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蒼剣勇義──二度異世界に飛ばされました!  作者: yukihiro
第壱章 異界からの稀人
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第六話

 ガタガタと体が揺れている。それに、誰かの話し声も聞こえる。

 一際大きく揺れたところで、私──花澤真由理は目をさました。


「いっっ…………ちょっとは静かに運びんさいよ臥堵(がど)!!」


 私の隣にいた赤毛の女の子が、尻餅つきながら誰かに叫んでいた。勝ち気そうなつり目に両頬にあるソバカスが特徴的な女の子だ。

 ぎゃーぎゃー騒いでる所為で、可愛らしい顔が台無しになっている。


「あ、あの…………」


 体を起こして、女の子に訪ねた。


「お? 目、覚めたみたいんね」


 人懐っこい笑みを浮かべ女の子が身を乗り出してくる。好奇心旺盛なのか、女の子の綺麗な蒼い瞳が輝いて見えた。


「いやー、驚いたんよ? 急にアンタが降ってきてさ」


「えっと、ここ…………どこですか?」


「ここは、『義楼旅団(ぎろうりょだん)』の宿舎!」


 周りには、質素ではあるが生活に必要最低限の物品が置かれている。宿舎だと言われれば、確かにそのように見える場所だった。

 木で出来た格子を布で覆われている所を見る限り、ここはテントの中のようだ。


「そうそう、体どこか痛いところないん?」


 赤毛の女の子が心配そうに、顔を覗き込んでくる。

 体を触り、確かめるけど痛みを感じる箇所は無かった。


「はい、どこも痛くないです…………。さっき、『降ってきた』と言ってましたけど…………、一体…………」


「言葉通り、降ってきたんよアンタ。ちょうど、ウチらの円蓋(えんがい)に落っこちてさ、ほら、あれ」


 女の子が指を指した天井には、大きな穴が空いていた。人一人分ぐらいの大きさだ。


「運が良かったんね。もし、円蓋以外の場所に落ちてたら、アンタ死んでたかもしれんね」


「あわわ…………、すみません!! ああ、どうしよ?!」


「いや、穴ぐらいどうってこと無いし。それより、自分の身心配せんといかんね。危うく死ぬところだったんよ?」


 落ちている時の記憶が無い為か、全く死に直面したという実感が沸かない。それよりも、テントを壊してしまったと言う罪悪感で頭が一杯になっていた。


「あの…………必ずお詫びしますので」


「だから、円蓋のことは気にせんでいいんよ。それより、アンタ何で空から降ってきたん? そもそも、どこから来たん?」


 どこから? えっと、確か私は放課後に帰り支度をしててそれから…………。


 ………………………………。


 思い出せない。何故だか、靄が掛かったような感じでわからない。


「判らないんです…………。気づいたらここに」


「そう…………」


「え…………っ」


 ソッと赤毛の女の子に抱き締められた。慈しむように、優しく頭を撫でくる。僅かに香る柑橘系の香りが、鼻腔を擽った。

 その香りが、とても懐かしく感じる。


「ウチは沙乙(しゃお)。この『義楼旅団』団長の娘! 記憶が戻るまでここに居るといいんね。話はウチから通しておくんよ」


 どうやら、記憶喪失と思われたみたい。でも、強ち間違えじゃ無いかな? 現に記憶の一部が思い出せないし…………。


「はい、よろしくお願いしますね沙乙さん。私は花澤真由理って言います」


「はなざわまゆり? 長ったらしくて変な名前ね」


 そんなに可笑しな名前かな? もしかして、名字と名前の区別がついていない?

 もしかしたら、名字という概念が無いのかも。


「えっと、花澤が名字で、真由理が名前です」


「みょうじ? なんだか分かんないけど、真由理が名前で良いんだね?」


「はい」


「じゃあ、真由理。歳もウチと変わんそうだから、互いに敬語はなしってことでんね!」


 端から沙乙は敬語使ってないじゃん…………。まぁ、気にしてないけどさ。


「うん、分かったわ沙乙」


 言うと、沙乙は納得げにうんうんと頷いた。


「ちょいと失礼するんぜ、沙乙。お、嬢ちゃん目ぇ覚めたみたいんだな」


 のそっと巨漢がテントの中に入ってきた。


「あ、おっとう! 女子の部屋になにズケズケ入り込んできてるんよ!」


 巨漢の男性に食い掛かっていく沙乙。しかし、男性は軽く受け流し、私の前に座った。

 会話からして、沙乙の、お父さんなんだろうけど…………物凄い威圧感! 屈強な体をしていて強面な顔。ただ、面と向かって座っているだけなのに、気迫に圧され息がしずらい。


「嬢ちゃん、気分はどうだいん?」


「え、…………あっ」


 答えようにも、うまく声が出なかった。


 頬を冷たい汗が伝う。喉が異常に乾く。身体中の毛穴が開いていく感じがする。

 咄嗟に沙乙が、間に割り込んできた。


「おっとう! いきなりそのおっかない顔面、目の前に晒されたら答えられんね。真由理、恐がってるんよ」


「む…………」


 娘の一言にややショックを受けた様子の男性。ちょっと距離を置き、これで良いかと沙乙を見る。


「ごめんね、おっとうはこの通り厳つい顔してんから、恐かったんでしょ?」



「えっと、ちょっとビックリしただけだから…………」


 実際、ちょっと所では無かった。危うくも…………ウゥンッ!! 

 とにかく、人として大事なものを失うところだった。


「オホンッ! で、嬢ちゃん気分はどうだいん?」


 咳払いをして、もう一度沙乙のお父さんが聞いてくる。


「は、はい、頗る良好です!」


「そうか、ならいいんだ」


 表情を綻ばせる沙乙のお父さん。見た目厳ついだけで、本当は優しい人なのかな?


「あ、そうだ! おっとう、暫く真由理を旅団に置きたいんだけど、良いん?」


「そいつは、構わねぇんよ。人手が多いに越したことはねんだからんよ」


 気さくな笑顔を浮かべ、お父さんは沙乙の頭を撫でた。

 沙乙は撫でられ、むず痒そうに笑っていた。


 仲のいい親子ね。見ていると、とても微笑ましく思えてくる。


「団長~、準備出来ましたぜぇい!」


 テントの外から声が掛かった。

 聞いた沙乙のお父さんは、腰を重たそうに上げ外へ向かっていく。


「あいよぅ~、今いくんよ!」


「準備、出来たみたいんね」


 お父さんに続き、沙乙も外へ出ていく。

 私一人、ベッドの上にいるのもなんだし外へ出ようか。なんて、考えてたら、沙乙がひょっこり顔を出した。


「真由理はそこで、じっとしててんね。ちょっと、揺れるんから何かに掴まっといてんね」


 へ? 揺れる?


 沙乙が戻っていった直後、テントが大きく揺れた。


「え、ええええっ!? なに、なんなの!?」


 ドスンという大きな音と共に揺れは収まっていった。

 外に出ると、そこは船の甲板だった。

 この船は帆を張り、風を受け推進力を得る帆船のようだ。今時、珍しい。博物館でしか見たことのなかった私は、物珍しく辺りを見渡した。


 ん? 潮の香りがしない?


 帆船があるというのに、全く潮の香りがしていない。

 海の上なら、しても可笑しくないんだけど。

 船の端まで行き、海面を覗き込む。そして、私はそれを見て言葉を失った。

 そこにあったのは、海面ではなく雲海と隙間から見える緑豊かな大地だった!


「な、なにこれぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 もう、叫ばずにはいられない。目の前で起きている現象に理解が追い付かず、脳が混乱している。


 夢、幻? 試しに自分の頬をつねってみた。


「痛い…………夢じゃ、ないんだ」


 飛行機や飛行挺ないざ知れず、船そのものが空を飛ぶなんて聞いたことがない。


「あ、驚いたん?」


 後ろから沙乙が声を掛けてきた。少々自慢げと言うか、得意気な顔をして近寄ってくる。


「普通に暮らしてたら、こんな体験することもないからんね。まぁ、真由理は天から落っこちるなんていう、すんごい経験してるけんどもね」


「落っこちたって…………私、記憶に無いから、そんな実感が沸かないよ。それより、この船どういう原理で浮いてるの?」


 プロペラを使って浮かせている訳でも無さそうだし、一体どうやって…………。物理法則ガン無視の現象なんですけど…………これ。


 沙乙は、待ってましたと言わんばかりに説明を始めた。


「んっとね、この船は、船底に付いている『扶翼』と『排気口』からでる圧縮された空気によって浮いてるんよ」


 圧縮された空気を利用してって、この船ホバリングしてるって訳? でも、これだけの巨大な船を浮かばせるには、莫大なエネルギーが必要なはず。


 それも、核燃料ぐらいの高エネルギーが。


「扶翼と空気圧だけで浮かんでいるなんて…………一体どんな動力源なんだろう」


「動力源は、呪結石(じゅけっせき)っていう高密度の呪力を内包している鉱石を使ってんよ」


 沙乙の口から、訳の判らない単語が次々と出てくる。


 呪結石? 呪力? なにそれ?


 あまりにも、意味不明なことで私の頭上には疑問符がいくつも浮かび上がった。


「ねぇ沙乙、呪力ってなに?」


「え、呪力知らんの?」


 素直にうんと答える。すると、沙乙は有り得ないと言いたげな顔をした。

 そんな顔されても、知らないものは知らない。初めて聞く単語なんだから。


「真由理、いくらなんでも呪力を知らんって冗談でしょん」


「本当に知らないんだけど…………」


「…………マジで?」


 冗談と受け取っていた沙乙は、私が真顔で知らないと答えると、愕然とした表情を作った。

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