな姉御肌。
この漓園さん、実は義桜旅団団長──“遮犖”さんの奥さんだとのこと。つまり、沙乙のお母さんってわけ。
赤い髪を一括りにし動きやすいようにしている。
キリッと引き締まった端整な顔は、まさしく美人。その鋭い眼光は見詰められただけで腰が抜けてしまうかも知れない程の色香を発している。
そんな漓園さんの下、炊事、洗濯、掃除を手伝いながら呪法の特訓して旅を続けている。
そして今、私は──私達は海を渡り四大陸の一つ州仂大陸へ舵を取っていた。