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蒼剣勇義──二度異世界に飛ばされました!  作者: yukihiro
第壱章 異界からの稀人
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第弐話

「うぅ…………こ、ここは…………?」


 かき集めた枝に、『術法』で火を着けているとあの少女が目を覚ました。


「ん? 起きたか」


「ヒッ…………!」


「怖がることはねぇよ、君に危害を加えるきはない」


 警戒心たっぷりの眼差しで見つめてくる少女。

 まぁ、仕方がないか。


「あ、あの…………貴方は?」


「俺は…………」


 ここは素直に応えるべきか? もし、この『世界』があそこだとしたら、少々不味いな。素直に名乗った事によりまた、厄介ごとに巻き込まれるかもしれん。


 一瞬、考えこう答えた。


「俺は、颯滋(そうじ)だ。君は?」


「えっと、燭國が王、呂伯の娘、芯羅(しんら)と申します」


 な、なに!? 呂伯の娘!!?

 嘘だろ、マジかよ…………。

 まじまじと芯羅を見る。確かに目元とか似ている。


「あの…………は、恥ずかしいです」


「すまない…………」


 ついつい見つめすぎたらしい。彼女の顔が赤くなっていた。


「あ、あの…………貴方が助けて、くれたのですか?」


「まぁ、そう言う事になるかな」


「ありがとうございます! この恩は一生忘れません! 何かお礼をしたいのですが…………生憎、何も持っておらず…………」


 礼儀正しく綺麗なお辞儀で礼を言われた。


「お礼なんて、いいですよ。顔をお上げ下さい」


 顔を上げるよう促し、話を続ける。


「君…………いえ、姫様はなぜあのような者達に」


 一國の姫君ならば、それなりの警護が付くはず。それが、まんまと拐かされこんな森の中にいる。

 何してんだか呂伯の奴。

 と、アイツばかり責めてもな。


「夕刻の頃です。宮廷から少し離れた庭園に訪れていたら、突然二人組の男が現れ…………」


「拐かされた、と」


「…………はい」


 守りが手薄となった所を拐われたと言うことか。

 姫の行動を熟知し、賊の侵入を手引きした奴がいるな。拐われた時間帯を推測するに、相当念入りに計画されている。

 夕暮れは薄暗く、場所によっては真っ暗になる。宮廷の離れの庭園は確か、ちょうど日が陰る場所にありそこを狙われたか。しかも、姫が一人になる時を狙って。


 はぁ、この世界が俺の予想通りだったのはいいんだけど、さっそく厄介事に巻き込まれちまった。


「颯滋様、ひとつお伺いしたいことがあります」


 おずおずと芯羅が問うてくる。


「俺の事は、颯滋で構いません姫様」


「わかりました。では颯滋さん、(わたくし)のことも芯羅とお呼びください」


 いやいや、姫様相手にそれは失礼だろ。

 断ろうとすると、芯羅の潤んだ瞳がこちらを見つめていた。その様が捨てられた仔犬のようで断りずらい。


「はい…………ひ──芯羅、様」


「様もいりません。芯羅とお呼びください!」


「し、芯羅…………」


「はい!」


 名前を呼ばれ、心底嬉しそうにする芯羅。その笑顔に少し胸がドキッとした。

 な、なにときめいているんだ俺! 相手は姫様、それも親友の娘だぞ!!

 いったん落ち着け。最初の話に戻そう。


「で、ひ…………っ芯羅。聞きたいことがあると言ってましたけど、何ですか?」


「…………出来れば、その敬語も止してください。えっと聞きたいこととは、颯滋さんはなぜこのような森に? 見るからに猟師という風貌ではありませんし」


 率直な疑問。

 芯羅には俺の質問に答えてもらったんだ。答えなければ不公平だな。


「それは、俺自身わからない。気づいたらここに居た。としか言えない」


 こうして、この世界に『転移』してきたメカニズムすら把握出来ていないんだ。説明しろと言われても困る。

 以前も同じように、突然『転移』させられた。なにか条件のようなものがあると思うんだが、それが何か判らない。俺の方が聞きたいくらいだ。


「そうなのですか…………」


 シュンっと表情を暗くする芯羅。

 自分のことではないのに、そんな顔するなんて…………。とても、心優しい娘なんだな。


「まぁ、『元の世界』に帰る手段は必ずあると思うし、悲観はしてないけどね」


「『元の世界』?」


「あっ…………」


 しまった、つい口が滑った。


「も、元居た場所に帰る方法ってこと!」


 慌てて訂正する。


「はぁ…………?」


 芯羅は訝しげに眉を歪めた。

 誤魔化しきれていないだろうが、良しとしよう。


「もう、辺りも暗いし今日はここで野宿するしかないな!」


 強引な話題変更に無理があると思いつつ、話を続ける。


「嫌かもしれないが、すまないけど、我慢してくれ」


「このような状況ですもの、我儘(わがまま)は言いません」


 気丈に振る舞っているが、不安の色は隠せずにいる。

 まだ、十歳かそこらなんだろう。何もない洞窟の中での野宿は不安でしかたないのは当然だ。

 いくら洞窟の中と言えど、夜は冷える。なるべく身体を冷やさないよう着ていたブレザーを芯羅に掛けてやった。


「あ、あの颯滋さん…………」


「俺の事は気にしなくて良い。慣れてるから」


 安心させるため笑って見せた。


「…………はい」


 安心しきった笑みを浮かべた後、芯羅は瞼をゆっくりと落とし、小さな寝息を立て始めた。

 俺の方に身体を預け、眠る芯羅。

 その無防備に眠る姿がとても愛らしく思えた。


 俺もだんだん、眠たくなってきたな…………。


 うつらうつらとした意識を手放し、俺も夢の世界に旅立った。




 ───翌日。



「んぅっ、ん…………」


 洞窟の外が多少明るくなった頃。自然と目が覚めた。


「イツツツっ………………」


 負荷の掛かる体勢で寝ていたからか、身体が痛い。

 さてと、朝飯採りに行くかな。


「ん?」


 立ち上がろうしたとき、右肩に重みを感じた。

 見ると、芯羅が気持ち良さそうにこちらへ身体を預け寝息を立てていた。


 そうだった、芯羅と野宿したんだった。


「スースー…………んぅ…………スー」


 …………うむ、動けん。芯羅を地面に寝かせれば良いのだが、一國の姫に対してそれはしちゃいけないよな。

 なにか、枕代わりになるものがあれば良いんだが。

 そうだ、芯羅には悪いが掛けているブレザーを枕代わりに。


 そっと、ブレザーを取り折り畳み芯羅を横にし、頭の下へブレザーを敷く。

 慎重に足音を立てないように洞窟を抜け、朝食確保に向かった。

 迷わないよう、木に術法でマーキングしながら森の中を歩き回る。


 なかなか見つからねぇな。


「ん?…………くんくん…………この匂い」


 甘い匂いが鼻腔をくすぐる。匂いを辿り、歩いていくと、枝に黄色く大きな実を付けた木を発見した。


「やっぱり、會菩(あぼ)の実か」


 會菩という木に成る実。黄色く楕円形をしていて、皮のまま食べられる栄養価の高い果物だ。

 市場でも多く出回っており、糖度も高くそれなりに人気がある。

 この會菩の木には、多くの実がなっていた。

 これなら、多少腹も膨れそうだ。

 木を伝い登り、実を収穫していく。一つずつ採っていくのも面倒だ。

 実を地に落とし、回収していく。この方がいいな。


 必要な分だけ収穫し、あの洞窟へ戻る。

 途中、他に食べれる物はないか探したが、良いものがなかった。


「ただいまぁ~って、おわぁ!?」


 帰って早々、芯羅が抱き付いてきた。

 え、なになに? どう言うこと?

 突然の出来事に、目を白黒させる俺。


 とりあえず、離そうと芯羅の肩に手を置くと、震えているのが判った。

 見知らぬ場所で一人置いてかれたら不安にもなろう。


「芯羅…………」


 ぎゅっと、腕の力を強める芯羅。


「ごめんな、急にいなくなったりして。声掛けとけばよかったな」


「うぅ…………グスッ…………」


 しばらく、芯羅が落ち着くまで頭を撫でてやった。


「すみません、お見苦しいところをお見せしてしまって…………」


「そんなことねぇよ、俺が声を掛けとけばこうはならなかったと思う」


「…………っ、そうです! 颯滋さんが何も言わず行ってしまうのが悪いのです! 起きたら隣に颯滋さんが居なくて、どんなに寂しかったか…………うぅ」


 ああっ、また泣きそうになってる。


 そもそも、声を掛けなかったのは、気持ち良さそうに寝ていたからなんだけど。

 胸元で涙ぐんでいる芯羅を見ていると、こっちが悪い感じになる。

 はぁ、泣く子には敵わんな。

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