サラ先生の魔法講座⑩
しばしの沈黙の時間が場を包み込む。
相変わらず無表情で、無言のサラ。
精神的動揺による魔力の乱れともでも呼ぶべきか、レインの言葉によって乱れていたサラの魔力が少しずつ落ち着きを取り戻していく。
静寂の時間。
レインはサラの方を向いて、サラを真っ直ぐな瞳で見つめている。
対するサラは無表情でレインを見返している。
「言い掛かりだ。
私も魔法使いとしての誇りがある。
魔法の才能が私より上かもしれないセイヤを前にして、今は私が上だと見せ付けたい気持ちもあったかもしれないという事は否定は出来ないが、合理的に判断してこの方が分かりやすいと思ったから無詠唱魔法で実演しただけだ。
魔法のプロセスと呪文を関連付けて説明するより、最初は呪文無しで魔力の流れと実際に起きる現象だけを見て貰った方が分かりやすいと判断した。
レインは私の魔力の流れとプロセスを感じて理解出来たのか?
これだけでも理解できないのに、これに加えて呪文の文言まで含めて、全て覚えて理解できるのか?
呪文まで含めて説明すると、与える情報量が多くなりすぎて、逆に理解させる障害になると判断したまで。
レイン。
私は色々と考えて行動している。
なんでもかんでもセイヤと結び付けて考えるのはやめて欲しい」
いつものサラだな。
別に嘘を言ってる感じもしないし、魔法の才能があるかもしれない俺を前にして、ちょっと魔法使いの先輩として自分のレベルを見せたかったって気持ちが、ちょっと混じってしまったって事なんだろう。
それをいきなり、当たらず遠からずでレインに指摘されてしまって動揺してしまったんだろうな。
「はいはい、そういう事にしておいてあげるわ。
嘘は吐いてないんでしょうしね。
確かに、サラの言うとおり、私にはサラの魔力の流れと魔法に関するプロセスは理解できなかったわ。
というか、いつもサラの魔法はいつも目の当たりにしてるのよね。
いつもサラの魔法を目の前で見れる環境にあるのに未だに理解出来てないんだから、私には魔法の才能が無いというか、今さら説明されて一回ゆっくり見たところで、今までと同じように理解出来なくて当たり前だとは思うけど。
それでも、いつも呪文ありのウォーターは見てるんだから、私の前では呪文ありのウォーターでも無詠唱魔法のウォーターでも違いは無かったと思うわ。
それと、ウォーターの魔法を実演で練習って言ってたけど、まずは体外に魔法を使えるだけの魔法力を放出する練習から始めた方がいいんじゃないかしら?」
そりゃ、レインはいつも目の前でサラが魔法を使うところを見てるんだから、この一回を見たからって普段と違って、いきなり理解できる!とかいう風にはならないよなぁ。
しかし、教えてもらっている立場で、しかも理解できなかったと言っているレインが何故か偉そうな態度でサラに物申しているのに対し、サラは口答えする感じでもなかった。
これを言ってるのがノエルだったら、めちゃくちゃに反論してただろうな。
やっぱりレインとサラの長年の付き合いというものなんだろうか、二人の言葉のやりとりの距離感というものがよく分からない。
俺が男だから、女同士の会話のやり取りによる距離感の測り方というものを理解してないだけかのかもしれないけれど。
少し言い合いに聞こえるかもしれないけれど、建設的な意見のやりとりのようにも見える。
サラの魔力の乱れも収まっている事から察するに、精神状態も平常運転に戻ってるみたいだしね。
「レインとセイヤは闘気術を使える事から察するに、飲み水程度のウォーターの魔法を行使する為の魔法力なら顕在できるはず。
よって、体外に魔力を放出して、顕在魔法力を高める練習より、まずは魔法の発動プロセスを知り、学ぶことの方が先と判断した。
呪文に関しては、レインはまだしも、セイヤには呪文が無いほうが逆に魔力の流れとプロセスについて理解しやすいかもしれない。
セイヤ、私の無詠唱魔法のウォーターを実際に見てみてどう感じた?
呪文ありの魔法なら今までに見てきたはずだが、無詠唱魔法の方が魔法のプロセスを理解しやすくは無かったか?」
確かに、呪文つきの詠唱魔法は詠唱されている文字の文言を追ってたので、逆に魔力の流れとそのプロセスというものを意識していなかった気がする。
俺には魔力感知のスキルがあるので、意識すれば魔力の流れを感知する事が出来るし、そういう意味では予め意識しておいて、魔力の流れとそれから生じる結果に至るプロセスだけを抜き出して理解するためには、詠唱魔法より無詠唱魔法の方が適していたといえるのかもしれない。
「二人にはまだ言ってなかったかな?
俺には魔力を探知するスキルがあるから、ああ、スキルって言葉で理解できるかな?
魔力を探知する能力、力があるから、詠唱魔法よりも無詠唱魔法の方が、魔力の流れと、そのプロセスを追って理解しやすかったかな。
今までにサラの詠唱魔法は見せてもらってたけど、呪文の方ばかり気にしてて、恥ずかしい話、魔力の流れとその魔力の流れから魔法に至るプロセスまでは意識してなかったからさ。
だから、こうして改めてサラに説明してもらって、説明してもらいながら無詠唱魔法を見せて貰ったのは、詠唱魔法を見せてもらうよりも分かりやすかったかな」
思った事をそのまま口に出して言った俺。
その俺を、二人は何とも言えない表情で見つめてくるのだった。




