初めての魔法
まず、すべき事。
それはこの世界で生きていく術を確保する事。
生きていくために最も必要なもの、それは食料である。
さらに言うなら、飲み水の確保だ。
この教会の傍には井戸があるが、日本の清潔な水道水に慣れている俺にとって、とても飲めたようなしろものでは無かった。
勿論、生き死にがかかってる状態なら飲むけど、今はそれほど切羽詰まっているわけではないし。
海外でも水道水は煮沸しないと、とても飲めたものじゃないと聞くし、改めて日本が恵まれた環境だったのだと再認識させられる。
さて、と。
俺は教会の傍の空き地に移動し、魔法の練習を開始する。
俺が取り出したのは、アイテムボックスから具現化した初級魔法カードセットに入っていた、ブロンズの水魔法カードだ。
使える魔法はウォーターの魔法。
これで真水が確保できないだろうかと考えたのだ。
携帯型端末のステータスの欄を開きながら、ブロンズのウォーターの魔法カードにMPを込めていく。
自分のMPが30から20に減るのを見て、MPをカードに流すのを止める。
これでウォーターの魔法カードにMPを10込める事が出来た事になるわけだけど。
ウォーターの魔法カードを持ち、魔法を発動させてみる。
発動しない。
あれ、どうやったら魔法って発動するんだ?
……。
説明書とかないのかな。
初級魔法カードの箱を詳しく調べてみる。
説明書は入っていなかったし、箱に使い方も書いていなかった。
不親切設計だな。
カードにMPを流し込む感覚は分かったので、それとは違う魔法の込め方を色々と試してみる。
持続的な魔力の流入では無く、単発で魔力をカードに入力するイメージ。
ウォーターの魔法と書いてあるぐらいだから、魔法を発動するプロセス自体はこの魔法カードが行ってくれるのだろう。
使用するMP自体も既にこの魔法カードに込められている、ということは必要なものはトリガーとなるもの。
イメージも必要なのだろうか、色んなイメージしながら魔力をカードに込めてみる。
水を沸き起こさせるイメージ。
水の量のイメージ。
魔力を水属性に変えるイメージ。
水の形状を、流れる水をイメージする。
空気中の水分を魔力で集めるイメージ。
何十分ほど試しただろうか。
色んなイメージを行いすぎてたので、どんなイメージが良かったのか分からなかったけど、初めての魔法が発動した。
俺の初めて使った魔法。
それは、ウォーターの魔法であった。
コップの水を溢したような感じで水が出現して、土に染み込んだ。
それから、ウォーターの水魔法カードにMPを流入し、ウォーターの魔法を発動する練習を只管繰り返し続けた。
ウォーターの魔法の練習ついでに、教会に置いてあった入れ物を貸して貰って、ウォーターで具現化した水を入れて、飲み水の確保も行う。
何度も繰り返し、発動率は7割近くまで向上した。
使用MPは補充MPと使用回数の割合からMP2と推測。
今は飲み水の確保と、魔法の練習として最低の威力で魔法を発動しているから、攻撃魔法として使えるレベルだともっとMPを消費するかもしれない。
四属性カードと一緒に入っていたもう一枚のカードは、予想通りMPを補給するマガジンの役割をこなすカードだった。
マガジンカード(今名付けた)にMPを込め、MPを補充したい魔法カードの窪みにはめ込み一体化させると、マガジンに込められたMPが補充したい魔法カードの方に流れる仕組みみたいだ。
水を胃に入れたせいだろうか、胃が刺激されたせいか、なんかお腹が空いてきたな。
こっちの世界に転生する前は17時近くだっただろうか。
お昼を食べてから5時間ぐらい。
こっちの世界に転生してきてから、5~6時間は経ってるし、10時間近く何も食べてない。
そりゃ、お腹もすくわけだ。
水分補給をして、少し休んで落ち着いたせいか、ふと思い出す。
そういえば、小型携帯端末に魔法を発動するモードとか無かったっけ?
ああ、あるわ。
カードも丁度入るサイズ。
場所と使用範囲を指定する。
カメラモードで映っている画面に魔法を発動する場所を指定する感じ。
使用MPは2。
魔法発動。ぽちっとな。
目の前には異常な光景があった。
水柱。そうとしか表現できない。
えっ……。
MP2しか使ってないはずですよね。
うん。
さぁ、食料確保だ!
頭が回ってないのはお腹が空いてるせいだ、そうに違いない。
早くご飯を食べて、どんどん鍛えないとね。
ちなみに、アイテムボックスには携帯食料が入ってる事には入ってるけど、この先何があるか分からないから、出来るだけ長持ちする保存食には手を付けたくないので、まずは狩りに出て食料を確保しておきたい。
飲み水の確保も出来たし、次は食料を求めて森に入る事に決めたのだった。