剣の稽古④
まずい。
この透き通った緑色の謎の液体の味を一言で表現するならば、その言葉に尽きる。
無理やり味を表現しようとするならば、うがい薬や歯磨き粉を混ぜ込んで、ちょっと匂いと味の強い漢方や薬草を混ぜ込んだ感じの味だろうか。
俺のしかめ面を見て、満足した顔を浮かべながらレインが、この謎の液体について説明してくれた。
「これは『鍛錬水』と呼ばれているものなのよ。
身体に必要な栄養素が詰まっている液体で、味ははっきりいってまずいわ!
昔は良く飲んでたけど、サラと組むようになってからは飲んだ記憶が無いわね」
レインがドヤ顔気味で説明しているのが、少し感に触るな。
「サラさんは魔法で水を出せますからね。
この『鍛錬水』は、その名の通り、人を鍛錬させる為に飲ませるものなんです。
私も鍛錬する時は、いつもこの水を飲む様にしてるんですよ。
そのまずさから、飲むことで精神的にも肉体的にも強くなれる気になりますし。
栄養満点の水なので、冒険者や兵隊さんの携帯飲料としても良く利用されていますよ。
まずいので必要以上に飲みたいと思いませんから、必要最低限の栄養と水分を補給するのに適しているんです」
そうなのか、俺もウォーターの魔法が使えるから、飲み水には困ってないけど。
栄養補給の点で考えると、一考の余地はあるかもしれない。
いや、アイテムボックスがあるから大丈夫か。
ちゃんとした美味い飯を食べて英気を養ったほうが絶対いいな。
「それじゃ、水分と栄養補給も終わったし、剣の鍛錬の続きを始めるわよ」
そう言って、レインは木剣を構えるが、俺はまだ鍛錬水を引き摺っていた。
まだ鍛錬水の独特の苦さと匂いが、口の中に残っている感じがする。
なんか胃の中にも鍛錬水が居座っているような感じがするんだよなぁ。
「ほら、セイヤも剣を取って構えなさい。
次は実践形式でいくんだから」
レインに催促されて、俺は木剣を拾う。
実践形式か、闘気術を実戦形式で試せる時が来たな。
いきなり使って文句言われても嫌だし、最初に断っておくか。
「実践形式って事だけど、闘気術を使う練習も兼ねていいのかな?」
この俺の純粋な質問。
なぜか、レインは俺の言葉を鼻で笑った感じの表情を浮かべた。
「闘気術?
闘気術を使う練習ってセイヤには、まだまだ早すぎるわよ。
私が闘気術を扱えるようになるまで、どれだけ時間をかけて、どれだけ苦労したと思ってるのよ。
それでも、いまだに自分で満足できるレベルまで闘気を操る事は出来ないわ。
そうね、セイヤが闘気を使う為の練習をするのは自由だけど、使えるようになるまでに数年はかかるでしょうね。
それも相当な時間と厳しい鍛錬が必要で、それでも確実に使えるようになるとは限らない高度な技よ。
セイヤは魔法の才能があるんだから、そこまでして剣の道に時間と労力を振り向けるのは私としてもオススメはしないわね」
いや、もう闘気術は使えるんだけどね。
闘気術を使う練習って言葉が悪かったのか。
レインは闘気術を使えるようになる為の練習と捕らえたようだ。
「レインさんの言うとおりです。
『闘気は一日にして成らず』
この国の諺です。
闘気を操れるように成るまでには、想像を絶する過酷な道が待っているんです。
自己を見つめ、己の命を燃やし、精神を鍛え、身体を鍛える。
膨大な時間の鍛錬を積んだ先に、一握りの人間だけが使えるようになる高度な技術。
それが闘気術と呼ばれるものなんです。
剣の道を進むものなら、誰もが目指し、そしてその道の険しさに多くが脱落していく。
自らの闘気を纏えるようになって、やっと一人前と認められるほどの技。
もちろん、闘気術というものは奥が深く、『剣を極めるには闘気を極めよ』って言葉もあるくらいに奥が深く、そして必須の技術でもあります。
もちろん、才能あるセイヤさんなら、闘気を纏えるようになるまで、私やレインさんより、費やす時間や労力は遥かに少なく済むかもしれません。
それでも、この世界に来たばかりのセイヤさんでは、流石に闘気の概念すら理解出来ない状態だと思います。
闘気を使えるようになりたいなら、まずは、自分の魔力や生命力を感じれるようになる修行から始めるのをオススメしますよ」
うーん。
ここまで言われると、俺の闘気術と、この世界でいう闘気というものが別物であるという気さえしてきたな。
 




