剣の稽古⑧
「ふん、当たり前よ。
私がセイヤに苦戦するわけがないわ。
ほら、いつでもいいから、かかってきなさい」
レインはノエルを一瞥すると、俺に向かって木剣を構えた。
レインと初めて手合わせした時から思ってたけど、やっぱり女の子に向かってこっちから攻撃していくのは躊躇ってしまうんだよな。
日本にいた時の感覚で、女の子に暴力を振るうのは悪い男っていうイメージがありすぎて、練習とはいえこちらから攻撃を仕掛けるのに、精神的なセーブがかかってしまう。
異世界とはいえ、お互いに防具もつけていない布の服だし、レインの剣の腕は確かだから俺が一撃を入れれる事も無いだろうけど、もしマグレで一撃入れれたりしたら女の子の腕とか足に、傷や痣を作ってしまう事になるかもしれないし、とかそんな事を考えてたら、益々レインに対して攻撃し辛くなってしまうんだよな。
「うーん。
昨日の事もあるし、とりあえず昨日と同じ攻撃をしてもらってもいいかな?
昨日は全力の攻撃で一回だけ防げたけど、闘気術ありならどうなるのか試してみたいのもあるし」
とりあえず、もっともらしい理由をつけてレインの方から攻撃してもらおう。
「ああ、昨日は全力で振りかざした一撃で、一回だけ私の攻撃を防いでたわね。
全力の一撃だったから、その後の追撃に反応できてなかったけど。
いいわよ、昨日と同じ一撃を放ってあげる。
一回目を凌げたら、その後に追加で攻撃するから、二撃目以降もちゃんと防ぎきってみせなさい」
そう言うと、すぐにレインは、昨日と同じように攻撃の構えを取ると、軽くダッシュして俺との距離を詰めると、その勢いのまま横薙ぎで木剣を振るってきた。
ぬるいな。
レインと初めて会って、初めてこの攻撃を貰ったときは早くて重い攻撃だと思ったけどね。
あの後に、レインの本気の攻撃と、本気の速さを散々見てきたからな。
それに比べたら、断然ぬるい。
かなり手加減してくれている一撃だと、今なら分かる。
俺はレインがダッシュし始めた時から、既に闘気術を発動していた。
全身の細胞が活性化される感覚。
視覚、聴覚、触覚、自分の五感が研ぎ澄まされる感じがする。
武器まで闘気で覆うと、それだけで精神力をかなり削られるので、武器を持つ手までしか闘気で覆っていないけど、ただ素手で武器を掴んでいるだけとは違い、武器と手がまるで一体化したかのような感覚に陥る。
これなら、昨日みたいに武器が吹っ飛ばされる事もないだろうな。
レインの横薙ぎの一閃に合わせて、俺も剣を振るう。
昨日、全力で振りかざした時と同じ剣の軌道。
昨日と同じようにレインの剣は弾かれ、俺の剣も弾かれる。
すかさず、レインは剣をいなし、運動のベクトルを変換するかのように軌道を変えて、俺に追撃の攻撃を加えてくる。
俺もレインと同じように、弾かれた剣をしっかりと握り締め、伸びた手を再び縮めるかのように剣の軌道を変え、レインの二撃目に合わせる。
カンカンカン。
レインと俺の木剣が何度もぶつかり合った。
俺はレインの攻撃を読んで、レインの攻撃を捌くのに必死だ。
対するレインは、俺を弄ぶかのように単調な攻撃を繰り返してきている。
「うっ」
レインの剣を受け損なって、腕にレインの一撃を貰ってしまった。
同じ攻撃の繰り返しだったのに、同じ返しが繰り返して出来なかった。
攻撃を返すたびに、俺の剣を返すタイミングと軌道が悪くなっていった感じだ。
闘気術のおかげで、昨日よりはいくらかマシになったものの、やっぱりまだまだだな。




