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ノエルという女⑪

 俺は、椅子に座っているノエルの後ろから抱きしめている。


 俺の左手はノエルの左手ごとノエルの身体を被い、右手はノエルの右手をかわして服の上からノエルの身体を抱きしめている。

 ノエルを抱きしめる直前まで、ノエルが右手で自分の涙を拭っていた為、右手だけ俺の抱擁から抜け出してフリーになっている感じだ。

 ノエルはその自由な右手で、そっと俺の右手に触れる。


「セイヤさん……」


 小さくか弱いノエルの声。

 今まで泣いていたせいか、無く前まで興奮して大きな声で話していたせいか、少しだけ息遣いが荒いノエル。

 

 生まれて初めて、自分から女の子を抱きしめている。

 その緊張から、自分の心臓が脈打つ速度がどんどんと上がっているのを感じる。

 血の巡りが早くなり、顔が熱くなり、体中が熱くなってくる。

 

 今、俺の顔は他人から見たらどう映るんだろう。

 間違いなく赤くなってるように見えるだろうな。


 沈黙。


 お互いに何も話さない、二人だけの静かな時間が流れる。


 俺は緊張のあまり、何も考えることが出来ず、ただ高鳴る自分の心臓の鼓動を必死で抑えようと試みていた。

 沈黙の静けさが続く中、自分の息が荒くなって響く声をノエルに聞かれたくないあまり、必死で呼吸を整える。

 深呼吸するかのように、音を立てないようにゆっくりと大きく息を吸い、吐く。

 

 ノエルを抱きしめる腕に力を込めすぎないように、力を緩めた結果、もはや俺の抱擁は抱擁と呼べるシロモノではなくなり、ノエルの後ろから腕を回して、お互いの服が触れて擦り合う程度のものになっていた。


 抱きしめる力を緩めすぎた結果、服越しに感じるノエルの身体と、女性特有の肉付きの柔らかさを腕に感じる事も無くなった。

 それでも、右手に感じる確かな温もり。

 ノエルの肌と俺の肌が直接密着して、お互いの体温と存在を確かめ合うかのように、俺の右手とノエルの右手はずっと重なり続けていた。


 どれくらい経ったか時間感覚も乏しくなる中、長いようで短かった抱擁の時間は終わり、拘束とも呼べない俺の緩い抱擁を解いて、ノエルは俺から離れた。


 椅子から立って俺の抱擁から放たれたノエルは、後ろを振り向いて、俺と顔を合わせる。


 ランプの薄暗い褐色の光が二人を薄暗く照らす。

 泣いたせいか、ノエルの目も顔も少しだけ赤く見えるような気がするけど、気のせいかもしれない。


 俺から離れたノエル。

 

 次の瞬間、気がついた時には、俺はノエルに抱きしめられていた。

 

 今、一体何が起きたんだろう。

 

 優しく強く俺に回されるノエルの腕。

 正面からノエルに抱きしめられ、お互いの顔がお互いの肩の位置に来るぐらい密着する俺とノエル。

 ノエルの声が、俺の耳の傍から聞こえた。


「セイヤさん、ありがとう」


 ノエルの言葉を聞きながら、俺もゆっくりとノエルの身体に腕を回し、抱きしめる。

 正面からお互いに抱きしめあうノエルと俺。


 異世界の可愛い女の子との抱擁に、男としての幸せというものを確かに感じていた。

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