剣の稽古②
実戦形式で練習すると言ったばかりのレイン。
そのレインの目線が、俺から俺の後ろに移ったのを俺は見逃さなかった。
レインの目線を追うように、俺は後ろを振り返る。
すると、俺の後ろの少し離れた位置に、微笑を佇みながら俺の方を見ているノエルがいた。
いつからいたんだろうか。
少なくとも、俺とレインがこの広場に来たときにはいなかったと思う。
俺の後ろ側にいた事から察するに、俺が必死で剣の素振りをしている時に、俺の死角になる位置に来てから、俺の素振りが一段落するまで待っていたのだろう。
俺からの視線に気付いたノエルが、俺と目線を合わせて俺に微笑む。
うん、いつものノエルだよな。
なのに何故だろうか、こんなにも胸が締め付けられるような感覚に捕らわれるのは。
これが恋というものなんだろうか。
恋ってこんなに切なくて、悲しい気持ちになるものなのかな。
もっと愛おしくなったり、幸せな気持ちになったりするものだってイメージがあったけど。
ノエルの笑顔を守りたいという気持ちは、昨日の話を聞いてから更に強くなった。
でも、他の全てを捨ててでもノエルが欲しいかと言われれば、そこまでの強い情動は無い感じがする。
サラとレインとノエルの誰が一番好きかと考えても、ノエルが一番好きだとも言い難い。
となると、やっぱり恋という感情を抱いているせいではない気がする。
けれど、三人の事を思い浮かべると、一番心が動かされるのはノエルであるのは間違いない。
やっぱり、ノエルの過去の話を詳しく聞いたせいなのかもしれない。
ノエルの身の上話を聞いて、ノエルの境遇に同情してしまっているのだろうか。
自分の感情なのに、自分で上手く言葉にして表現できないもどかしさを抱えながら、俺は意識を現実に引き戻した。
「セイヤさん、お疲れ様です。
あ、これは飲み物です、良かったらどうぞ」
やはり俺が自分から気付くまで、待ってくれていたのだろう。
俺と目があったノエルは、すぐに俺の方に近付いてきて、持っていた飲み物の入ったビンの詮を抜くと、そこに入っている飲み物をコップに注いで俺に渡してくれた。
「これは?
何ていう飲み物なの?」
瓶に入っていた飲み物の色は、少し透き通った緑色で、コップに注がれた飲み物も同じ色。
どうみてもただの水ではない。
「飲んでくだされば分かると思います。
大丈夫です、毒なんて入っていませんから。
セイヤさんが気になさるのでしたら、先に私が飲んでみましょうか?」
俺に微笑みながら、緑色の液体の入ったコップを渡してくるノエル。
「あー、丁度私も喉が渇いてたのよね。
セイヤが飲まないなら、私が貰うわよ」
少し飲むのを躊躇っていた俺の後ろから、颯爽とレインが登場し、コップをひったくるように奪うと、俺とノエルが何か言う前に、コップに入っていた飲み物を一気に全部飲み干した。
「うっ」
飲み物を飲み干した後、呻き声をあげながら少し顔をしかめるレイン。
なんだなんだ、なんなんだその顔は。
まずいんだろうか?
一体、このコップに入っていた、少し透き通った感じの緑の液体は一体なんなんだ。
飲めば分かるとか言ってたけど、俺はこの世界の飲み物なんて水ぐらいしか知らないんだけど。
実際に飲んだレインは、これが何なのか分かったんだろうか。




