セイの村にて⑤
「そういえば、ギルバードさんに聞いたんですけど」
俺は目の前の食べ物を黙々と食べながら、ノエルの話を聞く。
「サラさんと、レインさん。
二人がセイヤさんと初めて会った時、二人ともセイヤさんの事を『弱い、弱い』って、セイヤさん本人がいる前で連呼されてたらしいですよね。
実際に、セイヤさんと狩りに行かれた結果はどうだったんですか?
なんか、サラさんが大怪我をされて、セイヤさんの魔法で治してもらったとか聞きましたけど」
ピクッ。
ああ、サラさんに喧嘩売っちゃったなコレ。
「セイヤの剣の腕前を見て言っただけのこと。
剣の腕前を見て、魔法の才能まで見抜けるわけが無い」
ブスッ。
サラが、フォークで肉を突き刺している。
あら、サラさんの神経に触った時の感じがしたけど、ギルバードさんの前だからか、そんなに突っかかっていく感じではないな。
「あの時は『ホントなんなのコイツ?』って思ったわねぇ。
ギルバードさんが手合わせしろって言って来るぐらいだから、相当腕が立つ男だと思ったし。
小手調べで軽く剣をあてただけで、剣が吹っ飛ぶんだもの。
弱いとかそういうのを通り越して、何でギルバードさんが私にこんなのの相手をさせたのか。
そればっかり考えてたかな」
サクッ。
レインが小分けにされた野菜を口に運んで食べている。
「セイヤの才能は剣じゃなくて、魔法だったか。
で、どうなんだ?
魔法の天才児から見たセイヤの将来性は」
ガブッ。
大きく切った肉に豪快に被りつくギルバードさん。
「将来性はもちろんある。
才能も私よりもあるかもしれない。
ただ、セイヤの人生はセイヤ自身のもの。
セイヤの未来はセイヤ自身で決めるもので、私達が押し付けていいものでは無い」
ブスブス。
肉を二回突き刺しているサラ。
「そりゃあねぇ。
けど、ギルバードさんだって、別に己の復讐の為だけに、才能ある若手に目をかけてるってワケでも無いしねぇ」
シャクシャク。
サラダを食べながら喋るレイン。
ギルバードさんの前でそんな事を言ってもいいのだろうか。
結構爆弾発言してるような気がしなくもないんだけど。
あと、レイン、サラダを食べながら喋るんじゃない!
ちゃんと口に含んだものは食べてから話しなさい。
「おいおい、復讐の為だけとか酷いこと言うもんじゃないぞ!レイン。
復讐心が無いと言えば、嘘にはなるがな。
確かに、あの頃の俺は復讐の鬼だった。
あの頃の俺を知っているのは、ここにいる中だと、サラとノエルぐらいか。
でも、今は違うぞ。
あれから守るものも出来たし、守りたいものも出来た。
そして、仲間の大切さ、人との繋がりの強さを知った。
だからなのさ。
あの時の悲劇を繰り返さないためにも、これからこの国を担っていく若い者に強くなって欲しい。
今の俺は本心からそう思っている」
むしゃり。
何か昔を思い出して、感傷に浸ってる感じで、しみじみとした感じのギルバードさん。
それにしても肉ばっかり食べてるな。
余計なお世話かも知れないけど、ちゃんと野菜も食べたほうがいいんじゃないんだろうか。
それからも、食べながら色々と話し、ノエルとサラの小競り合いはあったものの、本格的な衝突や言い合いまでには発展しなかった。
サラとノエルが鉢合わせたから、何か嫌な予感がしたんだけど、気のせいだったな。
やっぱり、ギルバードさんがいるってのが大きいんだろうな。
そう思っていた矢先、女達の戦いは食べ物への戦いへと移り変わっていたのであった。
「あ、それ私が食べようと思ってたやつ!」
「先に食べないのが悪い。
早いもの勝ちに決まっている」
「セイヤさん、それ少し取って頂いても宜しいですか?」
俺がノエルに取って渡そうとしたのを、横から取って食べるサラ。
「セイヤ、私のためにわざわざ取ってくれたのか、すまない」
「サラ、ちょっと意地汚いんじゃないの?
見た目と違って、かなり食い意地が張ってるわよね」
「レインに言われたくはない」
異世界の食卓は、まさに戦場であった。




