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ノエルという女⑰

「それに、若い男だからといって媚を売っているというわけではありません。

 ギルバードさんの紹介なので、ギルバードさんの顔を立てる為にも、仕方なくお会いしてお話してみたというだけの事です。

 それを媚を売っていると表現するなら、私はレインさんとサラさんにも媚を売っていますよ?

 特にサラさん、私はこんなに敵視されているにも関わらず、強めて優しく対応しようとしているじゃないいですか、これを媚を売っていると言わずなんと言うんです」


 完全にいつもの調子に戻ってきているノエル。

 表情もいつもの感じで、少し微笑を浮かべながら話している。

 俺の心が汚れているせいなのか、その微笑も不適な笑顔に見えてしまってはいるのだが。


「表面上を取り繕って、心の中に溜め込み、本心では別の事を考えている。

 それを私は腹黒いと言っている。

 そんな事をされて媚を売られるくらいなら、正々堂々と心に思っている事を口に出して、悪口でも言ってもらった方がまだいい。

 その方がまだ好感が持てる。

 そういう意味では、今日のお前はいつもよりは好感が持てる」


 あら、俺がノエルの過去話をしたせいもあるのか、今のサラはいつもより大人しいというか、そんなに攻撃的というわけでも無いよな。

 好感が持てるとか言ってるし、ノエルにもちょっとデレが入っちゃって来てるんじゃないですか。

 これは関係改善が見込めるいい兆候なのでは無いだろうか。


「なら、セイヤさんを諦めてください。

 そうしたら、私もサラさんに好感が持てます」


 ピクッ。


 あれ、なんでこの台詞が、サラさんの神経に触ってるのかな。

 サラって、俺にそんなに好印象を持ってくれてるの?


「別にセイヤは誰のものでもない。

 セイヤが会う人間は、セイヤの意思で決めるもので、お前が制限していいものではない。

 それはセイヤの可能性を摘む事にも繋がりかねない。

 同じ理由で、お前が結婚という鎖でセイヤを繋ごうとしている事も看過出来ない」


 ああ、この世界の魔法について教えてくれるって言ってたものな。

 自分が目にかけた魔法の才能あるものを諦めろって言われて、腹が立ったのかもな。


「その点は私もサラに同意ね。

 セイヤはこの世界に来てまだ二日目なのよ?

 そんな右も左も分からない素人を、騙す感じで取り込もうなんて関心出来ないわ。

 物事には順序っていうものがあるのよ。

 ノエルちゃん、セイヤを手に入れたいのなら、少しずつ話して仲良くなっていかないと。

 まぁ、セイヤがノエルちゃんを選ぶとは限らないけど、それはセイヤの意思だから、その時は潔く諦めるしかないわね」 


 レインも正論でノエルを諭してるな。

 少しずつ仲良くなっていくっていうくだりは、今日サラに諭されてた内容に似ている気もするけど。


「二人とも自分の都合のいい事ばっかり言ってるじゃないですか。

 私は騙されませんよ!

 大体、何なんですか、二人ともたまたま依頼でこの村に来てただけのくせして。

 私はずっと通い続けたんですよ!

 セイヤさんに会う為に!

 ずっと現れない私の待ち望む人を。

 ギルバードさんはとっくに諦めて、他の若い男を紹介してくるし。

 それでも私だけは諦めてなかったんです、諦めずに通い続けたんです。

 そして、やっと会えたんです、私の理想の男性に。

 才能もあり、容姿も私の想像を超えてるぐらいの美男子。

、性格まで優れていて、自分の才能に奢ることなく向上心もある。

 そして、時には大人顔負けの知性の一端を、時には子供のようにウブな所もある。

 性格も女性を敬う紳士な態度、悪い所も遠回りで優しく諭してくれる。

 私がこの人なら結婚してもいい、私の全てを捧げてもいいと心から思えた男性なんです。

 知り合って一日とか二日とか、そんなものはどうでもいいんです。

 だって、明日や明後日に私達が生きているとは限らないんですから。

 そういう地獄を経験した事がありますか?

 自分以外の知り合いの屍の上を歩いて生きるという経験を。

 私はそれを経験して、今も生きている。

 だから、私は今を全力で生きるんです。

 幸せは待っていても来てくれない、だから自分で掴みにいかないといけないんです」 


 なんか、色々と溜まっていたものが爆発したのだろうか。

 それとも、これがノエルという人間の本当の姿なのかもしれないな。

 いや、表面上を取り繕って笑顔を浮かべているノエルという女も、それはノエルに違いない。


 人間、表の顔もあれば裏の顔もある。

 過去に辛い体験をしている分だけ、その落差が大きくなってしまっているだけなのかもしれない。


 俺はノエルの言葉を聞く度に、人間というものを、ノエルという女の一端を垣間見た気がした。

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