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異世界人

「おい、誰かいるのか?」


 野太い男の声に、俺の意識は魔法カードから近付いて来る男へとシフトする。

 反射的に魔法カードを入っていた箱の中に入れ、ズボンのポケットの中に突っ込む。

 そして、先ほど具現化しておいた鉄の剣を手にして、部屋の外の様子を伺う。

 鞘に入った鉄の剣はずっしりと重い。

 日本にいた時は、竹刀や傘などを振って剣術の真似事をした事ならあるが、本物の剣を振ったことは無かった。

 先ほど剣を具現化した時に、剣を鞘から出して何回か素振りをしてみたのだが、剣は予想以上に重く、思うように剣を振りまわす事が出来なかった。

 鉄の剣は、両刃のロングソードであり、長さは一メートルより少し短いくらいだろうか。

 柄部分、いわゆるグリップには布が巻いてあるが、強く握り締めると鉄の質感が手に伝わってくる。

 バッティングセンターで数時間バットを振っただけで、手には豆が出来ていたのを思い出した。

 鉄の剣を素振りすれば、あの時と同じように手に豆が出来るだろう。

 それが潰れ固まり、硬くなるのを繰り返し、それによって剣にあった手に変わっていくんだろうな。


 横道にそれていた思考を元に戻して、部屋の外の様子を伺う。

 男の声のした方向、こちらに向かってくる人の気配がする。

 一人では無く、二人。

 一人は強い気配、戦い慣れしているのか、少しの緊張感と殺気が混合しているような熟練の戦士を思わせる気配。

 もう一つは弱弱しい気配。女か子供だろうか。戦いの緊張というより、守られている緊張感、そんな弱弱しい一般人の気配。

 

 俺は剣を鞘に入れたまま、布の服を固定しているベルトに鞘ごと固定し、部屋から出て二人の前に立つ。


「初めまして」


 初めての異世界人との邂逅。

 それは隻腕隻眼のヒゲ男と、可愛らしい少女の二人であった。

 

「初めて見る顔だな」


 一番最初に口を開いたのは、隻腕隻眼のヒゲ男。

 左腕が無く、右手は腰の剣をいつでも抜けるように柄に手がかかっている。

 左目には眼帯がしてあり、右目には古傷を思わせる斜めに切られた傷跡が歴戦を思わせる。

 まじまじと俺の顔を見る二人。

 ヒゲ男の方は、俺の全身を一瞥すると少し警戒を緩めたのか、臨戦態勢に入っていたような緊張感が若干和らぐ。


「私はノエルといいます。

 貴方は?」


 次に口を開いてくれたのは、可愛らしい少女だった。

 素朴な感じでいて、ファンタジーの世界にいるような少女。

 黒髪では無く、白色に近い金髪が少女が日本人で無いという事を強く俺に印象付けた。


「勝手に建物にお邪魔してしまって申し訳ありません」


 この男と少女の建物では無いような気もするし、転生先がこの建物内ではあったので不可抗力ではあるのだが、ここを拠点にさせて貰っていたのも事実、素直に二人に謝っておく。

 さて、どう言い訳したものか。

 無難なものだと、旅の途中に寄らせて貰った。

 テンプレ解答だと、記憶喪失とかか。


「私はセイヤといいます。

 旅の途中、ここに建物があるのを発見しまして、休憩させて頂こうと立ち寄らせて貰いました所、誰もいらっしゃらなかったようなので、無断で悪いとは思いつつ、勝手に部屋をお借りして休ませていただいておりました。

 無断で建物に入った事、重ね重ねお詫び申し上げます」


 こちらが悪いので、下手下手に出たこのお詫び戦法。

 日本だと住居不法侵入だが、魔物とか出て命の危険があるこの世界なら緊急避難とかも適応されるに違いない、正当な理由もある事だし、そもそも不可抗力だしなぁ。


「ギルバードだ。

 そんなに畏まる必要は無い、警備はしているが俺の所有物というわけでもないしな」

 

「立ち話もなんですし、続きはそちらででも」


 ノエルの薦めで、俺達三人は祭壇みたいなものがある、この建物で一番広い部屋に移動する。

 椅子を取り出し、俺を対面にする形で座る二人。

 俺は敵意の無いのを行動で表す意味も含めて、腰に付けている剣を外し、壁に立てかけた。

 ギルバードは手を柄にこそかけていないものの、剣は腰についたままである。


「ここは、転生の間と呼ばれる部屋なんですよ」

 

 純真そうな少女、ノエル。

 白肌に薄白金髪の素朴な感じの少女。

 薄茶色の布の服が、ノエルの肌の白さを際立たせている。

 窓から差し込む光だけが室内を照らしているので、室内は少し薄暗い。

 この薄暗さでも、これだけ近い距離なので分かる。

 化粧なんかはしていない、素肌でこの白さなのだ。

 明らかに日本人では無い姿形の少女が話す様を俺は静かに聞いていた。


「この教会が建っている場所。

 あ、教会というのは、私達がそう呼んでいるこの建物の名称です。

 それでですね、この教会が建っているこの場所は、生と死を司る転生地と呼ばれていまして、その場所の上にこの教会が建てられて、死者の供養などをする場所になっているというわけなんですよ。

 教会の周辺には死者を供養するためのお墓も建てられていて、ギルバードさんはこの教会の警備を担当されているんですよ。

 私はギルバードさんに無理を言って、いつも無理やり付いてきちゃってるだけの足手まといなんですけどね。」


「いや、足手まといではない。

 ノエルに雑事をこなして貰えて助かっている。

 なんせ俺はこういう身なんでな」


 ギルバードは右手をあげて隻腕であるという事をアピールしながら、ノエルを気遣う仕草をみせた。


「で、だ。

 この地は転生の地と呼ばれている。

 そして、俺はこの場所の警備を任されている。

 低級とはいえ、周辺には魔物も住み着いているし、よからぬ輩が住み着いて、この神聖な地を荒らされても困るからな」


 先ほどノエルに見せた気遣いと優しさと変わり、俺に対して鋭い目線を向ける。


「警備を任されている立場として、お前に改めて問おう

 お前は何者だ?

 どこから来た?」


「先ほども申しました通り、旅の途中で立ち寄らせて頂いたセイヤです。

 東の方の小国、ジャパンという国から来ました」 


「嘘だな」


 どう受け答えしようか、頭の中で考えながら話していた所、ギルバードの言葉に話を折られてしまう。


「俺は一通りこの周辺を渡り歩いたことがある。

 この身になるまでは、そこそこ名の知れた冒険者だったんでな。

 ジャパンという国など聞いたこともないぞ」


「ギルバードさん、そう意地悪しなくてもいいじゃないですか」 


 ギルバードの問答から助け舟を出してくれたのはノエルだった。


「セイヤさん、セイヤさんは異世界から転生なさってきたんじゃないですか?」


 ノエルからの言葉に俺の心臓は高鳴った。

 どう説明しようか、どう誤魔化そうかと考えてた俺に予想外の一撃だったからだ。


「この場所は転生の間。

 以前にも、セイヤさんのような異世界から転生してきた人がいたんですよ」


「その壁に立てかけている剣。

 どうみても新品で、使い込まれているようには見えない。

 汚れも殆ど無く、手入れされた形跡も無い。

 そして、おまえ自身だ。

 手も足も、身体付きも、戦いをこなしてきた者の身体では無い。

 手は剣を握ったことも無いような、細く綺麗な手だ。

 恐らく剣を振ったことも無いんだろう、戦いを経験した事すら殆ど無いはずだ。

 温室育ちの貴族が護衛を連れて移動中に襲われて、逃げ出してここに逃れたという線も考えたが、ここ周辺は低級の魔物しかおらず、盗賊の類も聞いたことが無い、しかも周辺で馬車が通った形跡も無かったどころか、お前がこの教会まで歩いたという痕跡すら無かった。

 この地は転生の地。

 過去には異世界から来たものが、この地に舞い降りたという話もある。

 となると、お前は異世界から転生して来た者。

 俺とノエルはそう考えているわけだが、実際の所はどうなんだ?」


 「大丈夫です、セイヤさん。

 私もギルバードさんも悪い人じゃないですから。

 ですから、本当の事をおっしゃってください」


 そうか、さっき少し見られただけで、そんなに考察されていたんだな。

 ギルバードさんの見た目から、そこまで頭が切れる男だとは想像していなかった。


「お二人のご想像の通りです。

 私は異世界にある日本、東の島国であるジャパンという国から転生してきました」


「やっぱり!」


 俺の言葉に対する二人の反応は違った。

 ギルバードは自分の考察が当たっていたというのよりは、信じられないといった感情を含んでいるのを隠そうとするような表情と仕草。

 ノエルの方は逆に、驚きよりも、何故か喜びに近い表情になっている。


「異世界から、神によってこの世界に送られた異世界人。

 異世界に送られる際、神によって特殊な力を与えられると聞き及ぶ。

 過去にこの世界に舞い降りた転生者達は、その天から与えられた才能と力を発揮し、この世界に多大な影響を及ぼす存在となった。

 その力に対する尊敬と畏敬を込めて、俺達はこう呼ぶ。

 

 『マスター』 と 」


 

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