第零話
黒煙が上がる戦場を蒼い閃光が走り抜ける。
それは、次々と迫り来る己が敵を薙ぎ払っていった。
無数の兵士が、枯れ葉のごとく舞い上がり散っていく。
理不尽とも思えるその力。戦場を縦横無尽に動き、暴れまわるさまはまさしく武神のようだった。
その蒼い閃光に、紅い閃光がぶつかる。同等の力がぶつかり合った衝撃は、地面を抉り空気その物を揺るがせた。
何人もの兵士が、衝撃に耐えきれず吹き飛ばされていく。
「待っていたぞ、蒼牙!」
紅い閃光を発している男が、追撃の蹴りを繰り出す。
守りが手薄となっていた腹部に直撃。押し上がってきた胃の内容物をぐっと堪え、踏み止まる。
「こっちとらぁ、会いたかなかったよ…………」
嬉々として邂逅を喜ぶ男に対し、蒼牙は悪態を付く。
平然と会話をする二人だが、激闘をしている真っ最中だ。常人では見切ることの出来ない早さで攻防を繰り広げている。
二人の激闘に、参戦しようとする兵士はいない。それは、当然と言えた。
いるとしたら、同じ次元に立った者だけだろう。
「アハハハハッ!!!! 愉しいなぁ! 蒼牙ぁ!!」
「愉しかねぇよ、この戦闘狂が!!」
槍と刀がぶつかり合う。防ぎ、攻め、避ける、互いに全身全霊の力を振り絞り戦う。
が、二人の実力は拮抗しており、決着が着かずにいた。
「そろそろ、終わりにするか」
「おいおい、何言ってんだ? まだこれからだろ? おいぃ!!!」
この膠着状態に痺れをきたした蒼牙は、自身を覆うオーラを最大限に高めていく。
それに張り合うように男もオーラを最大限に高めていった。
「蒼牙!! それ以上力を使ったら────」
蒼牙の親友にして次期國王の呂伯が駆け寄ろうとする。しかし、二人から発せられるオーラによって近付くことすら困難となっていた。
二人を中心点に不自然な風が吹き荒れる。
気候にさえ影響を与えるほどの大きなオーラが、次第に空間そのものにも影響を与え始め亀裂を生じさせていた。
「さぁ、これで終いだ!」
「ウオオオオオオオォォォォッ!!」
極限状態の強大な力が衝突したそのとき、戦場一帯を眩しい光が覆った。光が収まると、蒼牙たちが居た場所には大きな窪みが出来ており、二人の姿は消えていた。
戦況は、互いの主力が喪失した事により、大きく変化した。
槍使いの男──徨閠の喪失に徨閠陣営の兵士は戦意を喪失。その隙を付き呂伯は全兵士に突撃命令を発した。
戦意を失った兵士達は、瞬く間に倒されていく。
こうして、呂伯率いる『燭』軍の相手を上回る数での勝利となった。
この戦の後、徨閠と共に失踪した蒼牙は英雄と崇められこう呼ばれた。
───『蒼剣武神』────と…………。