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蒼剣勇義──二度異世界に飛ばされました!  作者: yukihiro
第壱章 異界からの稀人
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第惨話

  採ってきた會菩の実を二人で分け、食べる。

 會菩の実を初めて食べるのか、芯羅は恐る恐る一口かじった。すると、一瞬驚き一気に食べ尽くした。

 芯羅の表情は蕩けきっており、嬉しそうだ。


「美味しいか?」


「はい! こんな美味しい果物、初めて食べました!」


「そ、そっか…………」


 宮廷では、それ以上の高価でうまい物食ってるだろうに。

 でも、そんな顔されると採ってきた甲斐があるってもんだ。

 ちょっとした満足感を得て、俺も會菩の実を食べた。


 採ってきた會菩の実を全部は食べず、昼食用にと残しておく。身持ちのする実だから、多少採ってから時間がたっても食べられる。

 近くの木に巻き付いていたツタに括り付け、持ち運びがしやすいようにする。


 準備は整った。目的地は決まってんだ、なら早い。

 アイツを呼んで、一っ飛びで行けば早いしな。


 では、さっそく…………。


 掌を前に掲げ、『召喚術』を開始する。

 目の前の地面に丸い陣が現れ、光を発した。


「颯滋さんって、召喚術も扱えるのですね。すごいです!!」


「まぁね」


 別段、大したことをしてる訳ではないけど、こう誉められるとちょっと鼻が高くなる。

 陣から発せられる、光の中に影が見えてきた。光が弱まるにつれ、その正体が露に。

 それは、俺の大切な友であり、相棒でもある巨鳥──翡翠(ひすい)だった。

 エメラルドグリーンの体毛が背中へ向けてグラデーションになっており、羽の裏は黄色、腹は汚れのない純白。鷹を彷彿させるフォルムで気高い雰囲気を醸し出している。


「そ、そんな…………なんで」


 翡翠を見た芯羅が、ひどく狼狽し始めた。


「どうした、芯羅?」


「どうしたもなにも、颯滋さん貴方いったい何者ですか?」


 いや、何者だと言われてもな。男子高校生としか答えようがなんだけど。

 芯羅が翡翠に近づき触れる。


「この鳥は、覇鳥、名は翡翠…………。かつて、『蒼剣武神』様と共に戦場を駆け抜けた伝説の鳥。本物を見るのは初めてです」


 翡翠とは共に戦場に出たことはあるが、へぇ翡翠の奴神さまとも戦場に出たことがあるのか。

 でも、こいつにそんな逸話があったなんて知らなかった。

 芯羅がこちらに振り向き、再度問う。


「颯滋さん、貴方は何者ですか?」


 うーむ、どう答えたら良いものか。


「しがない流浪人と思っといて」



「な、納得いきません! ただの流浪人が伝説の鳥を召喚するなんて、ありえません!」


 語気を荒げ、興奮している芯羅。


「適当に呼んだら出てきたんだ、偶々だよ」


「偶然で済ませられる事ではなんですよ!?」


「そうかい、呼んで出てきたもんはしかたないだろう。ほらほら、乗った。燭國まで一気に行くぞ」


 ぶつぶつ何か言っている芯羅を抱きかかえ、翡翠に乗せる。そして、芯羅の後ろに俺が乗った。


「さぁ、頼むぞ翡翠!」


「クォウッ!!」


 俺の声に応えるように鳴き、翡翠は羽ばたき始めた。


 徐々に地上から離陸し、空へ向かっていく。森の上に出ると大きな山脈──『帝龍山脈』が目に写った。

 大陸を南北に横断する山脈で、西と東で気候が違ってくる。俺達が向かう燭國は西側にあり、この森から約十二キロ離れた場所にある。

 広大な領地を有し、大勢の人々が暮らしている國だ。


 ふと、芯羅を見ると、流れ行く景色を物珍しく眺めている。


「空の旅は初めてか?」


「あ、当たり前です! 人が空を飛べるわけないのですから、こんな経験するはずもないです!」


 俺の腕にしがみつき、芯羅が応える。まだ、馴れてないのか顔を青くしていた。

 おっかなビックリ、地上の様子をみて歓喜の声を上げたり、恐がったり見ていて飽きないな。


「よかったな、貴重な経験が出来て」


「はい、ちょっと怖いですけど…………」


 馴れるには、もう少しかかりそうだ。

 前方に砦が見えてきた。あれが燭國の入り口。四つある入り口の内の一つ、東の砦だ。

 見張り台に二つ人影が見えた。

 砦の門の前に着陸し、翡翠から降りる。

 芯羅の姿を見た防人が話し合いを始めた。


「おい、あれ姫殿下じゃないのか?」


「ううん? …………確かに、似てはいるが」


 見張り台から降りてきた、防人たちが俺たちの前に立ち塞がる。槍を構え警戒する防人たち。


「動くな! 貴様ら何者だ応えよ!」


 どおすっかな。なんだか、有らぬ誤解を受けそうだ。

 どうこの場を切り抜けようか、考えていると芯羅が前に出ていった。


「私は、燭國の王、呂伯の娘、芯羅。貴方たちそこを通しなさい!」


 言うと、防人たちは構えを解き慌てて敬礼した。


「ひ、姫殿下、ご無事で在らせましたか。先程の無礼御許し下さい」


「良いのです。貴方たちにも心配をかけましたね」


「姫殿下、お気になさらず。ご無事で在らせられたのならそれで良いのです」


 おお、さすが姫様。防人たちが退いていくよ。

 防人の一人が、先に門をくぐり走っていく。たぶん宮廷に知らせに行ったんだろう。「姫殿下がご無事でした」ってね。

 俺たちも門をくぐろうとしたところ。


「まて、素性の知れぬ者を通すわけにはいかぬ」


 仕事熱心なことで。

 槍を突き付けられ、俺は大人しくハンズアップした。

 この流れからすると、関所に連れていかれ事情聴取。後に牢屋に連行、てな感じだろう。


 はぁ、やっぱこうなるのね…………。


「その槍を下ろしなさい。その方は私を助けてくれた御方です。無礼は赦しません!」


 芯羅が防人と俺の間に割って入り、言う。

 見た目は幼くとも、発する言葉からはすでに一國の姫足り得る風格が出ていた。

 芯羅の気迫に防人たちは、気圧され大人しく道を開けた。幼女に頭を垂れる大人。茶番を見ているようだがこの世界ではそう珍しい事ではない。


 でも、なんだか情けなく感じるな。

 防人たちとすれ違う瞬間、ちらりと防人たちの疑念の表情が目に写った。

 ああ、そんな目で見ないで! なんだか興奮しちゃう。


 とま、冗談は置いといて、無事通行することに成功。後は大内裏に向かうだけだ。


「おい、この鳥…………」


「ま、まさか!」


 俺たちに付いてこようとした翡翠を見て、防人たちがざわめきだした。


 やっべ、翡翠帰すの忘れてた…………。


 翡翠は不思議そうに首を傾げ、こちらを見ている。

 翡翠に近寄り、帰そうとする。しかし、寂しげな表情をするから、どうも帰しづらい。


「ひ、姫殿下。この鳥は?」


 防人の一人が芯羅に問う。


 どう応えればいいのか、芯羅が目で聞いてくる。

 とりあえず、誤魔化してとアイコンタクトを送った。


「この鳥は、雷鳥の変異種です。みため覇鳥、翡翠に似てはいますが別の種です」


 意をくんでくれた芯羅は、適当に誤魔化した。


「姫殿下がそうおっしゃるのなら、気にしませんが…………」


 どうにも納得がいかない防人。ま、雷鳥の変異種が本当にいるのかも疑わしいが、主君のご息女の言い分を無下に出来ないから、しぶしぶ頷いたってところか。

 あんたらの気持ちはよくわかる。雷鳥の変異種なんて聞いたこともない。いや、もしかしたら、知らない内に誕生しているのかも知れないが。

 見え透いた嘘を信じるしかない歯痒さ、辛いだろうな。


「さぁ、颯滋さん行きましょうか」


 某副将軍の如く、先へと芯羅が促す。


「あ、ああ…………」


 俺は、翡翠を連れ芯羅の後を追う。

 建造物が立ち並ぶ、広い大通り。何も変わっていない。まぁ、あれから一ヶ月しか経っていないんだからな。大規模な都市開発でもない限り、そうそうかわらないか。


 周囲の建物を見渡しつつ、そんなことを思う。

 ふと、あることに気付く。


 一ヶ月しか経っていない? まてよ、芯羅は自分が呂伯の娘だと言ってたよな。俺の記憶じゃあ、彼奴、結婚していないし、ましてや子供なんかいなかった。いたとしても、こんなに大きいのはおかしくないか?


 もしかして、養子?


「な、なぁ芯羅。お前って本当に呂伯…………陛下の娘なの?」


 胸の内を燻る疑問を芯羅にぶつける。


「なんですか、藪から棒に…………。正真正銘、燭國の王、呂伯の実の娘です!」


 自信満々に応える芯羅。でも、それじゃあおかしいんだ。


「芯羅、自分の生まれた年言えるか?」


「え、甲暦458年ですけど…………」


 芯羅の言葉に耳を疑った。


 こ、甲暦458年、だと?

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