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ノエルという女⑥

 俺は、ハニートラップという概念を知っている事をノエルに伝えた。

 だから、君の身体を貰って対価として君の要求に答えるつもりもないと、きっぱりと断った。


 すると、ノエルは堰を切るかのように、まるで自分の中で長年溜め続けてきたものを吐き出すかのように話し始めた。


「私の両親が死んだって話は、前にお話しましたよね」


 俺はノエルの対面に座りながら、ノエルの過去話を聞いていた。


「戦火にまみれて、畑は荒らされ、食料や金目の物は奪われ、建物は壊され、何もかも燃やされた。

 命だけは助かったものの、そこは女一人で生きていくには厳しすぎるところでした」


「何も無い村から再興していく為には、お金と物が必要になってきますよね。

 けれど、村は奪いつくされ、燃やし尽くされ、先立つものが何も無い状態。

 そんな何も無い村で、保護者も身寄りも無い年頃の女の子が一人。

 年頃の若い女の子を見て、村の人々はどうしようと思ったと思います?」


「この国には奴隷制というものがあります。

 主に犯罪者やその子供や親族、敵国の人間が、主にその対象になるんですが、身寄りのない子供もその中に含まれるのです。

 もうお分かりですよね。

 私は村の為に奴隷として売られる事になっていたのです。

 若い女の奴隷、どんな用途で買われて、どういう用途で使われるかなんて、言わなくてもお分かりになるでしょう」 


「奴隷落ちし、どんな男の慰みものになるのかも分からなかった。

 その前にいっそ自ら命を絶とうかと考えた事もありました。

 でも、そんな時に、ギルバードさんに出会ったんです」


「ギルバードさんの姿は前にも何回か村でお見かけした事がありました。

 けれど、その時はそこまで親しい仲というわけでもなく、何回かお話した事がある程度ぐらいでした」


「私は全てをギルバードさんに話しました。

 すると、ギルバードさんは私を助けてくれたんです。

 奴隷として売られて得られるはずの分のお金を村に払い、登録上、私はギルバードさんの養女という事になりました」


「あの頃のギルバードさんは復讐の鬼でした。

 私を買ったのも、復讐の為の駒として使えるから。

 でも、あれから色々とあって、ギルバードさんは変わったんです」


「サラさんが、私とギルバードさんの事を軽蔑するのも当然なんです。

 ギルバードさんと私の二人で立てた復讐計画。

 サラさんは、その内容に薄々感付いておられるようでしたから」


「ギルバードさんは変わってしまいました。

 復讐の業火に心を焼かれていたのから立ち直り、今では人としての心を取り戻している。

 けど、私はこの復讐計画を成し遂げることが、私の生甲斐であり、生きる目的へと変わっていっていたんです。

 この復讐計画こそが、ギルバートさんとの繋がりでもあり、ギルバードさんへの恩返しでもあるんですから」


 淡々と話すノエルは、時々笑いながら、薄ら笑みを浮かべたり、満面の笑みを浮かべながらこちらを見たり、どこか落ち着かない様子でありながら、話す内容によっては落ち着いて話してみたり、かなり情緒不安定気味な所が見て取れた。


 ノエルの話を聞きながら、俺は改めてここが安全で平和な日本ではなく、生死の危険がある異世界である事を実感しながら、一人の女の子の一つの人生を噛み締めるように、ただ黙って聞いていた。


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