ノエルという女⑧
沈黙が間を支配する。
気まずい雰囲気が漂う。
初めて会った時から、俺の容姿が好みで一目惚れだったと言われた事と、肉体関係を迫られたということで、一応は告白されたという事にはなるのかな。
そして、相手の要求を蹴って断ったので、形的には振ってしまったという事になるのかもしれない。
初めて女の子に告白された、というか、求められたのは嬉しいけど、こんな形になるとは予想もしていなかったというか。
嬉しいようでもあり、悲しいようでもあり、なんとも言えない複雑な気分に苛まれる。
特にノエルの過去や心情を考えれば考えるほど重い気分になり、素直に喜ぶ事なんて出来そうもなかった。
ノエルに何て声を掛ければいいのだろう。
俺に彼女に何か言う資格なんてあるのだろうか。
平和な世界で、安全に何不自由なく暮らしてきた俺が、彼女の望みと希望を踏み躙ってしまった俺が、偉そうに彼女に何か言える資格なんてあるわけがない。
彼女にかける言葉が見当たらない。
何と声を掛けて良いか分からず、ただ沈黙を続ける俺。
そんな俺を見て、ノエルが口を開いた。
「今でも忘れる事が出来ないんです。
あの時の惨状が、悲劇が、今でも鮮明に頭の中に焼きついて離れないんです」
ノエルは両手で自分の頭を抱え、何かを思い出すかのように悲痛な表情を浮かべた。
「私の家族、親戚、友達、幼馴染、私以外全員死にました。
私が生き残ったのは、本当に運が良かっただけなんです。
いえ、私が生き残ることが出来たのは、臆病で卑怯だったからです。
戦うこともせず、囮になる事もせず、村に残ることもせず、ただ逃げただけなのですから」
魔道具のランプが放つ褐色の光が、俺とノエルを薄明るく褐色に照らす。
「今でも私は、あの時から変わっていないんです。
臆病で卑怯な私。
人に嫌われるのが嫌で、笑顔を振り撒き、表面上は愛想良く振舞う。
自分で成し遂げようとせず、人の手をあてにして頼る。
不安で臆病だから、相手の弱みを握って、それで安心したいと望んでいる。
卑怯だから、相手の弱みに付け込んで、相手を騙してでも自分のものにしたいと望んでいるんです」
俯いて話すノエル。
俯いているノエルの表情は伺えず、声は無機質で感情が篭っていなく、ただ自分を卑下して話すノエルの話を俺は黙って聞いていた。




